「Bill Evans Trio – Explorations (Riverside) 1961」革新的なピアノ・トリオの第2弾
ピアノのビル・エヴァンス(Bill Evans)が、ベースのスコット・ラファロ(Scott LaFaro)、ドラムスのポール・モチアン(Paul Motian)と結成した革新的なピアノ・トリオ。
ベースがリズムキープという役割を超え、ピアノと対等に自由な動き(ソロ)をすることで、お互いに刺激を与え合うという演奏スタイルは、バド・パウエル(Bud Powell)を始祖とし、ハード・バップ時代まで続いたピアノ、ベース、ドラムという編成のピアノ・トリオの演奏スタイルを根底から揺るがす、革新的なアイデアであったと思われます。
ただ、ベースがリズム・キープにこだわらないという事は、自由な音空間を作り出す事が出来る反面、「定型ビート」が生み出す高揚感が薄れるという欠点もあります。
てな訳で「定型ビート」と「ジャズの歴史」の流れに関する考察を書き出してみたら、思いのほか長くなったので、後ろに置いておきますね。
さて、革新的なビル・エヴァンス(Bill Evans)が1961年02月02日に行ったスタジオ録音第2弾が、「Bill Evans Trio – Explorations (Riverside RLP-351/RLP-9351)」であり、ビル・エヴァンス(Bill Evans)が何度も再演する名曲が揃ったアルバムでもあります。
全曲解説すると、とーっても長くなりそうなので、何曲かだけの紹介に留めます。
哀愁感たっぷりな1曲目「Israel」は、ビル・エヴァンス(Bill Evans)が好んで演奏
した1曲かもしれません。
ビル・エヴァンス(Bill Evans)の後に登場する、スコット・ラファロ(Scott LaFaro)の前のめり気味なベース・ソロも聴き処の一つで、最後に登場するドラムスのポール・モチアン(Paul Motian)とビル・エヴァンス(Bill Evans)のソロ交換も刺激的でございます。
3曲目「Beautiful Love」も、ビル・エヴァンス(Bill Evans)がよく演奏してる印象がありますね。
ポール・モチアン(Paul Motian)がブラシで生み出す軽快なテンポにのせ、ビル・エヴァンス(Bill Evans)とスコット・ラファロ(Scott LaFaro)が気ままな「インタープレイ」を繰り広げております。
5曲目「Nardis」は名曲ではありますが、作曲者であるマイルス・デイヴィス(Miles Davis)自身の演奏を聴いた記憶がないという不思議な曲であります。
少しピリっとした雰囲気から始まり、スコット・ラファロ(Scott LaFaro)のゆったりとした長めのベース・ソロで一息つけるといった感じですか。
続くビル・エヴァンス(Bill Evans)のソロは、何というかロマンテックな雰囲気ですね。
一作目よりバンドとしての一体感が増してきた感じがする演奏が詰まった「Bill Evans Trio – Explorations (Riverside RLP-351/RLP-9351)」、何故か日のさす窓際にたたずむビル・エヴァンス(Bill Evans)の姿が、アルバム全編で聴く事が出来る、何とも儚げな演奏にはぴったりだったりします。
Bill Evans Trio – Explorations +2 (1961)
Riverside RLP-351/RLP-9351 / OJC-037 / Victor VICJ-60294 [1999.03.31]
side 1 (A)
01. Israel (John Carisi) 6:10
02. Haunted Heart (Dietz - Schwartz) 3:25
03. Beautiful Love (Take 2) (Alstyne, Gillespie, Young, King) 5:04
04. Elsa (Earl Zindars) 5:09
side 2 (B)
05. Nardis (Miles Davis) 5:49
06. How Deep Is The Ocean (Irving Berlin) 3:31
07. I Wish I Knew (Warren, Gordon) 4:39
08. Sweet And Lovely (Arnheim, Tobias, Lemare) 5:52
CD Bonus Tracks
09. Beautiful Love (Take 1) (Alstyne, Gillespie, Young, King) 6:04
10. The Boy Next Door (Martin, Blane) 5:06
Bill Evans (p) Scott Lafaro (b) Paul Motian (ds)
February 2, 1961 at Bell Sound Studio in NYC.
