コロンビア(Columbia Records)と契約を結んだ1956年は、マイルス・デイヴィス(Miles Davis)にとって変革の年となりました。
後に「1950年代の黄金クインテット」と呼ばれるバンドでのツアーは大成功を収め、出演するクラブは連日満員。
そんな中、1956年初頭に非ガン性の喉頭腫瘍を取り除く手術を行うため、一旦バンドを解散。医者から10日間声を出すなと言われた状態で、とあるレコード会社の男と口論し、結果、声帯がダメになり、マイルスの特徴的なしわがれた声になったそうで。
白のメルセデス・ベンツを買い、高級なスーツを身をまとい、沢山の女性と付き合うという、まさにこの世の春を謳歌していた時期である1956年の05月11日、第1回目の通称「マラソン・セッション」が行われます。
さて、マイルス・デイヴィス(Miles Davis)率いる1950年代の黄金クインテットの「Workin' (Prestige PRLP-7166)」は、世に名高い1956年の05月11日と10月26日に行われた通称「マラソン・セッション」から拾遺編纂されたアルバムです。
「Workin'」なんで道路工事現場の横で・・・という安直なジャケット写真の突っ込みは軽く流しまして、このアルバムには1回目(05月11日)のセッションから7曲、2回目(10月26日)のセッションから1曲を収録しております。
1950年代の黄金クインテットと称賛されるメンバーは、マイルス・デイヴィス(Miles Davis)のトランペットに加え、ジョン・コルトレーン(John Coltrane)のテナーサックス、レッド・ガーランド(Red Garland)のピアノ、ポール・チェンバース(Paul Chambers)のベース、フィリー・ジョー・ジョーンズ(Philly Joe Jones)のドラムスという布陣。
1曲目「It Never Entered My Mind」は、儚くも美しいバラッド。
マイルス渾身のミュート・トランペットによる演奏が、曲のメランコリーさを一層引き立てております。
マイルスに続いて登場するレッド・ガーランドのソロは幻想的であり、エロル・ガーナー(Erroll Garner)の名曲「Misty」を連想させます。
2曲目「Four」は、マイルス・デイヴィスお馴染みの作品。
手慣れた曲のためか、マイルスもオープン・トランペットで元気よく吹きまくっております。続くコルトレーンは手堅いソロに終始し、レッド・ガーランドに引き継ぎます。
4バース・ソロ交換は、マイルスとフィリー・ジョー・ジョーンズの一騎打ちの様相を呈しており、その勢いのまま後テーマに突入します。
3曲目「In Your Own Sweet Way」は、デイヴ・ブルーベック(Dave Brubeck)の作品。
コルトレーンのテナーと対比する、マイルスのミュート・トランペットの音色がひたすら美しく感じます。
やんちゃ気味なコルトレーンのソロに続き、やや崩し気味に後テーマを吹くマイルス、そのままソロに突入するかと思いきや、あっさりと演奏を終えてしまいます。
4曲目「The Theme [take 1]」は、マイルス・デイヴィスの作品。
2分程度の短い演奏ですが、ポール・チェンバースのベース・ソロを挟み、マイルスが自由気ままな演奏を繰り広げます。
5曲目「Trane's Blues」は、ジョン・コルトレーン(John Coltrane)の作品。
マイルスの手堅くも後半でバックを挑発するソロに続き、コルトレーン、レッド・ガーランド、ポール・チェンバースと安定したソロが続きます。
6曲目「Ahmad's Blues」は、アーマッド・ジャマル(Ahmad Jamal)の作品。
レッド・ガーランド、ポール・チェンバース、フィリー・ジョー・ジョーンズのピアノ・トリオだけによる演奏となります。
ブロック・コードを多用したファンキーなソロを展開するレッド・ガーランド、弓弾きで奔放なソロを聴かせるポール・チェンバース、4小節ソロ交換でヒートアップするフィリー・ジョー・ジョーンズと、三者いずれも個性を発揮した演奏を聴かせてくれます。
7曲目「Half Nelson」は、マイルス・デイヴィスの作品。
アップテンポにビバップ寄りテーマを演奏した後、マイルスが高揚気味なソロを聴かせてくれます。
ソロ2番手のコルトレーンもフレーズをしゃくりあげつつソロを展開、怒涛のセカンド・リフ、4小節ソロ交換へと演奏は進んでいきます。
8曲目「The Theme [take 2]」は、マイルス・デイヴィスの作品。
こちらはベースソロなし、フィリー・ジョー・ジョーンズの短いドラム・ソロを挟んだ1分程度の短い演奏です。
Workin' With The Miles Davis Quintet
Prestige PRLP-7166 / OJCCD-296-2 / Victor Entertainment VICJ-60267 [1999.02.03]
side 1 (A)
01. It Never Entered My Mind (Richard Rodgers) 5:24
02. Four (Miles Davis) 7:13
03. In Your Own Sweet Way (Dave Brubeck) 5:42
04. The Theme [take 1] (Miles Davis) 2:00
side 2 (B)
05. Trane's Blues (John Coltrane) 8:32
06. Ahmad's Blues (Ahmad Jamal) 7:24
07. Half Nelson (Miles Davis) 4:46
08. The Theme [take 2] (Miles Davis) 1:03
#01-06,08 May 11, 1956 at Van Gelder Studio, Hackensack, NJ.
Miles Davis (tp #omit 6) John Coltrane (ts #omit 1,6)
Red Garland (p) Paul Chambers (b) Philly Joe Jones (ds)
#07 October 26, 1956 at Van Gelder Studio, Hackensack, NJ.
Miles Davis (tp) John Coltrane (ts)
Red Garland (p) Paul Chambers (b) Philly Joe Jones (ds)
1956年05月11日のセッションは、3枚のアルバムに分散収録されております。
「Relaxin' (Prestige PRLP-7129)」に2曲
「Workin' (Prestige PRLP-7166)」に7曲
「Steamin' (Prestige PRLP-7200)」に5曲
1956年10月26日のセッションは、4枚のアルバムに分散収録されております。
「Cookin' (Prestige PRLP-7094)」に5曲
「Relaxin' (Prestige PRLP-7129)」に4曲
「Workin' (Prestige PRLP-7166)」に1曲
「Steamin' (Prestige PRLP-7200)」に1曲