加持顕のジャズに願いをのせて

新潟在住の加持顕(かじあきら)が、ジャズの名盤について個人的感想を気まぐれに投稿。

「Miles Davis – Birth Of The Cool (Capitol) 1950」西海岸クール・ジャズの教科書

マイルス・デヴィス(Miles Davis)の「Birth Of The Cool (Capitol)」は、ジャズ界におけるマイルストーン(milestone)的な作品。

 

「Miles Davis – Birth Of The Cool (Capitol) 1950」西海岸クール・ジャズの教科書

※ジャケット写真は「Discogs」からお借りしました。

 

「クールの誕生(Birth Of The Cool)」というタイトルは、レコード会社が勝手に命名したようですが。

 

このアルバムが、1950年代に米西海岸で隆盛したクール・ジャズ(ウエスト・コースト・ジャズ)の誕生に大きく寄与した事は、ショーティ・ロジャーズ(Shorty Rogers)など、関係ミュージシャン達の証言から裏付けされた間違いない事実のようです。

 

ちなみにマイルストーンとは、1マイル(約1.6km)おきに道路に置いてある標石の事。

 

このアルバムでマイルス・デヴィス(Miles Davis)は、単なるミュージシャンからジャズ界の革新者としての道を進みはじめる事になります。

 

マイルス・デヴィスが残した作品群には、選び抜かれた美しいメロディ(テーマ)を、考え抜かれた斬新なリズムパターンで引き立て、そこに美メロなソロを重ねるという、マイルスの考える「音の美学」が、そこかしこに見え隠れしておりますね。

 

以降、1959年録音の「Kind Of Blue (Colmbia)」は、モード・ジャズという新しいスタイルを提示。

 

1969年録音の「Bitches Brew (Colmbia)」はクロスオーバー・ジャズの先駆け的アルバムであり、ロックを中心に聴いていた音楽ファン層にアピール出来た事で、これまた白人ジャズミュージシャンを中心としたジャズ・ロック勢を勢いつけるとなります。

こんな感じで10年毎にジャズ界のマイルストーン的作品を発表。いずれも内容の革新性と相まって、大ベストセラー作品となっております。

 


さて、アルバム「Birth Of The Cool」で聴くことが出来るサウンドは、ギル・エヴァンス(Gil Evans)の家で開かれていた有志によるワークショップから生まれたサウンドイメージに、マイルス・デヴィスが欲したクラッシックの響きを加え、さらにマイルス曰く「誰もやった事のない」リズムパターンを、組み合わせたものなんだそうです。

 


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九重奏団にはリズムセクションに加え、トランペット、アルトサックス、そこに低音楽器4本が加わります。

 

バリトン・サックス、トロンボーン、チューバ、フレンチ・ホルンが加わった低音楽器多めの豊かなアンサンブルは、斬新な響きで聴衆を驚かせた事でしょう。

 


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「Birth Of The Cool」は、ギル・エヴァンス(Gil Evans)が編曲家として関わっていた、当時人気のダンス・バンド、クロード・ソーンヒル(Claude Thornhill)楽団のサウンドを九重奏団という少人数で表現してみた、という識者の意見もあるようです。

 

 

 

1949年01月から1950年03月にかけて行われたスタジオ録音の編曲は、ジェリー・マリガンGerry Mulligan)が6曲、ジョン・ルイス(John Lewis)が3曲、ギル・エヴァンス(Gil Evans)が2曲。

そして残り1曲をジョン・カリシ(John Carisi)が担当しております。


ビバップ時代の典型的な起伏の激しく騒がしいソロを封印し、3分前後の曲の中で、短いながらも美しいメロディ(ソロ)をマイルスが吹いております。

 

魅力的な美メロ(ソロ)を吹くマイルスの姿に、喧騒的で技巧の追及に終始する「ビバップサウンドからの脱却を模索していたミュージシャンや、「ビバップ」のマンネリ化を肌で感じていた聴衆が飛びついた感じですかね。

 


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リー・コニッツLee Konitz)、ジェリー・マリガンGerry Mulligan)ら、白人系ミュージシャンも短いながらも、クール・ジャズを先取りしたかのような、美しいソロを聴かせてくれます。

 


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今回参考音源とした1998年の発売された「Miles Davis – The Complete Birth Of The Cool」には1948年、九重奏団結成初期のライブ録音(多分、ラジオ放送音源)が含まれております。

 

「Miles Davis – Birth Of The Cool (Capitol) 1950」西海岸クール・ジャズの教科書

Miles Davis – The Complete Birth Of The Cool
Capitol T-762(10inch LP) / Capitol Jazz CDP 7243 4 94550 2 3 (1998) / 東芝EMI TOCJ-6200 [1998.06.24]

