加持顕のジャズに願いをのせて

新潟在住の加持顕(かじあきら)が、ジャズの名盤について個人的感想を気まぐれに投稿。

「Andrew Hill - Grass Roots (Blue Note) 1968」過激な時代に作られた穏やかなアルバム


アンドリュー・ヒル(Andrew Hill)が1968年08月に録音したアルバム「Grass Roots(BST-84303)」は、アンドリュー・ヒルのバラエティーに富んだ穏やかな面も垣間見える、魅力満載の1枚。

 

「Andrew Hill - Grass Roots (Blue Note) 1968」過激な時代に作られた穏やかなアルバム

フロント陣は、トランペットにリー・モーガンLee Morgan)、テナー・サックスにブッカーアービン(Booker Ervin)という豪華さ。

 

「Andrew Hill - Grass Roots (Blue Note) 1968」過激な時代に作られた穏やかなアルバム

※ジャケット裏の写真は「Discogs」からお借りしました。

 


さて、「Grass Roots(BST-84303)」でお勧めの1曲は「Mira」です。

 


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(原盤)ライナーノートには「ジャズとラテンが融合(フュージョン)した曲」と書いてあり、ウキウキするようなリズム・パターンに乗り、アンドリュー・ヒルの珍しく軽快なソロが堪能できます。

 

この曲は、アッパー・ウエスト・サイドに住むイタリア移民の子供達の叫び声「Mira !」からヒントを得て造った曲なんだそうで。

 

「Mira !」はイタリア語で「見ろ!」という意味合いの「注意を喚起する言葉」なんだそうです。

 

そういえばハービー・ハンコック(Herbie Hancok)の大ヒット曲「Watermelon Man」も、街の路上に居た「スイカ売りの掛け声」をヒントに造ったものでしたね・・・。

 

 


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1曲目「Grass Roots」は、穏やかな雰囲気漂っており、1989年のブルーノート復帰作「Eternal Spirit(Blue Note)」にダイレクトに繋がる演奏が聴ける1曲。

 


続くアップテンポの「Venture Inward(自身の探求?)」は、アンドリュー・ヒルはもちろんのこと、リー・モーガンの短いながらも思い切りのよいトランペット・ソロが楽しめます。

 

ゴキゲンなノリの「Soul Special」では、リー・モーガンがお得意のハーフ・バルブを交えたジャズ・ロック調のトランペット・ソロをたっぷり聴かせてくれます。

 

ラストの「Bayou Red」は、マイナー調3拍子のジャズ・ワルツ。

 


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ここでブッカーアービンが、アラビア音階をうまく使い、ティナ・ブルックス(Tina Brooks)を髣髴とさせるエキゾチック寄りなテナーサックス・ソロを聴かせてくれます。

 

Andrew Hill - Grass Roots +5 (SBM)
Blue Note BST-84303 / 7243 5 22672 2 4 [2000]
Blue Note Connoisseur Series


side 1 (A)
01. Grass Roots (Andrew Hill)  5:39
02. Venture Inward (Andrew Hill)  4:44
03. Mira (Andrew Hill)  6:17

side 2 (B)
04. Soul Special (Andrew Hill)  8:20
05. Bayou Red (Andrew Hill)  7:43

CD Bonus Tracks
06. MC (Andrew Hill)  9:08
07. Venture Inward (First Version) (Andrew Hill)  4:31
08. Soul Special (First Version) (Andrew Hill)  8:48
09. Bayou Red (First Version) (Andrew Hill)  5:55
10. Love Nocturne (Andrew Hill)  7:33


#01-05 August 5, 1968 at Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ.
Lee Morgan (tp) Booker Ervin (ts) Andrew Hill (p) Ron Carter (b) Freddie Waits (ds) 

#06-10 April 19, 1968 at Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ.
Woody Shaw (tp) Frank Mitchell (ts) Andrew Hill (p) Jimmy Ponder (g #6,8,9) 
Reggie Workman (b) Idris Muhammad (ds) 

 

グラス・ルーツ+5

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私が所有するCDのボーナストラックには、本編に先駆け1986年04月に録音された演奏も収録されております。

 

トランペットにウディ・ショウ(Woody Shaw)、テナーサックスにフランク・ミッチェル(Frank Mitchell)を迎え、曲によってはギターが入ったりするのですが。

 


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1968年09月にメンバーを変え、再録音した理由が何となく察する事が出来る、ちょっとぎこちなく、まだ「仮仕上げ」的なテンション低めの演奏である様に思えます。

 


1997年にピアニストのステファノ・ボラーニ(Stefano Bollani)が参加したアルバム「Up Up with The Jazz Convention (Schema Records SCCD-306)」で、アンドリュー・ヒルの「Mira」がカバーされたりすることを考えると、最初からこの路線で行けばもっと売れたのに・・・と思ってリします。

 

 

まあ、アルバム「At the Pershing: But Not for Me (Argo)」が大ヒットしたアーマッド・ジャマル(Ahmad Jamal)の様に、カクテル・ピアノ風にも弾けるアンドリュー・ヒル(Andrew Hill)なんですが。

 

バット・ノット・フォー・ミー (紙ジャケット仕様)

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登場した時代が、音楽が社会情勢に引きずられ、過激な方向に向かっていく1960年代であったのが正直、よろしくなかったんでしょうねえ。

 

エターナル・スピリット

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ルフレッド・ライオンの後押しもあり、1980年代にブルーノートに復帰したアンドリュー・ヒルの作品は、この「Andrew Hill - Grass Roots(BST-84303)」路線の延長線上にあると思われるので、興味のある方は是非とも聴いてみて下さいませ。