クリフォード・ブラウン(Clifford Brown)と同様、短命ながらマックス・ローチ(Max Roach)や、エリック・ドルフィー(Eric Dolphy)との共演で、強烈な印象を残すトランぺッターが、今回ご紹介するブッカー・リトル(Booker Little)。
伝統から突き抜けた奔放なフレーズが魅力のトランぺッターでもあります。
そんな彼が、1960年04月に録音した唯一のワンホーン・アルバムが「Booker Little (Time) 」。
私がジャズのアルバム紹介し始めた最初期、「妙なるトランペットの響き」という言葉を使ってブッカー・リトルの音色を表現してましたが、その思いは今も変わりません。
あと、今も昔も、ベースのスコット・ラファロ(Scott LaFaro)目当てでジャズ喫茶にてリクエストしたり、ご自宅にてこのアルバムを聴き続けてる方が多いと思われますが、わたしも同様(笑)。
ピアノは名盤請負人、トミー・フラナガン(Tommy Flanagan)なんですが、スケジュールが合わなかったのか、2曲だけウイントン・ケリー(Wynton Kelly)が代わりに弾いております。
演奏曲目に目を向けると1曲目「Opening Statement」と、2曲目の「Minor Sweet」が白眉かなと。
特に2曲目の頭(1分4秒間くらい)、ドラムスのロイ・ヘインズ(Roy Haynes)だけをバックに綴られるフリーテンポで奏でられる「プゥワアアーーー♪」いう感じの高音ロングトーンは、何度聴いてもぞくぞくしてしまいます。
全曲ブッカー・リトルのオリジナルかと思いきや最後、6曲目の「Who Can I Turn To」だけは、スタンダードナンバー。
そういえばこの曲、ウイントン・マルサリス(Wynton Marsalis)も演奏してましたね。
まあ、全曲通して聴き終えた後、スポーツの後のような、至福感、爽快感に包まれるアルバムだったりします。
Booker Little – Booker Little (1960)
Time Records S/2011 / Teichiku TECW-20631 [1997.12.17]
Series 2000 / Hi-Bit-Hyper Mastering Collections
side 1 (A)
01. Opening Statement (Booker Little) 6:40
02. Minor Sweet (Booker Little) 5:38
03. Bee Tee's Minor Plea (Booker Little) 5:37
side 2 (B)
04. Life's A Little Blue (Booker Little) 6:50
05. The Grand Valse (Booker Little) 4:55
06. Who Can I Turn To (Anthony Newley, Leslie Bricusse) 5:25
#01,02,05,06 April 13, 1960 in NYC.
Booker Little (tp) Tommy Flanagan (p) Scott LaFaro (b) Roy Haynes (ds)
#03,04 April 15, 1960 in NYC.