以下、かなり長いですが「定型ビート」がもたらす効能を説明するついでに、「ジャズの歴史」の流れなど記しておきます。
ジャズという音楽は、ニューオリンズという港町で酒場のBGMとか葬儀の盛り上げ役として生まれた「ディキシー・ランド・ジャズ」が、PA設備が貧弱だった時代にダンスの伴奏役として大編成で演奏する「ビック・バンド」形式に形を変えた事で、爆発的な人気を得た事から大衆に一番馴染のある音楽として発展しました。
その、ダンスに欠かせないのが踊るための基準となるマンボ、ルンバなどと形式事に指定される「定型ビート」でありまして・・・。
ちなみにジャズを「大衆音楽」から「芸術的な音楽」へと持ち上げた「ビバップ」という演奏スタイルは、分かりやすい「ダンス音楽」を、「ビートを踊れないレベルに細分化」し、「奏でるハーモニーを複雑化」するという、究極的に「(大衆が)踊れない音楽」に変質させた、「ミュージシャンの自己満足のみ追求した演奏スタイル」なんですね。
「頭は良くても意地の悪い」ミュージシャン達を中心に形作られた「ビバップ」という演奏スタイルは、一部に熱狂的な支持を受けたものの、商業的な売り上げ的にはまったく貢献しないのは当然な訳で(笑)。
芸術性が高いと言っても、そんな大衆に背を向けた音楽じゃ、金が稼げないじゃないかと頭を抱えたマイルス・デイヴィス(Miles Davis)など、知性派ミュージシャンが中心となり、ビバップが持つ芸術性を保持しつつ、ミュージシャンの我儘度合いを薄め、出来るだけ分かりやすいジャズとして誕生したのが「クール・ジャズ」や、「ハード・バップ」という訳です。
その結果、「Miles Davis - Birth Of The Cool (Capitol T-792)」などのアルバムで、ようやく大衆に受け入れられ、商業的にも成功を収める事となったんですね・・・。
で、「ビバップ」を大衆寄りに改良した「クール・ジャズ」、「ハード・バップ」が隆盛を極めた頃に突如登場したのが、非大衆的な「フリー・ジャズ」という演奏スタイル。
大雑把に「前衛ジャズ」にカテゴライズされるであろう「フリー・ジャズ」は、芸術性は高いのかもしれませんが、理解出来る人は限られます。
「フリー・ジャズ」を簡単に説明すると、ジャズを構成する「コード進行」と「決まった小節数」を放棄した、一見「なんでもあり」な音楽スタイルです。
つまりテーマ・メロディを奏でた後、各メンバーが「コード進行」と「決まった小節数」を無視し、気のすむまで吹いてオッケー、という演奏スタイルです。
ただ、他のメンバーも演奏している事から、暗黙の了解というか「一定の縛り」が発生する訳で。
その「一定の縛り」を、フリー・ジャズの中心的人物だったオーネット・コールマン(Ornette Coleman)は、「ハーモロディクス(Harmolodic)」という怪しい理論であると吹聴していた訳ですが。
オーネット・コールマン(Ornette Coleman)が2015年に亡くなるまで「口伝」的には説明していたものの、「論文」という形で音楽関連の学会等で、正式に発表される事はなかったみたいです。
まあ、ここまで長々と説明したのは、スコット・ラファロ(Scott LaFaro)がビル・エヴァンス(Bill Evans)トリオで聴かせる「ベースがリズムキープという役割を超え、ピアノと対等に自由な動き(ソロ)をするという奏法(演奏)」は、非大衆的な「フリー・ジャズ」のコンセプトを、しれっとこのトリオに導入していたのではないか、
と思い当たったからです、はい。
ぐいぐいと力強いウォーキング・ベースでメロディアスなベース・ソロを聴かせてくれるスコット・ラファロ(Scott LaFaro)ではありますが、演奏の根底には明らかに「フリー・ジャズ」のコンセプトが横たわっていた訳ですね。
とは言え、演奏中にベースで「給料上げてくれー」とビル・エヴァンス(Bill Evans)に突っかかっていくのに「フリー・ジャズ」の演奏手法がぴったりだったという事だったのかもしれませんが(笑)。
それを受けたビル・エヴァンス(Bill Evans)は、「お前の給料上げる位なら、ヘロインに使うわー」と思ってたのかもしれません。
脱線ついでに、ビル・エヴァンスは、麻薬の一種であるヘロインに溺れていた様で、そこに喫煙の影響も加わり前歯がボロボロの状態になっていたみたいです。
ジャケット写真で笑顔を見せないおすまし顔が多いのは、ボロボロの歯を写さないためだった、という裏話もある模様。
参考までに、1960年から1961年初頭にかけ、スコット・ラファロ(Scott LaFaro)が
ビル・エヴァンス(Bill Evans)トリオ以外で残したスタジオ録音を書き記しておきますね。
1960年04月13日には、「Booker Little - Booker Little (Time 52011, S/2011)」に参加。
1960年12月19日、20日には、「John Lewis Presents Contemporary Music - Jazz Abstractions (Atlantic SD-1365)」に参加。
翌日の1960年12月21日には、「The Ornette Coleman Double Quartet - Free Jazz (Atlantic SD-1364)」に参加。
「Explorations (Riverside RLP-351/RLP-9351)」を録音する直前の1961年01月31日には、「The Ornette Coleman Quartet - Ornette! (Atlantic SD-1378)」に参加しております。
「優雅でお洒落なジャズ」の典型的演奏という認識を持つ人が多いと思われるビル・エヴァンス(Bill Evans)トリオでの演奏と同じ時期、ベースのスコット・ラファロ(Scott LaFaro)は前衛ジャズとかフリー・ジャズにどっぷり関わっていた訳です(笑)。
その点に気が付くと、メロディアスなのにやたらぐいぐい迫ってくるようなスコット・ラファロ(Scott LaFaro)のベース・プレイの謎が、少しだけ理解出来た気がします。
そうかー、お洒落だと思われたトリオでも、スコット・ラファロ(Scott LaFaro)は「フリー・ジャズ」やってたんだなー、と。
ビル・エヴァンス(Bill Evans)トリオに関する以前の投稿は、下記からどうぞ。
スコット・ラファロ(Scott LaFaro)との四部作は、これにて完結。