ギル・メレ(Gil Melle)という白人系サックス奏者は、初期ブルーノート(Blue Note Records)において重要な役割を果たした人物として、一部ブルーノート・マニアに認知されている存在ではありますが、昨今のCD再発状況を眺める限り、一般的な人気があったとは言えない様です。
まず、ギル・メレは、録音エンジニアのルディ・ヴァン・ゲルダー(Rudy Van Gelder)をブルーノートに紹介した人物として、マニアの間では有名な存在だったりします。
また、5000番台(10インチ)アルバム・ジャケットのデザインを担当し、マルチな才能をブルーノートで発揮した事でも知られております。
さて今回紹介する「Patterns In Jazz (Blue Note BLP-1517)」には、ハードバップの宝庫1500番台(12インチ)には似つかわしくない、クールなウエスト・コースト風味の演奏が収められております。
どちらかというと5000番台(10インチ)の延長線上にあるサウンドで、他のハードバップ系アルバムと比較し、継子扱いされるのがあまりにも不憫であります。
5000番台(10インチ)のアルバムも一部、CD化されておりますが、ギル・メレ(Gil Melle)が残した4枚のアルバム群に関しては単独で発売される事は今後、まずないでしょうねえ。
アナログ・レコードでは時々、再発されてますが、再生が面倒なんで(笑)。
話を戻しまして。ギル・メレ(Gil Melle)のこのアルバムに関しては演奏を聴く限り、クールで極上の演奏が収められていますので、聴かず嫌いはもったいないと断言しておきます(笑)。
1956年04月01日にハッケンサックにあったルディ・ヴァン・ゲルダーの自宅兼スタジオで録音されたアルバムには、バリトン・サックスに専念するギル・メレ(Gil Melle)の他、トロンボーンのエディ・バート(Eddie Bert)、ギターのジョー・シンデレラ(Joe Cinderella)、ベースのオスカー・ペテイフォード(Oscar Pettiford)、ドラムスのエド・シグペン(Ed Thigpen)という渋めの実力派が顔を揃えております。
ギター・トリオで構成されたリズム隊に、バリトン・サックスとトロンボーンという低音楽器の2管アンサンブルが絡む演奏は、ウエスト・コースト・サウンドの特徴でもある、からっとしていて、実にクールに響いております(録音場所はイースト・コーストだけど)。
1曲目の軽快なテンポで演奏される「The Set Break」は、ギル・メレ(Gil Melle)の自作曲。
バリトン・サックスとトロンボーンの低音アンサンブルから、ギル・メレのバリトンとは思えない流暢なソロが始まります。
ギターのジョー・シンデレラ、トロンボーンのエディ・バート、ベースのオスカー・ペテイフォードと、ドラムスのエド・シグペンによるソロ交換、続いてギル・メレ、エディ・バート、ジョー・シンデレラの三者による聴き応えのあるソロ交換と続きます。
2曲目の物憂げな感じが漂う「Weird Valley」は、ギル・メレ(Gil Melle)の自作曲。
テーマ部から各人のソロが絶妙に挟まる構成は、如何にも知的なジャズといった感じ。
ソロ最初に登場するギターのジョー・シンデレラの乾いたギターの音色はまさにクール。続くギル・メレ、エディ・バートの優しく温かい感じの音色との対比が素晴らしいです。
3曲目「The Arab Barber Blues」は、9分にも及ぶギル・メレ(Gil Melle)の自作曲。
エディ・バート抜きのギター・カルテットによる演奏となります。
ビバップ風味のメロディラインが長いテーマから、そのままソロに突入します。
ジョー・シンデレラのちょっと朴訥としたソロのバックでギル・メレが絡んだ後、オスカー・ペテイフォードのソロが登場、そのままドラムスとの4小節ソロ交換に突入します。
4曲目、ミディアムテンポで演奏される「Nice Questions」は、8分程あるギル・メレ(Gil Melle)の自作曲。エディ・バート抜きのギター・カルテットによる演奏です。
ここでのギル・メレは、ちょっとジェリー・マリガン(Gerry Mulligan)を彷彿とされる音色で跳躍の激しいソロを聴かせてくれます。
ギル・メレに刺激されたのかジョー・シンデレラのギター・ソロもやや激しい感じです。
最後に登場するギル・メレ、ジョー・シンデレラ、エド・シグペン三者によるソロ交換も良いですね。
5曲目、バラッド風味に演奏される「Moonlight In Vermont」は、短いながらも心に染み入るような演奏です。
6曲目「Long Ago And Far Away」は、あの有名なガーシウィン兄弟の作品。
確か日本企画のブルーノート・オムニバスCD「No Room For Square」シリーズにも収録されておりましたが、軽快なテンポでかなり聴きやすい演奏となっております。
Gil Melle - Patterns In Jazz
Blue Note BLP-1517 / Blue Note 7243 4 95718 2 2 [1998]
side 1 (A)
01. The Set Break (Gil Melle) 4:48
02. Weird Valley (Gil Melle) 5:13
03. The Arab Barber Blues (Gil Melle) 9:05
side 2 (B)
04. Nice Questions (Gil Melle) 8:17
05. Moonlight In Vermont (J. Blackburn, K. Suessodorf) 4:52
06. Long Ago And Far Away (I. Gershwin, J. Kern) 4:32
Eddie Bert (tb #1,2,5,6) Gil Melle (bs) Joe Cinderella (g)
Oscar Pettiford (b) Ed Thigpen (ds)
April 1, 1956 at Van Gelder Studio, Hackensack, NJ.
なお、ギル・メレ(Gil Melle)がブルーノートに残した作品群を聴くには、私も所有している「Gil Melle - The Complete Blue Note Fifties Sessions (Blue Note 7243 4 95718 2 2)」がベストです。
レコードで聴けない未発表曲が1曲追加されているのもポイントですが、ア●ゾンだと品切れ中の様なので、他の中古CD市場等でお探し下さいませ。