加持顕のジャズに願いをのせて

新潟在住の加持顕(かじあきら)がジャズ名盤の個人的感想など綴ってます。

「Horace Silver – The Tokyo Blues (Blue Note) 1962」日本への感謝状的なアルバム

1962年のお正月、前年に来日したアート・ブレイキー(Art Blakey)が巻き起こしたファンキー・ブーム真っ只中の日本に、米国で絶大なる人気を誇るホレス・シルヴァーHorace Silver)のクインテットが初来日します。


米国に帰国して録音された「The Tokyo Blues (Blue Note)」は、熱狂的歓迎を受けたホレス・シルヴァーからの日本に対する「感謝状」的なアルバムなんでしょう。

 

「Horace Silver – The Tokyo Blues (Blue Note) 1962」日本への感謝状的なアルバム

さて、ジャケット、ライナーノートと徹底して「日本テイスト」でまとめるのがブルーノート(Blue Note Records)の凄い所。

 

ジャケットはブルーノートの専属カメラマン、フランシス・ウルフ(Francis Wolff)の手によりニューヨークの日本庭園で撮影したもの。

向かって左側の女性は、出光興産創業者の出光佐三さんの娘である、出光真子さんだとかと。

 

ジャケット裏に印刷されたライナー・ノートは、ホレス自身の冒頭コメントに続き、ジャーナリストの川畑篤彦さんが執筆。

 

で、アルバムは日本人好みであり、ホレス自身もお得意とする「ラテン・フィーリング」を強調した作風に仕上がっております。

 

タイトル・トラック「The Tokyo Blues」は、80年代に入ってからホレス自身のライブで、よく演奏されていた様です。

 


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蛇足ですが、このアルバムを紹介しようと思いたったきっかけは、ついこの間、私自身が「The Tokyo Blues」のマイナスワン使って演奏したから・・・という理由だす。

 

 

ドラムは長期入院中のロイ・ブルックスの替わり、ジョン・ハリスJr.(John Harris JR.)が参加。

シンバル・レガートをあまり使わずハイハットとスネア、そしてタムを中心とした独特なリズム・パターンを刻んでおります。

 

ブルー・ミッチェルBlue Mitchell)とジュニア・クック(Junior Cook)の鉄壁なフロント陣、ジーン・テイラー(Gene Taylor)のベースはそのまま。

 

1曲目「Too Much Sake」は、熱燗の日本酒を呑みすぎたホレス達を見た日本のジャズ・ドラマー、白木秀雄さんが呟いた一言から名付けられた日本人好みの短調、そしてラテン・フィーリングを強調した1曲。

 


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軽快なリズムに乗ったホレス・シルヴァーはバッキングにソロにと好調な演奏を聴かせてくれます。

 

前任のドラム、ロイ・ブルックス(Roy Brooks)の刻むリズムパターンが印象に残っているせいか、やや大人し目に聴こえますが、そういえば「Horace Silver - Silver's Serenade (Blue Note)」とかも、ドラムが目立たないようにしてましたね。

Silver's Serenade

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2曲目「Sayonara Blues」は訳すと「さよならブルース」か(まんま)。熱狂的な日本ツアーの終了を名残惜しんだのでしょうか。

原盤ライナーでは、ホレス自身が「mixed with happy and sad emotion」と言っております。


とても叙情的なイントロから、ラテン風味のテーマに移行した後、ブルー・ミッチェル、ジュニア・クックとも感情抑えめのソロを聴かせてくれます。

 

その後に続くホレス・シルヴァーのロングソロは、徐々に感情を爆発されていくかのようで圧巻。

 

 

タイトル・トラックの3曲目「The Tokyo Blues」は、中国の銅鑼を思わせるシンバルの連打が印象的な1曲。

 


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「東京ブルース」・・・なんだか演歌にありそうなタイトルですが、そういえば某歌謡曲で、東京砂漠~♪なんて歌詞もありましたね(笑)。

 

のり易い定型リズム・パターンをバックに、フロントのジュニア・クックとブルー・ミッチェルが、派手に盛り上げます。


ホレス・シルヴァーも、お得意のブロック・コードを多用しながらソロを綴っていきます。

 


4曲目「Cherry Blossom」は、ピアノトリオのみによる穏やかなバラッド演奏。

この曲は、サラ・ヴォーンの伴奏ピアニストであったロンネル・ブライト(Ronnell Bright)の作品です。

 

原盤ライナーにはその他の曲として、「Missing You」と「Sweet Pumpkin」が記載されておりますが、そういえば「Sweet Pumpkin」はリヴァー・サイド盤でブルー・ミッチェルも演奏してましたね。

 

 

 


5曲目、ラストは「Ah! So」。訳すとそのまま「あっ!そー」でしょうね。

 


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出航の合図を継げる銅鑼の音みたいなシンバルが鳴り響く中、イントロが始まります。

 

テーマ部では、軽快なアップテンポにまで速度アップし、疾走する船舶の如く各人が快調なソロを披露します。

 

そういう視点で聴くとこの曲はホレス版「Herbie Hancock - Maiden Voyage (Blue Note)」、あるいは「Lee Morgan - Search For The New Land (Blue Note)」ですね。

 

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Horace Silver – The Tokyo Blues (RVG)
Blue Note BST-84110 / 東芝EMI TOCJ-9068 [1999.01.27]
/ Blue Note 50999 2 65146 2 8 [2009.02.24]

 

side 1 (A)
01. Too Much Sake (Horace Silver)  6:47
02. Sayonara Blues (Horace Silver)  12:14

side 2 (B)
03. The Tokyo Blues (Horace Silver)  7:39
04. Cherry Blossom (Ronnell Bright)  6:11
05. Ah! So (Horace Silver)  7:07


Blue Mitchell (tp omit #4) Junior Cook (ts omit #4) 
Horace Silver (p) Gene Taylor (b) John Harris Jr. (ds) 

July 13 & 14, 1962 at Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ.

 

 

しかし、「The Tokyo Blues (Blue Note)」とタイトルつけて「日本の印象」から曲を作ったにも関わらず、琴や尺八ならまだしも、中華風の銅鑼が出てきたりするんですかねえ(笑)。

 

別のブログで記事にした事ありますが。

 

「The Dave Brubeck Quartet - Jazz Impressions Of Japan (Columbia CS-9012)」というアルバムも「日本の印象」なのに中華風の味付けがされていた・・・という記憶があるので、我々が大雑把な捉え方で、ヨーロッパとか南米の印象を「文化圏」単位でまとめてしまうのと、あんまり変わりないのかもしれません。

 

 

まあ、日本が古来から中華文化圏の影響を受けている事を意識してせずにいられないアルバムであります。