マイルス・デイヴィス(Miles Davis)のコロンビア(Columbia Records)移籍第1弾が、モノラル録音の「'Round About Midnight (Columbia CL-949)」です。
ギル・エヴァンス(Gil Evans)が編曲したとされる表題曲「'Round About Midnight」のインパクトが強すぎて、他の曲の印象が薄すぎるアルバムだったりします(笑)。
ただ、3曲目の「All Of You」や4曲目の「Bye Bye Blackbird」は、後に何度か公式にライブ録音しておりますので、マイルスのお気に入りだったのでしょうね。
演奏に参加するメンバーは、俗に「50年代黄金クインテット」と言われる面々。
テナーサックスのジョン・コルトレーン(John Coltrane)、ピアノのレッド・ガーランド(Red Garland)、ベースのポール・チェンバース(Paul Chambers)、ドラムスのフィリー・ジョー・ジョーンズ(Philly Joe Jones)です。
さて、1955年から1956年にかけて行われた3回のセッションから拾遺された6曲が、オリジナル・アルバム「'Round About Midnight (Columbia CL-949)」に収録されております。
第1回目のセッションは、プレステッジ(Prestige Records)との契約が終わってない1955年10月26日に秘密裏に行われ、プレステッジとの契約を可及的速やかに終わらす為、有名なマラソン・セッションが企画されたという、これまた裏話があったりします。
その後、プレステッジとの契約を終えた1956年06月05日に2回目のセッション、1956年09月10日に3回目のセッションが録音されております。
主に、教会を改装した「30th Street Studios」で録音されているためなのか、プレステッジ(Prestige Records)時代のルディ・ヴァン・ゲルダー(Rudy Van Gelder)のスタジオで録音されたアルバム群とは、かなり音の傾向が異なってたりします。
てな訳で1955年10月26日、1回目のセッションは、お蔵入りしたままの「Billy Boy」含む5曲を録音。本アルバムには、「Ah-Leu-Cha」1曲のみ収録するという贅沢さ。
公開された残る3曲のうち「Two Bass Hit」、「Little Melonae」、「Budo」は各種オムニバス・アルバムで初公開されております。
1956年06月05日、2回目のセッションでは「Bye Bye Blackbird」、「Tadd's Delight」、「Dear Old Stockholm」と、録音した全3曲を収録。
1956年09月10日、3回目のセッションでは3曲を録音したうち、本アルバムに「'Round Midnight」、「All Of You」の2曲を収録。
残る「Sweet Sue, Just You」は、オムニバス・アルバムで初公開されました。
クールなミュート・トランペットの音色と、テーマ部での意表を突く静から動への転換が印象的な1曲目、そして表題曲でもある「'Round Midnight」は、マイルスがコロンビア(Columbia Records)と契約するきっかけとなった曲。
元々、ギル・エヴァンス(Gil Evans)がビックバンド用に編曲したものをコンボで演奏したのだそうで、コンボで演奏するには大げさすぎる部分があるのは、そのため。
マイルス・デイヴィス(Miles Davis)とジョン・コルトレーン(John Coltrane)の二人でビックバンドのアンサンブルをシミュレート出来てしまったのは、もちろんギル・エヴァンスの的確な(再)編曲あっての事。
「静(クール)」担当のマイルスと、「動(喧噪)」を担当するコルトレーンの対比が見事な1曲です。
アップテンポで演奏される2曲目「Ah-Leu-Cha」は、 チャーリー・パーカー(Charlie Parker)の作品。
ビバップ時代に逆戻りしたかの如く、チャーリー・パーカーと演奏した曲を取り上げる事で、マイルスが約半年前の1955年03月12日に急死したチャーリー・パーカーとの関係を、さりげなく示しているように思われます。
マイルスのソロは力強く、バードと共演していた頃の躊躇や危なっかしさが払拭された見事な演奏です。
ミュート・トランペットの音色がキュートな3曲目「All Of You」は、コール・ポーター (Cole Porter)の作品。
ソロ2番手に登場するコルトレーンは、いわゆる「シーツ・オブ・サウンド」と呼ばれる音の洪水をまき散らし、3番手のレッド・ガーランドがソロの導入部で、その音の洪水をせき止めるかの如き高速フレーズを弾いた後、自分のペースに持っていくあたりは流石ですね。
レッド・ガーランドのブロック・コードによるイントロが印象的な4曲目「Bye Bye Blackbird」は、後のライブで定番となる曲。
早歩きで散歩してるかの如きテンポに乗り、マイルスの艶っぽいミュート・トランペットが印象的なフレーズを紡いていきます。
続くコルトレーンはやんちゃに荒ぶるソロを、レッド・ガーランドは、間を生かしたアーマッド・ジャマル(Ahmad Jamal)風味のソロをそれぞれ聴かせてくれます。
ちょっと早めのテンポで演奏される5曲目「Tadd's Delight」は、タッド・ダメロン (Tadd Dameron)の作品。
