1955年11月16日に録音された「Miles (Prestige PRLP-7014)」。
解説文が印刷されるジャケット裏に「The New Miles Davis Quintet」と記載されている通り1955年の中頃、マイルスが新たに結成したバンドでの録音です。
マイルス・デイヴィス(Miles Davis)のトランペットに加え、ジョン・コルトレーン(John Coltrane)のテナーサックス、レッド・ガーランド(Red Garland)のピアノ、ポール・チェンバース(Paul Chambers)のベース、フィリー・ジョー・ジョーンズ(Philly Joe Jones)のドラムスという編成の彼らは、後に「1950年代黄金のクインテット」と絶賛される事となります。
マイルスの自叙伝を読むと、このバンドで1955年09月からツアーに出た事が書かれております。
デトロイト、シカゴ、セントルイスとツアーで廻り、10月下旬のニューヨークのカフェ・ボヘミア(Cafe Bohemia)で演奏していた時期に、コロンビア(Columbia Records)で第1回目の録音が行われた模様。
ただしプレステッジ(Prestige Records)との契約上の問題で、翌年1956年まで公開されなかったとの事。
ツアーでの演奏を経て急速に成長したジョン・コルトレーン(John Coltrane)や他のバンドメンバーと共に、プレステッジ(Prestige Records)との契約履行のため、新バンドで2回目に行われた録音が「Miles (Prestige PRLP-7014)」という訳です。
1曲目の「Just Squeeze Me」は、デューク・エリントン(Duke Ellington)の作品。
マイルスはミュート・トランペットでテーマからソロとワン・ホーンで吹いており、コルトレーンがソロで登場するという事以外、ワン・ホーンで吹き込まれたアルバム「The Musings Of Miles (Prestige PRLP-7007)」的な雰囲気が漂っております。
何というか、エコー(リヴァーブ)深めの穏やかなサウンドからは、続く世にいう「マラソン・セッション」のアルバム群やコロンビア(Columbia Records)での初期アルバム群とは隔絶した世界観が示されているような気がします。
2曲目の「There Is No Greater Love」も1曲目と同じく、ややスローテンポ気味にマイルスのワンホーンで演奏がスタートします。
続く、レッド・ガーランドがブロック・コードを用いて、タメの効いたファンキーなソロを聴かせてくれます。
コルトレーンの出番がないまま演奏が終わってしまいますが、バラッドだと当時のコルトレーンの演奏だとまだ、邪魔になっていたんでしょうかねえ。
3曲目の「How Am I To Know?」は、アップテンポで演奏される軽快な曲。
ここでもマイルスはミュート・トランペットでテーマを一人だけで演奏し、コルトレーンはソロのみ登場してます。
コルトレーンはまだ成長途中で使えないと思ったのか、それともこの前に行ったコロンビア(Columbia Records)への録音と差別化する意図でやったのか、判断がつかないですね。
4曲目の「S'posin'」も、テーマはマイルスのワンホーン(笑)。
アップテンポで軽快なピアノ・トリオのバッキングにのり、マイルスも気持ちよさそうにソロを吹いてますね。
続くコルトレーンは、バックで演奏するトリオの煽りにやや押されつつソロを終え、レッド・ガーランドの軽快なソロに引き継ぎます。
後テーマ前に再び登場するマイルス、気合十分な演奏を聴かせてくれます。
5曲目の「The Theme」は、マイルス・デイヴィス(Miles Davis)作曲とありますが、色々な人が俺の曲だ!と主張してる、あのお馴染みの曲と同じものです。
ソロの最初はポール・チェンバース(Paul Chambers)で、セカンド・テーマを挟み、マイルスのソロが続きます。再びセカンド・テーマを挟み、コルトレーン登場。途中、リードミスしつつも、豪快なソロを展開します。
再度セカンド・テーマを挟んだ後、意表をついてサード・テーマで締めくります。
まあ、新たにセカンド・テーマ、サード・テーマをつけ加えているので、マイルス作と書いてもモンク、いや文句はいわれないか(笑)。
アルバムの最後を飾る6曲目の「Stablemates」は、ベニー・ゴルソン(Benny Golson)の作品。マイルスはオープン・ホーンで、このアルバム唯一、コルトレーンと一緒にテーマを吹いております。
まさに「1950年代黄金のクインテット」による演奏となりますが、最後にこの曲を持ってくる事により、例の通称「マラソン・セッション」で録音された4枚のアルバムに繋げているようにも感じられます。
マイルス、コルトレーン、レッド・ガーランドと続く安定したソロ・リレーは、この時期のマイルスが率いたバンドが、どれだけ充実した演奏を繰り広げていたかを示す証拠でもありますよね。
「The New Miles Davis Quintet」のジャケットは、色違いの青バージョンもありますので、ついでに貼っておきます。
Miles Davis - Miles (The New Miles Davis Quintet) (1955)
Prestige PRLP-7014 / OJCCD-006-2 / Victor Entertainment VICJ-60302 [2002.01.23]
side 1 (A)
01. Just Squeeze Me (Duke Ellington, Lee Gaines) 7:27
02. There Is No Greater Love (Isham Jones, Marty Symes) 5:19
03. How Am I To Know? (Dorothy Parker, Jack King) 4:39
side 2 (B)
04. S'posin' (Paul Denniker, Andy Razaf) 5:15
05. The Theme (Miles Davis) 5:49
06. Stablemates (Benny Golson) 5:18
Miles Davis (tp) John Coltrane (ts #1, 3-6) Red Garland (p)
Paul Chambers (b) Philly Joe Jones (ds)
November 16, 1955 at Van Gelder Studio, Hackensack, NJ.
ちなみに「Miles Davis - The Original Quintet (First Recording) (Prestige PRLP-7254)」として再発された時のジャケットはこんな感じだった様です。
本来の計画ではマイルスは、ソニー・ロリンズ(Sonny Rollins)をバンドに参加させる予定でしたが行方をくらましたため実現出来なかったとか。
で、何故かソニー・ロリンズは、マックス・ローチ(Max Roach)とクリフォード・ブラウン(Clifford Brown)のクインテットに、ハロルド・ランド(Harold Land)の代わりとして参加するという・・・例の交通事故で1956年にはバンドが空中分解してしまいますけど。