Booker Little (tp) Wynton Kelly (p) Scott LaFaro (b) Roy Haynes (ds)
私が持ってる1997年に発売されたCDには、「Re-recording Engineer」なる謎のクレジットがありますが。
どうやらこの「Booker Little (Time) 」というアルバムは、マスターテープが紛失してるらしく、現在発売されているCDのマスターは、オリジナル・アナログ・レコードを使用してるんではないかと、推測されます。
ちなみに他のタイム(Time Records)のアルバムには「別テイク」が多数収録されていたりするんですが。
この人気盤「Booker Little (Time) 」は、オリジナルアルバム収録曲のみ・・・という不思議な対応の「謎」の答えが、そこ(マスターテープが存在しない)に隠されている気がします。
さて、話は変わりますが。
60年代のジャズ・シーンでブッカー・リトル(Booker Little)のように、力強く澄んだ音を出すトランぺッターは居ないのではないか、と思われます・・・。
同時期に活躍したフレディ・ハバード(Freddie Hubbard)は「ヴァー」といった感じで、タンギングがもっと強烈。
フレディのちょっと後に登場するウディ・ショウ(Woody Shaw)も「ヴァア、ヴァー」というようにもっとダークな音だと思われます。
☆His Tone is clear, strong, and warm. - Nat Hentoff [from Album Linor Notes]
ジャズ評論家ナット・ヘントフ(Nat Hentoff)がライナー・ノーツに書いた通り、ブッカー・リトルのトランペットの音色は、大げさに書けば「天上の天使の奏でる音」と錯覚しそうになるほど、とても澄み渡っています。
多分、ジャズを演奏する前にクラッシックを演奏した経験があるんでしょうねえ。
トランペットを演奏した事がある方はご存じかと思われますが、クラッシックとジャズでは奏法に対する認識が若干異なります。
クラッシックでは「邪道」と言われる奏法で、私含めたジャズミュージシャンは、平気(笑)で演奏します・・・。
具体的な例では、ダークな音を出すためにマウスピースに唇を強く押し当てる奏法は、「邪道」なんだそうで、クラッシック奏者の方々は、澄んだ音色を出すため、唇を軽くマウスピースにあてて、振動させてるんだそうです・・・そうすると綺麗な音は出ますが、音色的にジャズ向きじゃない(笑)。
小川隆夫「ジャズマンがコッソリ愛するJAZZ隠れ名盤100(河出書房新社)」には、ブッカー・リトル(Booker Little)の奏法の特徴を、フレディ・ハバード(FreddieHubbard)とウディ・ショウ(Woody Shaw)が語った記述がありますので、それを参考にしつつ紹介致します。
その前に、ブッカー・リトル、フレディ・ハバード、ウディ・ショウという3名のトランぺッターの共通点は、エリック・ドルフィー(Eric Dolphy)の音楽に触発され自己の演奏スタイルを発展させた、という点です。
最初に、フレディ・ハバードの話によると。
「伝統的なスタイルをベースにして、そこにアヴァンギャルドな要素を付け加える」というのが、当時の最先端なスタイルであり、エリック・ドルフィーの演奏はまさにその点で秀でていた様です。
また、ブッカー・リトルの演奏は「想定外の展開を示すところに特徴」があったそうで、彼ら3人の演奏を思い浮かべると、「なるほどー」と思う指摘だったりします。
フレディ・ハバードとブッカー・リトルの演奏スタイルが似ている事から、同じようなセッションに起用されていたという小川隆夫さんの指摘にも納得。
次に、ウディ・ショウの話。
ブッカー・リトルは「ハーフ・ヴァルブでホーンを吹き、トーンや音程を微妙に変化させる」スタイルをマスターしており、「息継ぎを最初になるべく早い時点で一度やって、その後はなるべく長い時間一気に吹く」奏法が得意だった事を特徴として挙げております。
これも、なるほどーという指摘ですね・・・・。
最後に、ブッカー・リトル(Booker Little)の気になる参加作品を挙げておきます。
●Max Roach + 4 At Newport (EmArcy MG-36140)
July 6, 1958 at Newport Jazz Festival, Newport, RI.
●Young Men From Memphis - Down Home Reunion (United Artists UAL-4029)
April 15, 1959 at Olmsted Sound Studios, NYC.
☆Booker Little - Booker Little (Time 52011)
April 13 & 15, 1960 in NYC.
●Max Roach's Freedom Now Suite - We Insist! (Candid CJM-8002)
August 31 & September 6, 1960 at Nola Penthouse Sound Studios, NYC.
●Booker Little - Out Front (Candid CJM 8027)
March 17 & April 4, 1961 at Nola Penthouse Sound Studios, NYC.
●Booker Little - Booker Little And Friend (Bethlehem BCP-6061)
Summer 1961 in NYC.
●Eric Dolphy At The Five Spot Vol. 1 (New Jazz NJLP-8260)
July 16, 1961 at Five Spot Cafe, NYC.
アヴァンギャルド系の濃い作品が多いのも、ブッカー・リトル(Booker Little)の特徴ですね。