加持顕のジャズに願いをのせて

新潟在住の加持顕(かじあきら)がジャズ名盤の個人的感想など綴ってます。

「Miles Davis - Blue Moods (Debut) 1955」優しいマイルスの演奏が聴けるアルバム

1955年07月09日に録音された「Blue Moods (Debut DEB-120)」は、マイルス・デイヴィスMiles Davis)名義のアルバムではあるものの、他のマイルスのアルバムとは少し毛色の変わっている感じがします。

 

「Miles Davis - Blue Moods (Debut) 1955」ミンガス主導の訳ありアルバム

アルバムを聴き通すと分かる事ですが、マイルスの自叙伝に書いてある通り、収録された4曲に共通して「何か問題があってすべてがうまく嚙み合わず、熱気のない演奏」であります。

 

 

マイルス本人は「カフェ・ボヘミアに出演が決まり、そのリハーサルで頭がいっぱいで、演奏に集中出来なかったかもしれない」とも書いてますが、どうもバレバレの言い訳の様な違和感を感じてしまいます・・・。

 

この当時、録音契約を結んでいたプレステッジ(Prestige Records)ではなく、ベーシストのチャールス・ミンガス(Charles Mingus)がオーナーである、デビュー(Debut Records)からアルバム発売されているのも、奇妙なと言えば奇妙な事で。

 

レコードして発売された時の裏面、ライナーノート欄を見ると、「マイルスをプレスティジの契約アーティスト」である旨の記載がないので契約上、「プレステッジ以外に録音しては駄目」という事ではなく、「毎年何枚録音してね」という契約だった事が伺えますが。

 

ブリッド・ウッドマン(Britt Woodman)のトロンボーン、テディ・チャールス(Teddy Charles)のヴィヴラフォン、エルヴィン・ジョーンズElvin Jones)のドラムスという、いつものマイルスの録音では見かけないメンバーが揃っているのは、自らベースで参加するチャールス・ミンガス(Charles Mingus)が選んだメンバーの為かと思われます。

 

こんな気の抜けた演奏に終始したのかは、中山康樹氏の「マイルスを聴け!」のアルバムレビューで書いてある事が「真実」だとすると、腑に落ちる感じがします。

 

 

どうも「Blue Moods (Debut DEB-120)」が録音された経緯は、マイルスがミンガスに借金があり、その返済名目で引っ張り出されたという事の様です。

 

「自叙伝」で演奏に火がつかなかった要因の一つに、「エルヴィン・ジョーンズがくすぶった演奏をした」事も上げておりますが、「マイルスを聴け!」の話が本当なら、エルヴィンもマイルス同様、借金返済名目で引っ張り出された為に、気合が入らない演奏に終始したんだろうと。

エルヴィンも、おクスリ関連の容疑で日本滞在中に捕まってますし、借金をした理由は容易に推測出来ますしね・・・。


まあ、この辺の「事実」は本人達に確認しなければ「真偽不明」なんですけどね。

 

ただ全編で、やや気の抜けた様な演奏が続くのは「事実」。聴けばすぐ分かる(笑)。

 

しかしながらバラッドで演奏される「Easy Living」は、この気の抜けようが良い方向に作用し、唯一安心して聴く事が出来たりするのが面白い処ではあります。

 

 

1曲目「Nature Boy」はスローテンポで演奏される曲。

 


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最初、テディ・チャールス(Teddy Charles)のヴィヴラフォンと、ブリッド・ウッドマン(Britt Woodman)のトロンボーンが気だるげな演奏を始め、そこにマイルスのミュート・トランペットが加わるという風に演奏が進んで行きます。

 

ヴィヴラフォンをバックに演奏されるマイルスのソロは、そんなに悪くないのですが、かったるい感じがするのは、アレンジ(編曲)にやや難があったせいなのか、マイルスとミンガスという強烈な個性のミュージシャンが二人居て「船頭多くして船山に登る」状態に陥ってたのか・・・。


ミディアムテンポで演奏される2曲目「Alone Together」は、テーマ部でブリッド・ウッドマンのトロンボーンがバッキングを始め、テディ・チャールスのヴィヴラフォン含むトリオがそこに絡むという演奏。

マイルスはオープン・ホーンでソロを演奏してますが、調子が出る前にソロが終わってしまいます。

 

テディ・チャールスのソロのバックで、ブリッド・ウッドマンと共にアンサンブルを吹くマイルスという構図は珍しいかもしれません(笑)。

最後にチャールス・ミンガス(Charles Mingus)のソロが登場しますが、そこでもマイルスがアンサンブルを吹き、そのまま後テーマに突入します。

演奏の最後の方で、これじゃイカンと思ったか、マイルスがやや気合の入った演奏を聴かせてくれますが、時間切れ尻つぼみのまま、終わってしまいます。

 

3曲目「There's No You」は、気だるい雰囲気でありつつも、明るめな演奏を聴く事が出来ます。

ソロ1番手に登場するマイルス、ここでは気の利いたフレーズを連発。

「この演奏の出来がイマイチなのは、俺のせいじゃないからな!」とアピールしてる風にも聴こえます。

テディ・チャールスのソロ最初に、マイルスがバッキングに入るのも珍しい。

ここまで出番のなかったブリッド・ウッドマン(Britt Woodman)のトロンボーン・ソロがようやく聴けます。

最後にマイルスとエルヴィン・ジョーンズElvin Jones)の4小節ソロ交換が展開されますが、どちらも演奏に結構気合入ってるんですよね。ここだけ(笑)。

 


4曲目「Easy Living」は前述の通りバラッドで演奏され、このアルバムで一番の出来となっております。

 


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気だるいムードで始まり、マイルスのミュート・トランペットの音が聴こえてくると若干、スタジオ内の空気が引き締まった感じとなります。

 

 

アルバム「Blue Moods (Debut DEB-120)」は、「何か問題があってすべてがうまく嚙み合わず、熱気のない演奏」ではありますが、力の抜けた状態で吹くマイルスのトランペットというのも、案外悪くないものだなあーと思ったりします。

 

 

このアルバムを聴いて思ったのは、普段、コワモテで恐れられるマイルス・デイヴィスMiles Davis)ですが、あらゆるシガラミなしの「素の状態」で演奏すると、こういう本来持つ人情味溢れる演奏をしているのかも、という事。

 

怖い印象が強いマイルスですが、医者の息子という実はお坊ちゃまとして育てられた事を思い出して下さい。

 

師匠のチャーリー・パーカーCharlie Parker)のヤサグレた生活を見ず、音楽ビジネス界の争い事に巻き込まれず成長していたら案外、クリフォード・ブラウンClifford Brown)同様、こんな感じで力を抜いた優しい演奏もしていたのかもしれません。

 

ついでに。

「Blue Moods (Fantasy 6001)」として再発された時のジャケットは、こんな感じでした。

 

「Miles Davis - Blue Moods (Debut) 1955」ミンガス主導の訳ありアルバム

 

Miles Davis - Blue Moods
Debut DEB-120 / OJC-043 / Victor Entertainment VICJ-2044 [1996.03.27]

 

side 1 (A)
01. Nature Boy (Eden Ahbez) 6:15
02. Alone Together (Dietz - Schwartz) 7:16

side 2 (B)
03. There's No You (Adair - Hopper) 8:05
04. Easy Living (Robin - Rainger) 5:04


Miles Davis (tp) Britt Woodman (tb) Teddy Charles (vib) Charles Mingus (b) 
Elvin Jones (ds)

July 9, 1955 at Audio-Video Studios, NYC.