アルトサックス奏者のルー・ドナルドソン(Lou Donaldson)が、チャーリー・パーカー(Charlie Parker)を始祖とするビバップ・アルト奏者から、ソウル風味を強調した演奏にシフトしていくきっかけとなったと思われるアルバムが、今回ご紹介する「Swing and Soul (Blue Note BST-81566)」です。
確か、ルー・ドナルドソンご本人の話によると、ジャズのアルバム名に「Soul」が入ったものは、このアルバムが最初なんだとか・・・。
演奏メンバーは、ルー・ドナルドソン(Lou Donaldson)の他、ピアノにハーマン・フォスター(Herman Foster)、ベースに(Peck Morrison)、ドラムスに(Dave Bailey)というブルーノート(Blue Note Records)では珍しい顔合わせのピアノ・トリオに、コンガ奏者のレイ・バレット(Ray Barretto)が加わっております。
ソウル風味強めのハーマン・フォスターのピアノ・トリオにコンガが入っている事から、さぞかし喧噪気味でゴリゴリした演奏が続くかと思いきや、ハード・バップ風味強めで比較的リラックス・ムードな上、しっとりとした演奏多めのアルバムであったりします。
1曲目「Dorothy」は、比較的しっとりと気味に演奏される曲で、ハーマン・フォスター(Herman Foster)のピアノが、エロル・ガーナー(Erroll Garner)の名曲「Misty」を連想させる幻想的な雰囲気を作りだしております。
ルー・ドナルドソン(Lou Donaldson)が奏でるまろやかな音色のアルト・サックスが全編、軽やかにソロを紡いでいきます。
2曲目「I Won't Cry Anymore」は、ハード・バップ風味強めの軽快な演奏。
ハーマン・フォスター(Herman Foster)のファンキーなピアノと、レイ・バレット(Ray Barretto)のコンガが加わる事で、隠し味としてソウル風味が若干、混ざってる気がします。
3曲目「Herman's Mambo」は、ピアノで参加するハーマン・フォスター (Herman Foster) の作品。
イントロからレイ・バレット(Ray Barretto)のコンガが前面に押し出され、ハーマン・フォスターが軽快なブロック・コードによる抑え気味な演奏の後、ルー・ドナルドソン(Lou Donaldson)の饒舌気味なアルト・サックス・ソロが始まります。
続くハーマン・フォスターのブロック・コードを強調したソロも強烈ですね。
コンガのリズムが心地よい4曲目「Peck Time」は、軽快なテンポのルー・ドナルドソン(Lou Donaldson)の自作曲。
同じメンバーで、1958年に録音された大ヒット・アルバム「Blues Walk (Blue Note BST-81593)」を予感させる、明瞭爽快な演奏が繰り広げられております。
5曲目「There Will Never Be Another You」は、この曲としては珍しく、バラット風のスローテンポで演奏されております。
日本ではジャム・セッションの際、アップテンポで演奏される事が多い曲でありますが、こうして味わい深いスローテンポで演奏される事により、ソウル味が増した演奏になるのは面白いですね。
6曲目「Groove Junction」は、ルー・ドナルドソン(Lou Donaldson)の自作曲。
これも4曲目「Peck Time」同様、明瞭爽快な演奏となっております。
7曲目「Grits And Gravy」は、ルー・ドナルドソン(Lou Donaldson)の自作曲。
重厚なベース・ランニングから始まるこのブルース進行の曲、ファンキーでソウル!といった雰囲気を濃厚に醸し出しつつ、演奏が進んでいきます。
ルー・ドナルドソン、ハーマン・フォスターともスイング感を感じきれるぎりぎりのテンポで、非常に味わい深い演奏を繰り広げます。
多分、録音ブースに立ち会って居たアルフレッド・ライオン(Alfred Lion)達は、体を揺らしつつ大喜びでこの演奏を聴いてたでしょう・・・。
てな訳で、こういう演奏をもっと録音したいという事で、アルバム「Blues Walk (Blue Note BST-81593)」が企画されたのではないかと思います(笑)。
Lou Donaldson - Swing and Soul
Blue Note BST-81566 / 東芝EMI TOCJ-1566 [1996.07.24]
side 1 (A)
01. Dorothy (Rudy Nichols) 5:25
02. I Won't Cry Anymore (Al Frisch, Fritz Wise) 4:23
03. Herman's Mambo (Herman Foster) 4:56
04. Peck Time (Lou Donaldson) 5:23
side 2 (B)
05. There Will Never Be Another You (Mack Gordon, Harry Warren) 5:08
06. Groove Junction (Lou Donaldson) 6:19
07. Grits And Gravy (Lou Donaldson) 6:18
Lou Donaldson (as) Herman Foster (p) Peck Morrison (b) Dave Bailey (ds) Ray Barretto (conga)
June 9, 1957 at Rudy Van Gelder Studio, Hackensack, NJ.
さーて、パーッカッション入りのジャズは私は大好きなのですが。
各地のジャズ喫茶と廃刊した某ジャズ誌がジャズ・ファンの嗜好を左右していた古の日本では、この手のジャズは軽視されていたらしく、1980年代初頭にイギリスのロンドンで「ジャズで踊る」ブームが突如起こるまでは、日本のジャズ・ファンにとっては、なじみの薄いアルバムであった模様。
東芝EMIがブルーノート(Blue Note Records)のアルバム群をCD化していく際に、再発されたアルバムのリストを個人的に作成し、ネットで公開してたりするんですが、この「Swing and Soul (Blue Note BST-81566)」が、「売れ筋では無いアルバム」認定されていなる事は、一目瞭然かと・・・。
・TOCJ-1566 Swing and Soul / Lou Donaldson (1996.07.24)
・TOCJ-9192 Swing and Soul / Lou Donaldson (RVG) (2000.03.23)
・TOCJ-6541 Swing and Soul / Lou Donaldson Vol. 3 (BN決定盤1500 24bit) (2005.08.24)
・TOCJ-8615 Swing And Soul / Lou Donaldson Vol. 3 (BN Best & More 1100) (2009.12.09)
発売された履歴の一部を書き出してみると、廉価盤シリーズの中に紛れ込み、かろうじて再発されている風に感じられます・・・。
以前、ご紹介したアルバムのリンクも付記しておきます。