アルバム・ディスコグラフィー等で録音データを眺めると、ホレス・シルヴァー(Horace Silver)にとって1956年という年が重要な節目であった事が分かります。
1956年前半は、リーダー不在の人気バンド「ジャズ・メッセンジャーズ(The Jazz Messengers)」の一員として活動しておりましたが、世に名高い「ジャズ・メッセンジャーズ分裂騒動」により、アート・ブレイキー(Art Blakey)と袂を分かち、他のメンバーを引き連れて独立。
まあ、ホレス・シルヴァーの話によると、アート・ブレイキー(Art Blakey)以外のメンバーは、ホレス自身のバンドで演奏するメンバーをそのまま起用していた様で、分裂の際、「ジャズ・メッセンジャーズ(The Jazz Messengers)」の看板を残し、アート・ブレイキーだけ取り残されるのは、当然の流れだったらしいですが。
アート・ブレイキーはこの頃、すでにイスラム教に改宗し「Abdullah Ibn Buhaina」の名前を授かっていたようで。
ホレス・シルヴァーによると、分裂騒動はそんな宗教上の問題(意見の相違)で発生したという事ですが、アート・ブレイキー自身の発言は未だ見た事ないので、真偽は不明。
分裂騒動を経て、ホレス・シルヴァーは1956年後半以降「ホレス・シルヴァー・クインテット(Horace Silver Quintet)」名義の恒久バンドを旗揚げし、その後、2000年初頭まで世界中をツアーで巡る事となります。
さて、大人気バンド「ホレス・シルヴァー・クインテット」名義で、ブルーノート(Blue Note Records)に録音した第1弾、クインテット名義による最初の一歩が今回の「Six Pieces Of Silver (Blue Note BLP-1539)」です。
タイトルで察する事が出来る通り、オリジナル・アルバムにはホレス・シルヴァー自身の作品が6曲(Six Pieces Of Silver)と、ピアノ・トリオで演奏されるスタンダードの「For Heavens Sake」が収録されております。
ただ、このアルバムの目玉はアルバムの5曲目、アナログレコード時代にはB面1曲目に収録された大ヒット曲「セニョール・ブルース(Senor Blues)」でありまして。
1970年頃のライブでも演奏してた事からも、ライブの定番曲にする必要がある程の人気曲であったが伺えます。
CDによっては、同日録音の「シングル・バージョン(alternate 45 take)」と、約2年後に録音されたビル・ヘンダーソン(Bill Henderson)歌うところの「ヴォーカル・バージョン」が追加されておりますが、3つのバージョンそれぞれ魅力的なので、どのバージョンが良いかは各人の好みの問題かと思います、です。
エキゾチックで印象的なイントロに導かれ、演奏が劇的に盛り上がる感じは、ライブで演奏したら盛り上がる要素満載、といった感じですか。
ちなみにこの曲のキー設定は、Bb管(トランペット、テナーサックス)で演奏するには、ややエグいものでして。
私の手元にはすでに楽譜があるのですが、譜面に書かれたキー設定見て、のけぞった事を思い出します(笑)。
「Six Pieces Of Silver (Blue Note BLP-1539)」に収録された他の曲も、じっくりと聴いてみましょう。
1曲目「Cool Eyes」の曲名は、ジャケット写真を撮影したセントラルパークが手がかじかむ寒さだった事から名付けされたそうですが、曲自体はアルバム「Silver's Blue (Epic LN-3326)」に収録された「To Beat Or No To Beat」を作り直したものだそうです。
軽快な曲調を気に入ったのか、1961年に録音されたライブアルバム「Doin' The Thing (Blue Note BLP-4076)」では、セットチェンジ前のテーマ曲として使用されておりましたね。
2曲目「Shirl」は、ピアノ・トリオによる演奏ですが、何となくアンニュイな感じが、1960年代の問題作「人心連合3部作」に繋がるような気がします。
3曲目「Camouflage」は、印象的なリズムパターンが次々登場するアップテンポの曲。
ホレス・シルヴァーのレギュラー・バンドらしい楽曲と言っていいかと思います。
4曲目「Enchantment」は、ややエキゾチックな曲調であり、次に続く「セニョール・ブルース(Senor Blues)」の前振り的な役割を果たしている気がします。
6曲目「Virgo」は、アップテンポのハード・バップで、ドナルド・バードの勢いあるソロが聴きどころ。
7曲目「For Heavens Sake」は、オリジナル・アルバムの最後を飾るのに相応しい、ピアノ・トリオでゆったりと演奏される曲です。
CD追加曲として収録された「Tippin'」は、「Donna Lee」みたいなバップ時代によくあるフレーズがうねうね続く(笑)曲です。
「Six Pieces Of Silver (Blue Note BLP-1539)」で自身の恒久的なクインテット編成によるバンドを結成したホレス・シルヴァー(Horace Silver)ですが、この頃からライブの依頼が多数舞い込み、ブルーノート(Blue Note Records)のハウス・ピアニストを務める事が困難になってきたようです。
そんな流れから、ブルーノート1500番台後半では、ソニー・クラーク(Sonny Clark)がハウス・ピアニストとして多用される事となったようです。
Horace Silver - Six Pieces Of Silver +3 (RVG)
Blue Note BLP-1539 / Blue Note 7243 5 25648 2 8 [1999] RVG Edition
side 1 (A)
01. Cool Eyes (Horace Silver) 5:56
02. Shirl (Horace Silver) 4:17
03. Camouflage (Horace Silver) 4:26
04. Enchantment (Horace Silver) 6:22
side 2 (B)
05. Senor Blues (Horace Silver) 7:02
06. Virgo (Horace Silver) 5:49
07. For Heavens Sake (Meyer, Bretton, Edwards) 5:09
CD Bonus Tracks
08. Senor Blues (alternate 45 take) (Horace Silver) 6:38
09. Tippin' (Horace Silver) 6:12
10. Senor Blues (vocal version) (Horace Silver) 6:16
#01-08 November 10, 1956 at Van Gelder Studio, Hackensack, NJ.
Donald Byrd (tp #1,3-6,8) Hank Mobley (ts #1,3-6,8) Horace Silver (p)
Doug Watkins (b) Louis Hayes (ds)
#09,10 June 15, 1958 at Van Gelder Studio, Hackensack, NJ.
Donald Byrd (tp) Junior Cook (ts) Horace Silver (p) Eugene Taylor (b)
Louis Hayes (ds) Bill Henderson (vo #10)
1956年にホレス・シルヴァーが参加した主要なアルバムは、こんな感じです。
May 4, 1956 in NYC.
The Jazz Messengers (Columbia CL-897)
Art Blakey And The Jazz Messengers - Originally (Columbia FC-38036)
July 2, 1956 in NYC.
July 17 & 18, 1956 in NYC.
Horace Silver - Silver's Blue (Epic LN-3326)
September 21, 1956 at Van Gelder Studio, Hackensack, NJ.
Paul Chambers - Whims Of Chambers (Blue Note BLP-1534)
November 10, 1956 at Van Gelder Studio, Hackensack, NJ.
Horace Silver - 6 Pieces Of Silver (Blue Note BLP-1539)
November 25, 1956 at Van Gelder Studio, Hackensack, NJ.
Hank Mobley With Donald Byrd And Lee Morgan (Blue Note BLP-1540)
自身のクインテットを立ち上げした直後は、ブルーノート(Blue Note Records)のハウス・ピアニストとしても活動していたようですが、前述の通り、ライブ・ツアーに出かける事が多くなり、ソニー・クラークにその座を受け渡す事となります。