名トランペット奏者、ドナルド・バード(Donald Byrd)が1958年11月22日、フランスはパリにあるオリンピア劇場(L'Olympia)で行ったライブ演奏のうち、5曲を収録したアルバムが「Byrd In Paris Vol. 1 (Brunswick 87 903)」です。
ドナルド・バード(Donald Byrd)はマイルス・デイヴィス(Miles Davis)同様、時代に要望に合わせ、何度か演奏スタイルを変え商業的にも人気を得た一人でありますが。
1958年という年はドナルド・バード(Donald Byrd)にとって、最初の演奏スタイルである「ハード・バップ」を駆使した演奏の円熟期に相当する時期であったりもします。
ドナルド・バード(Donald Byrd)は、クリフォード・ブラウン(Clifford Brown)の後継者的な熱い演奏を聴かせるかと思えば、マイルス・デイヴィス(Miles Davis)お得意の哀愁漂うクールな演奏を聴かせたりと、研究熱心で器用な面を、ソロの随所にのぞかせております。
バンドのフロントの相方を務めるボビー・ジャスパー(Bobby Jaspar)は、ベルギー出身のテナー・サックス&フルート奏者。
1950年にパリで活動を開始した後、1956年頃からアメリカへ移住したそうなので、1958年頃の拠点はアメリカであり、この時は凱旋公演だった訳ですね。
ここでのボビー・ジャスパー(Bobby Jaspar)は、ソニー・ロリンズ(Sonny Rollins)の豪快な演奏スタイルを踏襲した感じで、中々素晴らしいソロを聴かせてくれます。
ピアノはウォルター・デイビスJr.(Walter Davis Jr.)、ベースはダグ・ワトキンス(Doug Watkins)、ドラムスはアート・テイラー(Art Taylor)という地味ながら堅実なメンバーを揃えております。
1曲目「Dear Old Stockholm」は、マイルス・デイヴィス(Miles Davis)やスタン・ゲッツ(Stan Getz)による名演が残る哀愁漂う日本人好みのトラディショナル・ソング。
ここではベースはダグ・ワトキンス(Doug Watkins)のロング・ソロを演奏の中心に据えた、12分半にも及ぶ各メンバーの熱演が繰り広げられております。
2曲目「Paul's Pal」はソニー・ロリンズ(Sonny Rollins)が作曲した名ベーシスト、ポール・チェンバース(Paul Chambers)に捧げた曲。
この曲もミディアムテンポの12分半と長尺の演奏であり、ドナルド・バード(Donald Byrd)のソロでは、1959年頃から流行り出すファンキー・スタイルの萌芽の様なモノを聴きとる事が出来たりします。
3曲目「Flute Blues」は、ボビー・ジャスパー(Bobby Jaspar)名義のファンキー風味なブルースで、ドナルド・バード(Donald Byrd)はお休みです(笑)。
7分程の演奏ですが、テーマ部のフルートとベースのデュオ部分からすでに、ファンキーな香りが漂ってきます。
ファンキー・ジャズの大名盤「Wynton Kelly - Kelly Blue (Riverside Records RLP 12-298/RLP-1142)」のフルート奏者は、そういえばボビー・ジャスパー(Bobby Jaspar)だったなあ・・・と。
4曲目「Ray's Idea」は、ベース奏者、レイ・ブラウン(Ray Brown)の作品。
7分程の演奏で、ピアニストのウォルター・デイビスJr.(Walter Davis Jr.)が中心と
なったピアノ・トリオが堪能出来ます。
ウォルター・デイビスJr.(Walter Davis Jr.)は、印象的な反復フレーズを多用する傾向がありますが、1989年に発売された「Walter Davis Jr. - Scorpio Rising (SteepleChase SCS-1255)」でも、同じソロ・フレーズが時々顔を出しますので、興味のある方はどうぞ。
5曲目「The Blues Walk」の作曲者はソニー・ステット(Sonny Stitt)だとアナウンスがありますが。
時々、クリフォード・ブラウン(Clifford Brown)名義だったりもする、何というか作曲者不詳(笑)な、シンプルなフレーズで構成されたブルースです。
9分程の演奏ですが、ここではドナルド・バード(Donald Byrd)のクリフォード・ブラウン愛(笑)が炸裂します。
続くボビー・ジャスパー(Bobby Jaspar)のソロは、もちろんソニー・ロリンズ(Sonny Rollins)風味(笑)。
ウォルター・デイビスJr.(Walter Davis Jr.)のピアノ・ソロを経て登場するダグ・ワトキンス(Doug Watkins)のソロがこれまた長いです。
最後に満を持して登場するドラムスのアート・テイラー(Art Taylor)とフロント陣のソロ交換は、このアルバム最大の聴き処かもしれません。
最後のテーマ部だけ切り取って聴かせると、ブラウン‐ローチ・クインテットの演奏と区別つかない人も出て来るかもしれない、完璧と言い切ってしまえるリスペクトな演奏ですね。と言っても、単なるパクリじゃないからね(笑)。
Donald Byrd - Byrd In Paris Vol. 1 (1958)
Brunswick 87 903 / Universal 422 833 994-2 [2000]
Gitanes Jazz Productions Jazz In Paris 04
side 1 (A)
01. Dear Old Stockholm (Traditional) 12:24
02. Paul's Pal (Sonny Rollins) 12:23
side 2 (B)
03. Flute Blues (Bobby Jaspar) 7:12
04. Ray's Idea (Ray Brown) 7:26
05. The Blues Walk (Sonny Stitt) 9:17
Donald Byrd (tp) Bobby Jaspar (ts,fl) Walter Davis Jr. (p) Doug Watkins (b) Art Taylor (ds)
October 22, 1958 at L'Olympia, Paris, France.
1958年初頭のドナルド・バード(Donald Byrd)は、ハード・バップ・スタイルの演奏を得意とするトランペッターとして、ジョン・コルトレーン(John Coltrane)のプレステッジ(Prestige Records)でのリーダー・セッションで演奏したり、1958年04月15日にペッパー・アダムス(Pepper Adams Quintet)名義のライブアルバム「Pepper Adams - 10 To 4 At The 5 Spot (Riverside RLP 12-265)」に参加したりと、充実した各種録音が残されております。
April 15, 1958 at Five Spot Cafe, NYC.
●Pepper Adams Quintet - 10 To 4 At The 5 Spot (Riverside RLP 12-265)
Decca Studios, London, England, August 24, 1958
●Dizzy Reece - Blues In Trinity (Blue Note BLP-4006)
<ヨーロッパ巡業>
October 22, 1958 at L'Olympia, Paris, France.
●Donald Byrd - Byrd In Paris Vol. 1 (Brunswick 87 903)
●Donald Byrd - Byrd In Paris Vol. 2 (Brunswick 87 904)
October 29, 1958 at "Au Chat", Paris, France.
●Donald Byrd Plays Au Chat - 0:15 (Jazz O.P. OMS 7001/02)
November 9, 1958 at Manhattan Towers, NYC.
●Art Blakey - Holiday For Skins Vol. 1 (Blue Note BLP-4004)
●Art Blakey - Holiday For Skins Vol. 2 (Blue Note BLP-4005)
December 21, 1958 at Van Gelder Studio, Hackensack, NJ.
●Donald Byrd - Off To The Races (Blue Note BLP-4007)
そういえば、1973年07月に開催された、モントルー・ジャズ・フェスティバル(Montreux Jazz Festival)に出演した際、録音されていたライヴ音源が発掘され発売されましたね。