ブルーノート(Blue Note Records)に一番長く在籍し、数々のヒット・アルバムを生み出したホレス・シルヴァー(Horace Silver)。
どうせなんで、ホレス・シルヴァー(Horace Silver)クインテットが、歴代最強メンバーだと皆が考える、ブルー・ミッチェル(Blue Mitchell)とジュニア・クック(Junior Cook)を擁するまでの歴史的経緯を、ざっと書き起こしてみましょう。
彼がジャズ界で躍進するきっかけは、ビバップ時代に新たなサウンドを模索していたマイルス・デイヴィス(Miles Davis)と出会い、マイルスが希求するリズム・パターンをアート・ブレイキー(Art Blakey)と共に編み出した事から始まります。
後に「ハードバップ」と呼ばれる新たなリズム・パターンによる演奏スタイルを確立したホレス・シルヴァー(Horace Silver)とアート・ブレイキー(Art Blakey)は、「The Jazz Messengers」という、全員が対等なグループを結成。
ブルーノート(Blue Note Records)にも、「The Jazz Messengers At The Cafe Bohemia」という2枚の傑作ライブ・アルバムを残しております。
ただ、ほどなくして「The Jazz Messengers」は、信仰する宗教の相違などからアート・ブレイキー(Art Blakey)と、ホレス・シルヴァー(Horace Silver)含むバンドメンバーとに分かれ分裂。
最晩年の1990年代まで、ホレス・シルヴァー(Horace Silver)が、日本で開催された「Mt. Fuji Jazz Festival」含めた大型野外フェスティバルなどで、アート・ブレイキー(Art Blakey)との共演を拒否する程の、「遺恨」を残す事となります・・・。
そんな訳で、アート・ブレイキー(Art Blakey)は「The Jazz Messengers」の名前だけ引き継ぎ、ホレス・シルヴァー(Horace Silver)、ドナルド・バード(Donald Byrd)、ハンク・モブレー(Hank Mobley)など他のメンバーは、「The Horace Silver Quintet」として独立。
ブルーノート(Blue Note Records)に数々のヒット・アルバムを提供する事となります。
ちなみに歴代のトランペット奏者は、ドナルド・バード(Donald Byrd)、アート・ファーマー(Art Farmer)、そして、公式なスタジオ録音は残っていませんが、ルイ・スミス(Louis Smith)という風に交代していきました。
歴代のテナー・サックス奏者を確認すると、最初はハンク・モブレー(Hank Mobley)で、続いてクリフ・ジョーダン(Cliff Jordan)へと変遷しておりますね。
そんな歴史を経て、バンドとしての結束力や独自のサウンドが熟成してきた、ホレス・シルヴァー(Horace Silver)率いるクインテットですが。
前述の通り、歴代のホレス・シルヴァー(Horace Silver)クインテットで、「最強」だと思われるフロント(ホーン奏者)の組み合わせを問われれば、やはり、トランペットのブルー・ミッチェル(Blue Mitchell)と、テナー・サックスのジュニア・クック(Junior Cook)のコンビを思い出す方が多いでしょうね・・・。
ビックバンドの楽譜の如き、どんなに難解で複雑な構成を持った曲でも、さらりと演奏してしまうその適応力というか演奏能力の高さには、楽譜見つつ演奏を聴いていると際に、唖然としてしまう事が多々あったりします。
てな訳で(長かったw)、ブルー・ミッチェル(Blue Mitchell)とジュニア・クック(Junior Cook)のコンビがフロントとしてホレス・シルヴァー率いるクインテットに参加して初めてのスタジオ・アルバムが、この「Finger Poppin' (Blue Note BST-84008)」となる訳です。
※裏ジャケットは「Discogs」からお借りしました。
全曲がホレス・シルヴァー(Horace Silver)の作曲であり、クインテットでの演奏を想定したセカンド・リフなどの編曲が施されておりますが、何故か1曲(4)のみ、
トリオによる演奏が挟まれていたりと、作曲家・バンドリーダーとしての、ホレス・シルヴァーの「試行錯誤」というか「迷い」みたいなものが垣間見えたりします。
では、「Finger Poppin' (Blue Note BST-84008)」収録曲を簡単にご紹介していきましょう。
1曲目は、如何にもホレスらしい曲調で超アップテンポで演奏されるアルバム・タイトル曲でもある「Finger Poppin'」。
