ピアノのビル・エヴァンス(Bill Evans)が、ベースのスコット・ラファロ(Scott LaFaro)、ドラムスのポール・モチアン(Paul Motian)と結成したピアノ・トリオは、それまでのベースとピアノがソロ以外の時はリズムキープに徹するという暗黙の了解を打ち破り、演奏の全編で「ベースがちょっかい(笑)を出してかまわない」という慣例を作り出しました。
演奏中におけるビル・エヴァンス(Bill Evans)とスコット・ラファロ(Scott LaFaro)の丁々発止なやりとりは「インタープレイ」などと呼ばれ、1961年06月25日に「Village Vanguard」で収録されたライブ録音の直後の1961年07月06日、交通事故で急逝するまで断続的ではあるものの、スタジオ録音とライブでの共演が続いていた模様。
スコット・ラファロ(Scott LaFaro)は仕事であれば何でもオッケー、という風情で、ビル・エヴァンス(Bill Evans)と共演している期間にも、フリージャズの巨人・オーネット・コールマン(Ornette Coleman)の問題作「Free Jazz (Atlantic SD-1364)」に参加したり、クールジャズの帝王・スタン・ゲッツ(Stan Getz)のバンドに参加したりと、どんなスタイルでも演奏出来る万能ぶりを発揮しております。
さて話を戻して。
この革新的なトリオはリバーサイド(Riverside Records)に計4枚のアルバムとして発売されております。
最初に、1959年12月28日録音「Portrait In Jazz (Riverside RLP 12-315)」と、1961年02月02日録音「Explorations (Riverside RLP-9351)」という2枚のスタジオ録音を発売。
続いて1961年06月25日録音のライブ盤「Sunday At The Village Vanguard (Riverside RLP-9376)」、同じライブから、スコット・ラファロ(Scott LaFaro)の追悼盤として急遽編纂された「Waltz For Debby (Riverside RLP-9399)」が発売されますが、これらのアルバムは、すでにご紹介しております。
このビル・エヴァンス(Bill Evans)トリオが残した4枚のアルバムは、聴き易さと適度な刺激が心地よいためか、ジャズ界隈永遠ベストセラー・アルバムとして未だ売れ続けており、飲食店内のBGMなどで耳にする機会も多いですね・・・。
さてそんな不滅のビル・エヴァンス(Bill Evans)トリオのスタジオ録音第1弾が「Bill Evans Trio - Portrait In Jazz (Riverside RLP 12-315)」です。まあ知的な印象を醸し出す眼鏡をかけたビル・エヴァンス(Bill Evans)がドアップなジャケットにヤラれ、どれだけの人が、このアルバムを購入したのか・・・。
ちなみにこの眼鏡が復刻され、「BROS JAPAN」から「BJ CLASSIC COLLECTION」として発売されている様ですから、興味のある方はお探し下さいませ。
全編でビル・エヴァンス(Bill Evans)の研ぎ澄まされた雑味の少ないピアノのハーモニーと、スコット・ラファロ(Scott LaFaro)のぐいぐい引っ張るベースとの刺激的なやりとりをお楽しみいただけます。
アルバムを聴いていると同じ雰囲気の曲が並び、あっというまに聴き終わってしまう印象があるので、曲紹介は何曲かかいつまむだけに留めます。
「枯葉(Autumn Leaves)」は、ピアノ・トリオによる「枯葉」の定番演奏として、
数多の媒体で紹介される名演中の名演で解説不要、ただただ、お聴き下さい。
アップテンポ気味で演奏されるコール・ポーター(Cole Porter)の名曲「What Is This Thing Called Love」では、ソロの最初に聴く事が出来るビル・エヴァンス(Bill Evans)とスコット・ラファロ(Scott LaFaro)の「インタープレイ」で、しびれてしまいますね。
「Blue in Green」は最初、マイルス・デイヴィス(Miles Davis)作曲で登録されたけど、実際にはビル・エヴァンス(Bill Evans)も関わってるという事で、このアルバムでは「Davis-Evans」と共作としてクレジットされております。
ビル・エヴァンス(Bill Evans)らしい耽美なピアノに、延々絡むスコット・ラファロ(Scott LaFaro)がかなりの刺激を与えていた事が、この演奏から垣間見えたりします。
Bill Evans Trio - Portrait In Jazz +2 (1959)
Riverside RLP 12-315/RLP-1162 /OJCCD-088-2 / Victor Entertainment VICJ-60291[1999.03.31]
01. Come Rain Or Come Shine (Mercer-Arlen) 3:19
02. Autumn Leaves [take 1] (Prevert-Mercer-Kosma) 5:54
03. Autumn Leaves [take 2, mono] 5:19
04. Witchcraft (Leigh-Coleman) 4:30
05. When I Fall In Love (Heyman-Young) 4:52
06. Peri's Scope (Bill Evans) 3:10
07. What Is This Thing Called Love (Cole Porter) 4:32
08. Spring Is Here (Rodgers-Hart) 5:02
09. Someday My Prince Will Come (Morey-Churchill) 4:50
10. Blue in Green [take 3] (Davis-Evans) 5:20
11. Blue in Green [take 2, mono] (Davis-Evans) 5:20
Bill Evans (p) Scott LaFaro (b) Paul Motian (ds)
December 28,1959 at Reeves Sound Studios, NYC.
まあ、何処かで読んだ裏話によると、大家族を抱えていたらしいスコット・ラファロ(Scott LaFaro)が度々、「給料を上げてくれ」と直談判してたらしいので、「給料上げてくれないとピアノより目立っちゃうよ」と演奏中ちょっかい出してたら、それが巷で「インタープレイ」などと呼ばれ、そのうち「これは革新的なトリオだ!」と持ち上げられちゃった・・・なんてオチがあったりするかもしれません(笑)。
そういう裏視点を念頭に演奏を聴くと、演奏途中にラファロが「もっと給料上げて~」とベースでちょっかい出すと、少しいらっとしたエヴァンスが「ギャラが少ないから無理~」とピアノで返答している様に聴こえたりします(効能には個人差があります)。