1964年、東京オリンピックが開催された年にマイルス・デイヴィス(Miles Davis)は、「第1回世界ジャズ・フェスティバル(The World Jazz Festival)」の参加グループの一つとして、ファン待望の初来日を果たします。
日本での公演の一つ、1964年07月14日「新宿厚生年金会館大ホール」での演奏を収録したのが本作「Miles In Tokyo (CBS/Sony SONX-60064/Columbia C2-38506)」です。
この頃のマイルスのバンドは、自叙伝を確認すると、ドラムスのトニー・ウィリアムス(Tony Williams)を中心に据えた演奏を行っていたそうで。
彼と犬猿の仲だったジョ-ジ・コールマン(George Coleman)が来日直前にバンドを辞めた為、トニーの推薦でフリー系の演奏を嗜むテナーサックス奏者、サム・リヴァース(Sam Rivers)が加わっております。
ジョ-ジ・コールマンが辞めた理由は、リズム隊のメンバーがフリー系の演奏を好み、ソロが終わりマイルスが演奏を抜けた途端に、フリー・ジャズ系の演奏を始めるからなんだそうです(笑)。
何時の時代にも、鼻っ柱の強い若者は暴走するものなんですね・・・。
という事でリズム隊は、鉄壁のコンビネーションを誇る「The Trio」。ドラムスのトニー・ウィリアムス(Tony Williams)、ベースのロン・カーター(Ron Carter)、ピアノのハービー・ハンコック(Herbie Hancock)の若手3人です。
ジョ-ジ・コールマンという制御弁が取り除かれたマイルスのバンドは、「The Trio」にサム・リヴァースが加わった事で、必然的にフリー系の過激な演奏に傾いていく事となります。
ジョ-ジ・コールマン入りのライブを聴いた後、この5日目「新宿厚生年金会館大ホール」におけるライブでの聴いて「あれっ」と思うのは、若手3人含む過激派(笑)が、マイルスの事は脇に置いて、自由気ままにフリー・ジャズに傾倒した演奏を繰り広げる為なのかなあ・・・と思ったりします。
なお、若手を勢いを削がず自身の演奏出来る目途がついたのか6日目、最終日の「京都円山公園音楽堂」では、マイルス達が素晴らしい演奏を繰り広げていた模様です。
観客の大歓声の中、メンバー紹介の後、キュートな1曲目「If I Were A Bell」が始まります。
マイルスはミュートでゴキゲンなソロを聴かせてくれますが、サム・リヴァースのソロになると、リズム隊が、やんちゃ(笑)なバッキングを繰り出し始め、ソロ三番手、ハービーのソロまで、やんちゃぶりを発揮しております。
マイルスが再びソロを吹き出すと、また大人しくなるのが可笑しいというか、面白いというか・・・。
2曲目「My Funny Valentine」の演奏は、「My Funny Valentine (Columbia CS-9106/CL-2306)」で聴く事が出来る1964年02月12日の耽美な演奏から、ドラムスのトニー・ウィリアムスが主導権を握る、まだバラッドでありつつもアグレッシブな方向にシフトした演奏になっております。
マイルスのソロが終わり、サム・リヴァースとリズム隊だけの演奏になった時から、何というか空気感が異なる演奏に聴こえてきます。
3曲目「So What」は、超アップテンポで演奏されますが、「若い連中にこれ以上、好き勝手されてたまるか」と思ったのか、テーマ部分からマイルスの気合の入り方が違う気がします。
でも、トニー・ウィリアムスが、マイルスの演奏をさらに焚きつけるんですよね、これが。サム・リヴァースのソロでは、リズム隊全員で無茶(笑)してますし、ハービー・ハンコックのソロは、どんどん現代音楽風味が増していきますね。
4曲目「Walkin'」も「So What」同様、超アップテンポでの演奏です。
トニー・ウィリアムスのぼこぼこ叩きまくるタムとシンバルの一撃が、マイルスのソロをどんどん過激に煽り立てております。
続くトニー・ウィリアムスのドラム・ソロ、とてもメロディアスですね。この辺が、ただうるさいだけの何にも考えてない風なドラマー達との違いなんでしょうね。
サム・リヴァースは、これがブルース進行の曲なのか一瞬忘れてしまう、アグレッシブなソロを聴かせてくれますし、ハービーのソロは、現代音楽風味がさらに強くなってる気がします。
5曲目「All Of You」は、ミディアムテンポでハードボイルドに演奏されてます。
マイルスよりも、サム・リヴァースの方が「まとも」に吹いてる感じがするのが面白いというか・・・。ハービー・ハンコックのソロも、メロディアスですね。再び登場するマイルスは、ハービーのソロで正気に戻ったのかメロディアスでございます。
Miles Davis - Miles In Tokyo
CBS/Sony SONX-60064/Columbia C2 38506 Sony Records SRCS-9112 [1996.09.21]
side 1 (A)
01. Introduction / If I Were A Bell (F. Loesser) 11:31
02. My Funny Valentine (R. Rodgers - L. Hart) 12:53
side 2 (B)
03. So What (M. Davis) 8:08
04. Walkin' (R. Carpenter) 9:19
05. All Of You (C. Porter) 12:40
Miles Davis (tp) Sam Rivers (ts) Herbie Hancock (p) Ron Carter (b) Tony Williams (ds)
"Sekai Jazz Festival", July 14, 1964 at Koseinenkin Kaikan, Tokyo, Japan.
「第1回世界ジャズ・フェスティバル」は1964年07月10日から16日まで各地(東京、大阪、京都、名古屋、札幌)を巡業し、「A~C」の3グループに分かれ公演を行ったそうです。
マイルスのバンドは「Aグループ」の一つであり、その他のバンドは以前マイルスのバンドで演奏していたウイントン・ケリーのトリオが加わる「J.J.ジョンソン・オールスターズ」、そして「カーメン・マクレエ&ハー・トリオ」という感じだったそうです。
小川隆夫さんの「伝説のライヴ・イン・ジャパン(シンコーミュージック)」などには、その時の詳細が記載されている様で、また近年、ブートレッグとして流通していた、日本公演における他会場での演奏が、小川隆夫さんのライナーノート付で、正式に発売に発売されている様です。
07月10日:名古屋市公会堂
07月11日:大阪フェスティヴァル・ホール
07月12日:東京日比谷野外音楽堂 「HIBIYA,TOKYO July 12, 1964 (Eternal Grooves/Howlin' EGHO-001)」
07月13日:大阪フェスティヴァル・ホール
07月14日:新宿厚生年金会館大ホール ※本作「Miles In Tokyo (CBS/Sony SONX-60064/Columbia C2-38506)」
07月15日:京都円山公園音楽堂 「KYOTO July 15, 1964 (Eternal Grooves/Howlin' EGHO-002)」
小川隆夫さんのマイルス関連の書籍を、いくつか掲載しておきます。