 

●The Studio Sessions [January 21, 1949 - March 9, 1950]

side 1 (A)
01. Move (Denzil Best /arr by John Lewis)  2:33
02. Jeru (Gerry Mulligan /arr by Gerry Mulligan)  3:13
03. Moon Dreams (C. MacGregor, J. Mercer /arr by Gil Evans)  3:19
04. Venus De Milo (Gerry Mulligan /arr by Gerry Mulligan)  3:13
05. Budo (Bud Powell, Miles Davis /arr by John Lewis)  2:34
06. Deception (Miles Davis /arr by Gerry Mulligan)  2:49

side 2 (B)
07. Godchild (George Wallington /arr by Gerry Mulligan)  3:11
08. Boplicity (Cleo Henry /arr by Gil Evans)  3:00
09. Rocker (Gerry Mulligan /arr by Gerry Mulligan)  3:06
10. Israel (John Carisi /arr by John Carisi)  2:18
11. Rouge (John Lewis /arr by John Lewis)  3:15
12. Darn That Dream (E. DeLange, J. Van Heusen /arr by Gerry Mulligan)  3:25

 

●The Live Sessions [September 4, 1948]
Charlie Parker - Miles Davis - Lee Konitz (Ozone 2)

13. Birth Of The Cool Theme (Gil Evans /arr by Gil Evans)  0:19
14. Symphony Sid Announces The Band    1:02
15. Move (Denzil Best /arr by John Lewis)  3:40
16. Why Do I Love You (DeSylva, Gershwin, Gershwin /arr by John Lewis)  3:41
17. Godchild (George Wallington /arr by Gerry Mulligan)  5:51
18. Symphony Sid Introduction    0:27
19. S'il Vous Plait (John Lewis /arr by John Lewis)  4:22
20. Moon Dreams (C. MacGregor, J. Mercer /arr by Gil Evans)  5:06
21. Budo (Hallucination) (Bud Powell, Miles Davis /arr by John Lewis)  1:25

●The Live Sessions [September 18, 1948]
The Persuasively Coherent Miles Davis (Alto AL-701)

22. Darn That Dream (E. DeLange, J. Van Heusen /arr by Gerry Mulligan)  4:25
23. Move (Denzil Best /arr by John Lewis)  4:48
24. Moon Dreams (C. MacGregor, J. Mercer /arr by Gil Evans)  3:46
25. Budo (Hallucinations) (Bud Powell, Miles Davis /arr by John Lewis)  4:23


●The Studio Sessions

#01,02,05,07 - January 21, 1949 in NYC.
#04,08,10,11 - April 22, 1949 in NYC.
#03,06,09,12 - March 9, 1950 in NYC.

Miles Davis (tp) Lee Konitz (as) Gerry Mulligan (bs) Bill Barber (tuba) 
Kai Winding (tb #1,2,5,7) J.J. Johnson (tb #3,4,6,8-12) 
Junior Collins (french horn #1,2,5,7) Gunther Schuller (french horn #3,6,9,12) 
Sandy Siegelstein (french horn #4,8,10,11)
Al Haig (p #1,2,5,7), John Lewis (p #3,4,6,8-12)
Joe Shulman (b #1,2,5,7) Al McKibbon (b #3,6,9,12) Nelson Boyd (b #4,8,10,11)
Max Roach (ds #1-3,5-7,9,12) Kenny Clarke (ds #4,8,10,11)

Kenny Hagood (vo #12)

John Lewis (arr #01,05,11) Gerry Mulligan (arr #02,04,06,07,09,12) Gil Evans (arr #03,08) John Carisi (arr #10) 


●The Live Sessions

#13-21 - September 4, 1948 at The Royal Roost, NYC.
#22-25 - September 18, 1948 at The Royal Roost, NYC.

Miles Davis (tp) Lee Konitz (as) Gerry Mulligan (bs) Bill Barber (tuba) 
Mike Zwerin (tb) Junior Collins (french horn) 
John Lewis (p) Al McKibbon (b) Max Roach (ds) 

Kenny Hagood (vo #16,22)

John Lewis (arr #15,16,19,21,23,25) Gerry Mulligan (arr #17,22) Gil Evans (arr #13,20,24) 


Original Studio Sessions Producer – Pete Rugolo
Reissue Producer – Mark Levinson, Michael Cuscuna, Phil Schaap

 

Birth of the Cool

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Miles Davis: Birth of the Cool

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  • Hal Leonard Publishing Corporation
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The Complete Birth of the Cool

