アップ・テンポの火を吹くかのようなソロ、一転してしみじみとしたバラードにおいても、かすれ気味だが艶のあるハスキー気味な音で、飄々と独特のメロディを吹き綴る、哀愁のハード・バップ・トランぺッター、ケニー・ドーハム(Kenny Dorham)。
ビバップ時代から活動し、アルトサックスの巨人、チャーリー・パーカー(Charlie Parker)のバンドにマイルス・デイヴィス(Miles Davis)の後任として参加する頃から話題となり、リーダー不在のバンド、ジャズ・メッセンジャーズ(The Jazz Messengers)への参加した事からも、日本で人気が高いトランペット奏者の一人です。
今回のアルバム「'Round About Midnight At The Cafe Bohemia (Blue Note BLP-1524)」は、ジャズ・メッセンジャーズを退団し結成したものの、短期間の活動のみで消えた幻のバンド「ジャズ・プロフェッツ(Jazz Prophets)」でのライブ録音です。
アルバム発売元であるブルーノート(Blue Note Records)の意向で、当時売り出し始めたギター奏者、ケニー・バレル(Kenny Burrell)をゲストに迎えております。
シングル・トーンで第3のホーン奏者のように演奏するケニー・バレルの参加は、このアルバムの魅力の一つでもありますね。
その他のメンバーはテナーサックス奏者のJ.R.モンテローズ(J.R. Monterose)、ピアノにはボビー・ティモンズ(Bobby Timmons)、ベースがサム・ジョーンズ(Sam Jones)、ドラムスがアーサー・エッジヒル(Arthur Edgehill)といった布陣。
ライブアルバムに収録された楽曲のうち1曲目の哀愁感漂う「Monaco」、3曲目アップテンポで演奏される「Mexico City」、6曲目も同じくアップテンポの「Hill's Edge」の3曲がケニー・ドーハム(Kenny Dorham)のオリジナルで、どの曲も、典型的なハードバップ・スタイルの楽曲かと思われます。
セロニアス・モンクの代表曲である2曲目「'Round About Midnight」は、アルバム・タイトルにも採用されている通り、このライブアルバムの代表曲です。
マイルス・デイヴィス(Miles Davis)が演奏したバージョンに似通った雰囲気で始まりますが、J.R.モンテローズ(J.R. Monterose)の渋すぎる演奏に続き、ケニー・ドーハム、ボビー・ティモンズと抑制されたソロが展開されていきます。
ミディアム・テンポで演奏される4曲目、デイジー・ガレスピー(Dizzy Gillespie)の名曲「A Night In Tunisia」は、ケニー・ドーハムの代表曲「Lotus Blossom」と同じ雰囲気で演奏していたのですね。
ケニー・ドーハム、J.R.モンテローズ、ケニー・バレルのフロント陣がいずれも、倍速でソロを演奏したり、ケニー・バレルのソロの途中、さりげないバックアンサンブルが演奏されたりと、各所に仕掛けが施されているのは、レギュラー・バンドならでは。
バラッドで演奏される5曲目のジャズ・スタンダード「Autumn In New York」の前には、ケニー・ドーハム自ら曲紹介するアナウンスを聴く事が出来ます。
「Thank You ・・・(中略)・・・ Autumn In New York! 」という、かわいい感じのケニー自身のアナウンスから、ボビー・ティモンズ(Bobby Timmons)のピアノ・イントロに導かれ演奏はスタートします。
しみじみと、一音一音噛みしめるように吹き綴るケニーのトランペット、ライブ・ハウスの一番隅でいいから、生で聴いて見たかったですね。
1984年頃、東芝EMIさんからマイケル・カスクーナが発掘した「未発表曲」が、アナログレコードで「Vol. 2」、「Vol. 3」として分散発売された事がありますので、参考までにジャケット掲載しておきます。
BNJ-61003 Kenny Dorham - 'Round About Midnight At The Cafe Bohemia Vol. 2 (1984)
BNJ-61004 Kenny Dorham - 'Round About Midnight At The Cafe Bohemia Vol. 3 (1984)
現在は、発掘された音源を2枚組CDとしてまとめた「完全版」、「完全版」CDを「Vol. 1」、「Vol. 2」として分割発売されたもの、オリジナルアルバムに4曲追加されたバージョンなど、様々なバージョンで発売されておりますので、ご購入の際は追加曲の有無などを確認してからお買い求めになる事を推奨致します。
Kenny Dorham - 'Round About Midnight At The Cafe Bohemia
Blue Note BLP-1524 / 東芝EMI TOCJ-6426 [2004.07.22]
side 1 (A)
01. Monaco (Kenny Dorham) 6:43
02. 'Round About Midnight (Monk) 7:45
03. Mexico City (Kenny Dorham) 6:01
side 2 (B)
04. A Night In Tunisia (Gillespie, Robin) 9:42
- Autumn In New York Tittle Call by Kenny Dorham
05. Autumn In New York (Vernon Duke) 4:33
06. Hill's Edge (Kenny Dorham) 8:20
Kenny Dorham And The Jazz Prophets With Kenny Burrell
Kenny Dorham (tp) J.R. Monterose (ts #1-3,4,6) Kenny Burrell (g #1,3,4,6)
Bobby Timmons (p) Sam Jones (b) Arthur Edgehill (ds)
May 31, 1956 at Cafe Bohemia, NYC.
「ジャズ・プロフェッツ(Jazz Prophets)」というバンドですが、クリフォード・ブラウン(Clifford Brown)が1956年06月26日に交通事故死した事により、後任のトランぺッターとして参加する事をマックス・ローチ(Max Roach)に懇願されたのか、あっさりと解散してしまいます。
1956年09月には「Max Roach + 4 (EmArcy MG-36098)」が録音されているので07月、遅くても08月頃にはジャズ・プロフェッツを解散し、マックス・ローチのバンドに参加していたと推測されます。
ついでに。
トランペットの場合、ハッタリの効いたド派手な演奏が好まれる傾向があるので、アート・ファーマー(Art Farmer)とかケニー・ドーハム(Kenny Dorham)辺りは、ジャズ喫茶で「玄人受けする」存在という印象があります。
ケニー・ドーハムの「Kenny Dorham - Quiet Kenny (New Jazz NJLP-8225)」は、抒情的なバラードが印象深い事から、人気が出ているのでしょうね。
前述の通り「Kenny Dorham - 'Round About Midnight At The Cafe Bohemia (Blue Note BLP-1524)」は、オリジナルアルバムに4曲追加されたバージョンや、「完全版」としてCD2枚に当時の演奏順に並べられたバージョンなど多種多様なCDが発売されております。
今回のアルバムレビューを書くため、一旦手放した紙ジャットCDを買い直し聴いてみましたが、やはり厳選された曲だけを収録したオリジナル・アルバムのバージョンが、一番聴きやすいかと思います。