マイルス・デイヴス(Miles Davis)が、クスリの常習癖という束縛から解放された直後に録音されたセッションを収録したアルバムが「Walkin' (Prestige PRLP-7076)」です。
そんな背景もあった影響でしょうか。これまでの何処か陰りのある演奏から一変、マイルスの喜び満ち溢れた、明るく爽やかな演奏を聴く事が出来ます(笑)。
東セントルイスにある自宅の一室に鍵をかけて籠り、クスリ(ヘロイン)の常習癖を断ち切るという荒行を行ったマイルス。
ニューヨークに戻る前に、デトロイトで半年ほど地元のクラブに出演しつつ、クスリの誘惑から逃れる方法を模索していた様です。
クスリの誘惑から逃れられる確信が得られ、マイルスがニューヨークに舞い戻ったのが1954年02月。
即座にブルーノート(Blue Note Records)のアルフレッド・ライオン(Alfred Lion)とプレステッジ(Prestige Records)のボブ・ワインストック(Bob Weinstock)に電話し、「いつでもレコーディング出来る」旨、連絡を取ったそうです。
そんな理由でまず1954年03月06日、ブルーノート(Blue Note Records)で「Miles Davis Vol. 3 (Blue Note BLP-5040)」に収録される6曲を録音。
お次は1954年03月15日、「Miles Davis - Blue Haze (Prestige PRLP-7054)」に収録される3曲を録音します。
この時期にマイルスはプレステッジ(Prestige Records)と3年間の契約を結んだそうです。この契約履行のため、コロンビアと契約した後の1956年、2回に及ぶマラソン・セッションが実施された訳ですが、今回は詳細端折ります(笑)。
さて、ニューヨークに戻って3回目の録音が1954年04月03日、4回目の録音が1954年04月29日に行われ、今回の「Walkin' (Prestige PRLP-7076)」にまとめて収録されております。
この時期、マイルスはアート・ファーマー(Art Farmer)や、ジュールス・コロンビーというプレステッジ(Prestige Records)で働くアマチュア・トランぺッターから楽器を借りて演奏した様です。
他人の楽器で名演を残せるマイルスも凄いなあ・・・と思ったりしますね。
さて、1曲目と2曲目は1954年04月29日、ハッケンサックにあったルディ・ヴァン・ゲルダー(Rudy Van Gelder)のスタジオで録音されました。
マイルス・デイビス(Miles Davis)の他、J.J.ジョンソン(J.J. Johnson)のトロンボーン、ラッキー・トンプソン(Lucky Thompson)のテナーサックスがフロントに並びます。
リズム・セクションは、ホレス・シルヴァー(Horace Silver)のピアノ、パーシー・ヒース(Percy Heat)のベース、そしてスイングしてソフトに演奏出来、ブラシでの演奏が得意だという事で、アート・ブレイキー(Art Blakey)に代わりケニー・クラーク(Kenny Clarke)のドラムスをメンバーに選んだそうです。
1曲目の「Walkin'」は、リチャード・カーペンター(Richard Carpenter)の作曲。
ちなみに、カーペンターズ(The Capenters)の兄貴とは別人です。こちらは後述する通り、いわくつきの人物であったようです(笑)。
ケニー・クラークの叩き出すソフトなリズムにより、何だか格調高い演奏に仕上がっております。
ホレス・シルヴァーのファンキーなピアノ・バッキングを受け、マイルスも気持ちよさそうに演奏しております。
ちなみに「Walkin'」は、60年代の黄金クインテットで再び取り上げられ、ライブの定番曲として盛んに演奏されてましたね。
やや尻上がり気味にアップテンポで演奏される2曲目の「Blue 'n' Boogie」は、ディジー・ガレスピー(Dizzy Gillespie)らが書いた曲。
品格あるケニー・クラークのドラムスと、ファンキーなホレス・シルヴァーのピアノが、マイルスの意図するソフトなサウンドを生み出しております。
3曲目から5曲目は1954年04月03日、ハッケンサックのルディ・ヴァン・ゲルダー(Rudy Van Gelder)のスタジオで録音されたもの。
マイルス・デイビス(Miles Davis)の相方には、デイブ・シルドクラウト(Davey Schildkraut)のアルトサックスが加わります。
リズム・セクションは1、2曲目と同じ、ホレス・シルヴァーのピアノ、パーシー・ヒースのベース、ケニー・クラークのドラムスです。
3曲目「Solar」はマイルス・デイヴィス (Miles Davis)の自作曲 。
ケニー・クラークのブラシが作り出すソフトなバッキングが、マイルスのミュート・プレイを引き立てます。