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さて前述の通り、アルバム「Birth Of The Cool」で聴かれるサウンドを意欲的に取り入れ出来上がったのが、ジェリー・マリガンGerry Mulligan)ら白人ミュージシャンを中心に隆盛した「クール・ジャズ(ウエスト・コースト・ジャズ)」です。

 

ショーティ・ロジャーズ(Shorty Rogers)は、ビックバンド・ジャズのサウンドを「Birth Of The Cool」に寄せたようなアルバムを作っているようです。

 


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Cool & Crazy

 

そういえばジェリー・マリガンGerry Mulligan)は後年、「Birth Of The Cool」の再演とかやってましたね。

 


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クールの再誕生

クールの再誕生

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リー・コニッツLee Konitz)は私も大好きですが、色々と名盤がございます。

 

 

 

「Roy Haynes - We Three (Prestige/New Jazz) 1958」変幻自在な3人対等のバンド

予測不能で個性的なリズムを叩き出すロイ・ヘインズ(Roy Haynes)。

 

1958年11月14日に録音されたアルバム「We Three」はロイ・ヘインズ名義ではありますが、「We Three」とタイトルをつけているので「3人対等」のバンドなのでしょう。

 

「Roy Haynes - We Three (Prestige/New Jazz) 1958」変幻自在な3人対等のバンド

ジャケットを見ると、ベースのポール・チェンバースが頭一つ背が高いんですね。

サングラスをかけているのが、ピアノのフィニアス・ニューボーンかな。

 

アルバム全編でドラムのロイ・ヘインズ、ピアノのフィニアス・ニューボーン(Phineas Newborn Jr.)、そしてベースのポール・チェンバースPaul Chambers)という、超技巧派達が繰り広げる刺激的な演奏をお楽しみいただけます。

 

私はこのアルバムを聴いて、ロイ・ヘインズのファンになりました。


全編で装飾音の如くドラムの音が延々鳴ってますが、意外なほど五月蝿く感じないです。って言うか、大好き(笑)。

 

ついでながらピアノのフィニアス・ニューボーンも、このアルバムでの演奏が一番好きです。

 

オープニングはいきなりセロニアス・モンク作曲かと思いきや、レイ・ブライアント作曲の「Reflection」。

 


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ロイ・ヘインズのワン&オンリーなドラム・ソロから始まり、フィニアスの良く鳴るピアノが存分に楽しめる1曲です。

 

2曲目の「Sugar Ray」は、レイ・ロビンソン(Ray Robinson)に捧げたフィニアス・ニューボーンのオリジナル。

 

3曲目は、可愛らしい曲調の「Solitaire」。

これは50年代初期のポップ・チューンだそうでラスト、フィニアスの全部の鍵盤を使っているかのような壮大なピアノによる無伴奏ソロがいいですね。

 


4曲目(LP時代はB面1曲目)はブルージーな「After Hours」。

 


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テーマ部からフィニアスの超絶早引きが炸裂します。

 

5曲目は、再びレイ・ブライアント作曲の「Sneakin' Around」。

ミディアム・テンポの、ちょっとクールな演奏です。

 

ラスト6曲目は、私の敬愛するタッド・ダメロンの「Our Delight」です。

 


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アップテンポにもかかわらず、3人とも悠然とナイスなフレーズや複雑なリズム・パターンを次々と繰り出してきます。


このアルバム、間違いなく体育会系ノリ(私は文科系)な作品なので、体力のある時に聴きましょう。

むしゃくしゃした気分も、これを聴けば爽快になるかもしれません。

 

Roy Haynes - We Three (1958)
Prestige/New Jazz NJLP-8210 / OJCCD-196-2 / Victor Entertainment VICJ-60289 [1999.03.31] 

side 1 (A)
01. Reflection (Ray Bryant)  4:20
02. Sugar Ray (Phineas Newborn Jr.)  6:22
03. Solitaire (Carl Nutter, King Guion, Renee Borek)  8:46

side 2 (B)
04. After Hours (Avery Parrish, Buddy Feyne, Robert Bruce)  11:13
05. Sneakin' Around (Ray Bryant)  4:21
06. Our Delight (Tadd Dameron)  3:59


Phineas Newborn (p) Paul Chambers (b) Roy Haynes (ds) 

November 14, 1958 at Rudy Van Gelder Studio, Hackensack, NJ.

