加持顕のジャズに願いをのせて

新潟在住の加持顕(かじあきら)が、ジャズの名盤について個人的感想を気まぐれに投稿。

「Miles Davis - The Musings Of Miles (Prestige) 1955」バード逝去直後に録音されたワンホーン・アルバム

マイルス・デイヴス(Miles Davis)の「The Musings Of Miles (Prestige PRLP-7007)」は、珍しいワンホーン・アルバムです。

 

「Miles Davis - The Musings Of Miles (Prestige) 1955」珍しいワンホーン・アルバム

マイルスの他、レッド・ガーランドRed Garland)のピアノ、オスカー・ペティフォード(Oscar Pettiford)のベース、フィリー・ジョー・ジョーンズPhilly Joe Jones)のドラムスという編成。

 

マイルスがこの時期注目していた、ピアニストのアーマッド・ジャマル(Ahmad Jamal)が演奏した曲が多く取り上げられている事もポイントの様です。

 

さて、この時期のジャズ界の動きを確認すると1955年03月12日、ニカ男爵夫人のアパートで、バードの愛称でも知られたビ・バップ・ジャズ創始者の一人、チャーリー・パーカーCharlie Parker)が亡くなっているんですね。

 

 

晩年は酒とクスリにまみれ、ボロボロの状態だった様ですが・・・。

 

しかもチャーリー・パーカーが亡くなった丁度その頃、マイルスが何をしていたかをマイルスの自叙伝で確認すると・・・。

 

離婚した元妻アイリーンから扶養義務不履行で訴えられ、ニューヨークのイースト・リバーのほとりにあるライカース島の刑務所にぶち込まれていたんだとか。

三日間監獄にいて、弁護士ハロルド・ラベットの手引きで出所したそうですが。

 

その後行われたバードの葬儀は、別れてはいたものの離婚が法的に成立していなかったドリス・パーカー夫人が仕切る事となり、ミュージシャンに一切演奏させないとか、バード本人の意思と反するドタバタがあった様です。

 

 

ちなみにバードの権利を継承したドリス・パーカーは1960年初頭辺りに「チャーリー・パーカーCharlie Parker Records)」というレコード会社を立ち上げ、バードの音源に加え、デューク・ジョーダンDuke Jordan)などの新録音を発売する様になります。

 


何となくアルバム「The Musings Of Miles (Prestige PRLP-7007)」全編で陰鬱とした雰囲気を感じられるのは、直前にバードの死去を含め憂鬱になりそうな出来事を経てたからなんですね。

 

さて、ピアニストにボクシングもやるレッド・ガーランドRed Garland)を選んだのは、マイルスが当時気に入っていたアーマッド・ジャマル(Ahmad Jamal)みたいに弾けるからなんだそうで。

「Will You Still Be Mine?」と「A Gal In Calico」を演奏したのは、アーマッド・ジャマルがいつも演奏していたから、という理由なんだそうです。

 


軽やかなる雰囲気で演奏される1曲目「Will You Still Be Mine?」は、アーマッド・ジャマルの演奏スタイルを参考にしている事がモロ分かりな一曲です。

 


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軽快なマイルスに続き、ソロ2番手に登場するレッド・ガーランドRed Garland)は、マイルスの意向通りアーマッド・ジャマル風味の演奏を繰り広げます。

ラソン・セッションや、コロンビアに移籍した後のアルバムでも良く聴く事が出来る、マイルスの特徴的なソロ・フレーズが多用されている事にも注目してみて下さい。


2曲目「I See Your Face Before Me」は、ミュート・トランペットでマイルスが切々と演奏するバラッド。ただ、ちょっとマイルスのマイクがオフ気味に感じられます。

ブロック・コードを多用したソロを弾くレッド・ガーランド、これまたアーマッド・ジャマル風味(笑)。


3曲目「I Didn't」は、アップテンポで演奏されるマイルス・デイヴス(Miles Davis)の自作曲。

アルバム収録曲を確認するため、移動中のカーステレオで曲名見ずに聴いてた時は「Well You Needn't」だと思ってたんですが、マイルスの曲だったですね。

こういう感じの曲だと、ドラムスのフィリー・ジョー・ジョーンズが俄然、張り切りだしますね。

 


4曲目「A Gal In Calico」は、もろアーマッド・ジャマル風味。

 


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マイルスも音色に変化をつけつつ、軽快にミュート・トランペットを吹き倒しております。

 


5曲目「A Night In Tunisia」 は、亡きバードへ追悼の意味を込め選曲したものと思われます。

 


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この時期になんで「A Night In Tunisia」を演奏したのか不思議だったんですが、バードの死の直後であった事が分かると、妙に納得出来ますね。

バードのバンドに居た頃の演奏スタイルに戻ったような、ややマイルスらしからぬ高音域を多用したハードな演奏を繰り広げます。

「バード、俺はディジーお得意の曲を、これ位演奏出来るようになったんだぜ」と、今は亡きバードに得意げに語っている風にも聴こえてきます・・・。

 


6曲目「Green Haze」は、ファンキーなマイルス・デイヴス(Miles Davis)の自作ブルース。

ブロック・コードで盛り上げるレッド・ガーランドに導かれる様に登場するマイルス、ミュート・トランペットでクールなソロを展開します。

 

 

Miles Davis - The Musings Of Miles (1955)
Prestige PRLP-7007 / OJCCD-004-2 / Victor Entertainment VICJ-60341 [1999.09.22] 

side 1 (A)
01. Will You Still Be Mine? (Dennis, Adair) 6:22
02. I See Your Face Before Me (Dietz-Schwartz) 4:45
03. I Didn't (Miles Davis) 6:05

side 2 (B)
04. A Gal In Calico (Schwartz, Robin) 5:18
05. A Night In Tunisia (Gillespie, Paparelli) 7:23
06. Green Haze (M. Davis) 5:50


Miles Davis (tp) Red Garland (p) Oscar Pettiford (b) Philly Joe Jones (ds) 

June 7, 1955 at Van Gelder Studio, Hackensack, NJ.

 

ザ・ミュージングス・オブ・マイルス

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Musings of Miles

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元々クスリ(ヘロイン)がミュージシャンの間で蔓延した原因の一つに、天才ミュージシャン、チャーリー・パーカー(バード)がクスリ中毒で物凄い演奏を繰り広げ、それを見た他のミュージシャンが、「クスリを打てば、バードの様に演奏出来るかもしれない」と錯覚してクスリを打ち始めたという話もあります。

 

バードがクスリまみれのまま、ボロボロの状態で亡くなった事により、「クスリは体を壊すだけだ」と気がついたミュージシャン達が、次々とクスリの常習癖から抜け出そうとし始めたみたいです。

 

バードが悲惨な最後を迎える事で、「反面教師」的な役割を担った事は結構重要な出来事ではないかと思います。

 

この年、1955年に行われた第2回ニューポート・ジャズ・フェスティバルで「'Round Midnight」を演奏したマイルスは、一躍、時の人となり、大手メジャー・レコード会社、コロンビアとの契約を結ぶ事となります・・・。

 

1955年という年は、マイルスにとって色々な意味で分岐点となっていた様です。