1957年08月03日に録音された「The Amazing Bud Powell Vol. 3 - Bud! (Blue Note BLP-1571)」は天才ピアニスト、バド・パウエル(Bud Powell)のブルーノート(Blue Note Records)復帰第1弾となるアルバムです。
以前、トリオ編成にて行われた録音が1953年08月14日ですので、およそ4年のブランクがあった訳ですね。
トリオの他のメンバーは、ベースにポール・チャンバース(Paul Chambers)、ドラムスにアート・テイラー(Art Taylor)という、堅実かつ安定したミュージシャンを配しております。
なお、後半3曲にはトロンボーン界期待の新人であった、カーティス・フラー(Curtis Fuller)が加わりますが、小川隆夫著「ブルーノートの真実」によりますと、録音当日に地下鉄のホームで偶然カーティス・フラーに遭遇した事で、そのままスタジオに連れて行ったようです(笑)。
まあ、1949年08月09月にクインテット編成で行われた録音同様、バド・パウエルの健康(精神)状態を考慮し、アルフレッド・ライオン(Alfred Lion)が「保険」の意味合いで、加えたものと思われますが・・・。
完璧主義のアルフレッド・ライオンらしからぬ「思い付き」による参加要請だった様で、結果としてアルバムの完成度が下がってしまった事を後年、後悔していたみたいです。
「The Amazing Bud Powell Vol. 3 - Bud! (Blue Note BLP-1571)」に収録された曲を簡単に紹介していきます。
1曲目「Some Soul」はややスロー気味で演奏されますが、バド・パウエルの調子を確かめる風情の「模様眺め」的な演奏の様に感じられます。
2曲目、日本人好みな哀愁漂う「Blue Pearl」は、このアルバムの中で私一押しの曲でございます。
そういえば、日本で大人気を誇る「クレオパトラの夢(Cleopatra's Dream)」と同系統の曲ですよね、これ。
アップテンポで演奏される3曲目「Frantic Fancies」は、1940年代の絶頂期の演奏と比べ「表現が丸くなった」印象を受けますが、狂気すら感じられる初期の演奏よりも、明るく聴きやすい演奏であると思います。
4曲目「Bud On Bach」は、無伴奏ソロによる演奏ですが、原曲はドイツが生んだ大音楽家、ヨハン・セバスチャン・バッハ(Johann Sebastian Bach)の次男、カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ(Carl Philipp Emanuel Bach)が作曲した練習曲、「ソルフェジオ・ハ短調(Solfeggietto c-moll Wq. 117)」なんだそうです。
クラッシックらしい端正な演奏が、だんだんジャズっぽくなっていく感じは、何度聞いてもおもしろいですね。
5曲目「Keepin' In The Groove」は、ジャズ・ブルースの有名曲「Now's The Time」に似たテーマ部を持つ、ブルース進行で作られた曲。
バド・パウエルらしからぬ、ひたすら明るく軽快な演奏に終始します。
6曲目からアナログレコード時代にはB面に相当し、ここからの3曲は期待の新鋭、トロンボーン奏者のカーティス・フラー(Curtis Fuller)が加わった演奏となります。
バド・パウエルの軽快なイントロから始まるのが、6曲目の「Idaho」。
ソロ1番手のカーティス・フラー、トロンボーンとは思えないような軽快なソロを聴かせてくれます。続くバド・パウエルも快調ですね。
バラッド調に演奏される7曲目「Don't Blame Me」では、トロンボーンという楽器の持ち味である、ふくよかな低音による演奏をお楽しみいただけます。
続くバド・パウエルも、明るくロマンテックなソロを聴かせてくれます。
アルバムの最後を飾る、もろバップ!といった感じの8曲目、チャーリー・パーカー (Charlie Parker)作曲の「Moose The Mooche」では、カーティス・フラー、バド・パウエルとも、ハード・バップのお手本とも言えるようなソロを聴かせてくれております。
私所有のCDには収録されておりませんが、CD追加曲である「Blue Pearl (alternate take)」は以前、「クレオパトラの夢(Cleopatra's Dream)」とカップリングされ、東芝EMIさんから12インチ・シングル(BNJ-27002)として発売されたようです。
Bud Powell - The Amazing Bud Powell Vol. 3 - Bud! (RVG)
Blue Note BLP-1571 / 東芝EMI TOCJ-9121 [1999.08.25] 24 Bit By RVG
side 1 (A)
01. Some Soul (Bud Powell) 6:59
02. Blue Pearl (Bud Powell) 3:49
03. Frantic Fancies (Bud Powell) 4:53
04. Bud On Bach (Bud Powell) 2:33
05. Keepin' In The Groove (Bud Powell) 2:57
side 2 (B)
06. Idaho (Jesse Stone) 5:18
07. Don't Blame Me (D. Fields, J. McHugh) 7:34
08. Moose The Mooche (Charlie Parker) 5:47
Curtis Fuller (tb #6-8) Bud Powell (p) Paul Chambers (b #1-3,5-8)
Art Taylor (ds #1-3,5-8)
August 3, 1957 at Van Gelder Studio, Hackensack, NJ.
そういえば「Blue Pearl」、1986年のマウント・フジ・ジャズ・フェスティバルでOTBの初代ピアニスト、ハリー・ピケンズ(Harry Pickens)が「バド・パウエルに捧ぐ」という趣旨で、この曲を取り上げてましたね(ライブ録音あり)。
あとピアニスト、アンソニー・ウォンジー(Anthony Wonsey)の日本企画盤でも「Blue Pearl」が演奏されておりましたが、私は結構好きなアルバムでした。
という訳でこの曲、バド・パウエルをお手本とする若いミュージシャンに何故か、人気があるようです。
参考までに練習曲「ソルフェジオ・ハ短調(Solfeggietto c-moll Wq. 117)」は、こんな曲です。
バッハ(Johann Sebastian Bach)の次男、カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ(Carl Philipp Emanuel Bach)が作曲したという情報は、今回調べて分かった事です。
「Bud On Bach」のタイトルだけ見て、今までバッハ(Johann Sebastian Bach)自身の作曲だと思ってましたので。
世の中の知らない事が、次々と出て来る(笑)。