 

ウィ・スリー

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ロイ・ヘインズ(Roy Haynes)のもう一つの代表作も、盲目の怪人ローランド・カークを筆頭に個性的なメンバーが揃っているようです。

 

 

 

超絶技巧を誇るフィニアス・ニューボーン(Phineas Newborn Jr.)のアルバムも。

 

「ベーシストの聖典」とまで賞賛される、ポール・チェンバースPaul Chambers)のアルバムもどうぞ。

 

 

「Sabu - Palo Congo (Blue Note) 1957」ブルーノート1500番台に潜む異色盤

1957年04月28日に録音された「Sabu - Palo Congo (Blue Note BLP-1561)」は、1957年03月07日に録音された「Art Blakey - Orgy In Rhythm Vol. 1 & 2 (Blue Note BLP-1554/1555)」に続く、パーカッションとヴォーカル中心のアルバム。

 

巷で「ライオンの狂気」とまで噂された前作から2ヶ月経たないうちに録音された本作「Palo Congo」からも、ブルーノートのオーナー、アルフレッド・ライオン(Alfred Lion)がパーカッションの録音に執拗なまでの興味を示していた事が伺えます。

 

「Sabu - Palo Congo (Blue Note) 1957」ブルーノート1500番台に潜む異色盤

「Palo Congo」は、アフロ・キューバン系の名パーカッショニスト、サブー・マルティネス("Sabu" Martinez)がリーダーのアルバムです。

 

「Sabu - Palo Congo (Blue Note) 1957」ブルーノート1500番台に潜む異色盤

※ジャケット裏の写真は「Discogs」からお借りしました。

 

ジャズ・マニアからは、ハードバップの名盤目白押しなブルーノート1500番台に紛れ込んだ「大珍盤」とか、「異色盤」と呼ばれているそうで・・・。

 

いにしえのジャズ・マニアの方々は、パーカッションやストリングス入りの作品を嫌悪するのが「正しいジャズファンの道」であると信じていたらしいですから、「異色盤」とか表現しても不思議ではなかったでしょうね。

 


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いにしえのジャズファンの気持ちは横に置いとくとして、1曲目の軽快な「El Cumbanchero」は良いですね。

 


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「Billumba-Palo Congo」は全編、メインボーカルとバックのコール&レスポンスが続きますが時々、レスポンス側の反応が遅れたりするのが、大らかというかユルくて面白かったりします。

 

 


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ミディアムテンポの「Tribilin Cantore(歌うあばずれ女)」だけ、タイトル通り女性ボーカルが前面に出ている曲です。

 

Sabu - Palo Congo (1957) [Mono]
Blue Note BLP-1561 / 東芝EMI TOCJ-1561 [1996.06.26]

side 1 (A)
01. El Cumbanchero (R.Hernandez) 5:39
02. Billumba-Palo Congo ("Sabu" Martinez) 6:07
03. Choferito-Plena (Inacio Rios) 4:02
04. Asabache ("Sabu" Martinez) 4:23

side 2 (B)
05. Simba ("Sabu"  Martinez) 5:55
06. Rhapsodia Del Maravilloso(南京豆売り) (“Sabu” Martinez) 4:38
07. Aggo Elegua(エレグアに捧ぐ) ("Sabu" Martinez) 4:28
08. Tribilin Cantore(歌うあばずれ女) ("Sabu" Martinez) 5:22


"Sabu" Martinez (conga, bongo, vo) Arsenio Rodriguez (conga, g, vo) 
Raul "Caesar" Travieso (conga, vo) Israel Moises "Quique" Travieso (conga) 
Ray "Mosquito" Romero (conga) Evaristo Baro (b) 
Willie Capo (vo) Sarah Bavo (vo)

April 28, 1957 at Manhattan Towers, NYC.

 

パロ・コンゴ

パロ・コンゴ

  • アーティスト:サブー
  • ユニバーサル ミュージック (e)
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大人数のパーカッショニストが参加しているため、録音場所は「Manhattan Towers」ですね。録音技師のルディ・ヴァン・ゲルダー(Rudy Van Gelder)は、出張してきているのでしょうけど。

 

Sabu - Palo Congo (Blue Note BLP-1561)」は、キューバの至宝でありマンボの創始者と称えられるアルセニオ・ロドリゲス(Arsenio Rodriguez)が参加しております。

 

「リズムの饗宴(Orgy In Rhythm)」は、複数のドラマーが参加する事で、重厚なリズムを叩き出しておりましたが。

 

 

今回の「Palo Congo」では、コンガとボンゴによる軽快なラテンリズムにヴォーカルが絡みます。

 

コード楽器はアルセニオ・ロドリゲスのギターと、ベース奏者のみなのかな。


まあ、ブルーノート(Blue Note Records)らしからぬ、「ジャズ」というより「ワールド・ミュージック」のまばゆいばかりのラテン・リズムの洪水に身を委ねてみるのも一興かと。