「悪しき事は言わざる(Speak No Evil)」は、ウェイン・ショーター(Wayne Shorter)の、そして「新主流派 (New Mainstream)」と呼ばれたミュージシャンが残した代表作です。
ちなみに「See No Evil, Hear No Evil, Speak No Evil」で、日本でもお馴染みのことわざ
「見ざる、聞かざる、言わざる」という意味になるそうです。
1964年前半までアート・ブレイキー(Art Blakey)率いるジャズ・メッセンジャーズで音楽監督を務めていたウェイン・ショーター(Wayne Shorter)。
バンドではモード奏法を取り入れた曲を演奏し、トロンボーンを加えた3管編成で重厚なるアンサンブルを聴かせていたようです。
マイルス・デイビス(Miles Davis)からの執拗なる勧誘があった為、1964年の秋頃に(半ば強引に)引き抜かれてマイルスのバンドに移籍・・・マイルスとのヨーロッパツアーの後、クリスマス・イブに録音されたのが「Speak No Evil (Blue Note BST-84194) 」という訳です。
日本の表現だと夕暮時、昼と夜が交差する「逢魔時(おうまがとき)」にピッタリなアルバムであり、魑魅魍魎が闊歩する時間帯を描いているのが「Speak No Evil」だと思ったりします。
なお「逢魔時(おうまがとき)」については、鳥山石燕の『今昔画図続百鬼』に描かれた「逢魔時」を参照下さいませ・・・。
1曲目「魔女狩り(Witch Hunt)」はファンファーレの如き、ど派手なイントロから始まり、テーマ部の盛り上げ方も凄まじい1曲。猛然と煽るエルヴィン・ジョーンズ(Elvin Jones)、ハービー・ハンコック(Herbie Hancock)を相手にショーターは悠然と摩訶不思議なソロを展開。続くフレディ・ハバード(Freddie Hubbard)は、逃げ惑う魔女の叫びでも表現しているような強烈なブローを聴かせます。
2曲目の「Fee-Fi-Fo-Fum」は、「ジャックと豆の木」など西洋民話の中で、巨人が近くに人間の気配を感じ取った時に言う「決めセリフ」のようです。ハービー・ハンコックの耽美なイントロから始まり、巨人がのっしのっしと闊歩する様子を表すかのようなテーマが演奏されます。先発のフレディはパワー全開、続くオーバー・ブロウ気味のウェイン・・・。
3曲目の「死体の踊り(Dance Cadaverous)」は、3拍子で沈鬱気味に展開する曲。ハービーの耽美なソロがとっても映えます。
4曲目の表題曲「悪しき事は言わざる(Speak No Evil)」は、マイナー調ながら軽快にスイングする1曲。テーマ途中(Bパート?)におけるド派手なアンサンブルは、ジャズ・メッセンジャーズを彷彿とさせます。
5曲目「幼子の眼差し(Infant Eyes)」は、ハバード抜きのカルテットによる耽美なバラッドです。ショーターが創り出した独特な雰囲気をハンコックがよりダークに染め上げます。
6曲目「野草(Wild Flower)」は、6/4 拍子のマイナー調ミディアム・ナンバー。
ジョン・コルトレーンのカルテットでも、3拍子で猛烈にスイングしていたエルヴィン・ジョーンスのドラムが聴き所。
Wayne Shorter - Speak No Evil +1 (RVG)
Blue Note BST-84194 / 7243 4 99001 2 7 [1999]
side 1 (A)
01. Witch Hunt (Wayne Shorter) 8:11
02. Fee-Fi-Fo-Fum (Wayne Shorter) 5:54
03. Dance Cadaverous (Wayne Shorter) 6:45
side 2 (B)
04. Speak No Evil (Wayne Shorter) 8:23
05. Infant Eyes (Wayne Shorter) 6:54
06. Wild Flower (Wayne Shorter) 6:06
CD Bonus Track
07. Dance Cadaverous (alternate take) (Wayne Shorter) 6:35
Freddie Hubbard (tp #1-4,6,7) Wayne Shorter (ts) Herbie Hancock (p)
Ron Carter (b) Elvin Jones (ds)
December 24, 1964 at Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ.
ウェイン・ショーター(Wayne Shorter)が、1964年後半から残した録音をざっと紹介。
1964年08月03日「Wayne Shorter - Juju (Blue Note BST-84182)」
1964年09月25日「Miles In Berlin (CBS (G) SBPG-62976)」
1964年12月24日「Wayne Shorter - Speak No Evil (Blue Note BST-84194)」
※今回紹介したアルバム
1965年01月20-22日「Miles Davis - E.S.P. (Columbia CS-9150)」
以降のマイルス・デイビス・バンドでの活躍については、機会を改めて・・・。