ソロ二番手に登場するデイブ・シルドクラウト(Davey Schildkraut)のソフトなアルトサックスも聴きものですね。
4曲目「You Don't Know What Love Is」も、マイルスのミュート・トランペットが冴える1曲。ソロはマイルスのみというのが、潔いというか・・・。
5曲目「Love Me or Leave Me」は、ケニー・クラークのブラシに乗ってアップテンポで演奏されます。
マイルスのミュート・トランペットとデイブ・シルドクラウトのソフトなアルトサックス、そしてホレス・シルヴァーのファンキーなピアノが織りなすサウンドが絶品です。
Miles Davis All Stars - Walkin' (1954)
Prestige PRLP-7076 / OJCCD-213-2 / Victor Entertainment VICJ-60264 [1999.02.03]
side 1 (A)
01. Walkin' (Richard Carpenter) 13:29
02. Blue 'n' Boogie (Dizzy Gillespie, Frank Paparelli) 8:19
side 2 (B)
03. Solar (Miles Davis) 4:45
04. You Don't Know What Love Is (Don Raye, Gene de Paul) 4:23
05. Love Me or Leave Me (Gus Kahn, Walter Donaldson) 6:56
#01,02 April 29, 1954 at Van Gelder Studio, Hackensack, NJ.
Miles Davis (tp) J.J. Johnson (tb) Lucky Thompson (ts) Horace Silver (p) Percy Heath (b)
Kenny Clarke (ds)
#03-05 April 3, 1954 at Van Gelder Studio, Hackensack, NJ.
Miles Davis (tp) Davey Schildkraut (as #3,5) Horace Silver (p) Percy Heath (b)
Kenny Clarke (ds)
「Walkin' (Prestige PRLP-7076)」収録曲が、10インチレコードで発売された際の詳細も付記しておきます。
●Prestige PRLP-182 Miles Davis
side 1 (A)
01. Blue 'n' Boogie (Dizzy Gillespie, Frank Paparelli) 8:19
side 2 (B)
02. Walkin' (Richard Carpenter) 13:29
Miles Davis (tp) J.J. Johnson (tb) Lucky Thompson (ts) Horace Silver (p) Percy Heath (b)
Kenny Clarke (ds)
April 29, 1954 at Van Gelder Studio, Hackensack, NJ.
●Prestige PRLP-185 Miles Davis Quintet
side 1 (A)
01. Solar (Miles Davis) 4:45
02. You Don't Know What Love Is (Don Raye, Gene de Paul) 4:23
side 2 (B)
03. You Don't Know What Love Is (Don Raye, Gene de Paul) 4:23
04. I'll Remember April (Gene DePaul-Don Raye, Patricia Johnson) 6:56
Miles Davis (tp) Davey Schildkraut (as #1,3,4) Horace Silver (p) Percy Heath (b)
Kenny Clarke (ds)
April 3, 1954 at Van Gelder Studio, Hackensack, NJ.
「Walkin'」を作曲したとされるリチャード・カーペンター(Richard Carpenter)ですが、チェット・ベイカーの生涯を追った本を読むと後に麻薬中毒であったらしいタッド・ダメロン(Tadd Dameron)やチェット・ベイカー(Chet Baker)を囲い込み、住む場所を与えたりマネージャーやっていた人物です。
リチャード・カーペンターは、麻薬中毒のミュージシャンが書いた曲を自分名義で登録して印税を得ていたという事知られており、ちょっといかがわしい人物であった様です。
なので「Walkin'」も、麻薬中毒だったミュージシャンが書いた曲を、クスリと引き換えに自分名義で登録したものではないかと推測されます・・・。