明るく明快で親しみやすいメロディー、リズムが歯切れよく軽快、程よいファンキー、とホレス・シルヴァー(Horace Silver)が書く曲の特徴が良く出た演奏だと思います。
2曲目はミディアム・テンポで演奏される「Juicy Lucy」は、1500番台後半に残された名盤「The Stylings Of Silver (Blue Note BLP-1562)」の流れを継承した感じですね。
アート・ファーマー(Art Farmer)の如き穏やかなソロを吹くブルー・ミッチェル(Blue Mitchell)、続いてハンク・モブレー(Hank Mobley)そっくりさん風に吹くジュニア・クック(Junior Cook)と、ホーン隊二人の柔軟性が垣間見える演奏となっております。
3曲目はタイトル通り、ルイス・ヘイズ(Louis Hayes)が叩き出すサンバ風味のリズムにのり展開される「Swingin' The Samba」。
ホレス・シルヴァー(Horace Silver)が弾く特徴的なピアノ・ソロが一番印象に残りますね。
4曲目でアナログ・レコード時代にはA面最後となる「Sweet Stuff」は、バラッド風味の演奏で、フロントの二人が抜けたピアノ・トリオだけによる演奏となっております。
1~3曲目までの喧噪感を払拭するかの如く、やや耽美的な演奏が繰り広げられております。
5曲目のアップテンポで演奏される「Cookin' At The Continental」は、アナログ・レコード時代にはB面1曲目に相当する為か、かなりド派手な演奏となっております。
てな訳で、ホレス・シルヴァー(Horace Silver)が弾く「ガコン」という擬音がぴったりなバッキングが、テーマ部から随所に炸裂しております(笑)。
6曲目は、かなりアーシーというかブルージーな「Come On Home」。
フロント2管と同じメロディをピアノのホレスも弾く事で音の厚みを増したりと、興味深い試みを取り入れる事で、他のバンドとは一味違うホレス・シルヴァー(Horace Silver)バンドらしさみたいなものを出している気もします・・・。
バラッド風味な7曲目「You Happened My Way」は、かなり長めのテーマ部はクインテットで演奏されておりますが、ソロは短めにホレス・シルヴァー(Horace Silver)のみ弾いているという、やや変則的な演奏です。
8曲目は明るくアップテンポな「Mellow D」で、ビバップ時代に戻ったかの様な複雑なメロディ・ラインにファンキーなリズムを付加しておりますが、これも、ホレス・シルヴァー(Horace Silver)バンドらしい演奏だなと思います。
Horace Silver - Finger Poppin' (RVG)
Blue Note BST-84008 / 東芝EMI TOCJ-7016 [2007.07.25]
side 1 (A)
01. Finger Poppin' (Horace Silver) 4:48
02. Juicy Lucy (Horace Silver) 5:46
03. Swingin' The Samba (Horace Silver) 5:18
04. Sweet Stuff (Horace Silver) 5:33
side 2 (B)
05. Cookin' At The Continental (Horace Silver) 4:54
06. Come On Home (Horace Silver) 5:31
07. You Happened My Way (Horace Silver) 5:29
08. Mellow D (Horace Silver) 5:35
Blue Mitchell (tp #omit 4) Junior Cook (ts #omit 4) Horace Silver (p)
Eugene Taylor (b) Louis Hayes (ds)
January 31, 1959 at Van Gelder Studio, Hackensack, NJ.
ホレス・シルヴァー(Horace Silver)クインテットのアルバムは、すでに何枚かご紹介しているので、参照リンクを張り付けておきます。
1970年代に入り、アルフレッド・ライオン(Alfred Lion)引退後もブルーノート(Blue note Records)に残り奮戦していたホレス・シルヴァー(Horace Silver)が、「Silver 'N」シリーズという好企画アルバムを発売する事になります。
私、このシリーズが大好きで、CD再発されるまで、東京まで赴いて買い漁ってきた輸入盤アナログレコードを、盛大なスクラッチ・ノイズに耐えながら聴いていたものです・・・まあようやく日本でCD再発されましたけどね(笑)。