レッド・ガーランドのタッド・ダメロン風味のバッキングに乗りオープン・トランペットで演奏されるマイルスのソロは、ややファッツ・ナバロ(Fats Navarro)の雰囲気が漂ってますね。
オリジナル・アルバムの最後を飾る6曲目「Dear Old Stockholm」は、ブルーノート(Blue Note Records)でも録音されている曲。
ブルーノートでの録音よりややテンポを早め、ミュート・トランペットで演奏する事で、よりクールな演奏に仕上げております。
ソロ1番手はベースのポール・チェンバース。意表を突いて長めのランニング・ソロを聴かせてくれます。
ソロ2番手のコルトレーンは、凍てついたストックホルムの空気を切り裂くかの如き熱のこもったフレーズを重ねます。
ソロ3番手に登場するマイルスは、クールなミュート・トランペット・ソロから始まり、どんどん熱を帯びていき、そのまま後テーマに雪崩れ込むというアルバムの最後に相応しい展開となっております。
7曲目から10曲目は、各種オムニバス・アルバムに分散収録された後、CDに追加収録された曲となります。
7曲目「Two Bass Hit」は最初、「Circle In The Round (Columbia KC2-36278)」に収録されたもの。
ソルト・ピーナッツ(Salt Peanuts)同様、ビバップ時代によく演奏された曲なので、フィリー・ジョー・ジョーンズのヤクザなドラムと、コルトレーンのやさぐれ気味なソロが大活躍してます。
8曲目「Little Melonae」は最初、日本企画盤「1958 Miles (CBS/Sony 20AP-1401)」や「Basic Miles (Columbia C-32025)」に収録されていた曲。
ジャッキー・マクリーン(Jackie McLean)が書いた曲を何故あえて演奏したのか、何だか不思議な感じがします。
9曲目「Budo」は最初、「Various Artists - Jazz Omnibus (Columbia CL-1020)」に収録された曲。
マイルスとバド・パウエル(Bud Powell)の共作でマイルスは最初「クールの誕生(Birth Of The Cool)」で演奏してましたね。
10曲目「Sweet Sue, Just You」は最初、「Leonard Bernstein - What Is Jazz? (Columbia CL-919)」に収録されました。
このアルバムの為に録音された曲の中で一番、ハードボイルドな演奏かもしれません。
エコーがかかってない音の感じが、ルディ・ヴァン・ゲルダー(Rudy Van Gelder)のスタジオで録音したかの如く、各楽器とマイクの距離が至近というか、妙に生々しい感じがします。
最近再発されたものでは、こんな感じの別ジャケット・バージョンもあったりします。
Miles Davis - 'Round About Midnight +4
Columbia CL-949 / SME Records SRCS-9725 [2001.02.21]
side 1 (A)
01. 'Round Midnight (B. Hanighen, C. Williams, T. Monk) 5:57
02. Ah-Leu-Cha (Charlie Parker) 5:52
03. All Of You (Cole Porter) 7:02
side 2 (B)
04. Bye Bye Blackbird (M. Dixon, R. Henderson) 7:56
05. Tadd's Delight (Tadd Dameron) 4:28
06. Dear Old Stockholm (Trad) 7:52
Bonus Tracks
07. Two Bass Hit (D. Gillespie, J. Lewis) 3:45
08. Little Melonae (Jackie McLean) 7:23
09. Budo (Bud Powell, Miles Davis) 4:17
10. Sweet Sue, Just You (V. Young, W. J. Harris) 3:40
#02 & 07-09 October 26, 1955 at Columbia Studio D, NYC.
Miles Davis (tp) John Coltrane (ts) Red Garland (p) Paul Chambers (b)
Philly Joe Jones (ds)
#04-06 June 5, 1956 at Columbia 30th Street Studios, NYC.
Miles Davis (tp) John Coltrane (ts) Red Garland (p) Paul Chambers (b)
Philly Joe Jones (ds)
#01,03 & 10 September 10,1956 at Columbia 30th Street Studios, NYC.
Miles Davis (tp) John Coltrane (ts) Red Garland (p) Paul Chambers (b)
Philly Joe Jones (ds) Gil Evans, Teo Macero (arr)