加持顕のジャズに願いをのせて

新潟在住の加持顕(かじあきら)が、ジャズの名盤について個人的感想を気まぐれに投稿。

「The Quintet - Jazz At Massey Hall (Debut) 1953」ビバップ時代の消化試合的アルバム

「Jazz At Massey Hall (Debut DEB-124)」は1953年05月15日、カナダ・トロントの「Massey Hall」で開催された、ビバップの巨人達が競演する歴史的なコンサートの実況録音盤。

 

演奏メンバーは、ビバップ(Be-Bop)ジャズの歴史には欠かせない、我が強く、個性的すぎる超有名ミュージシャンが揃い。

 

「The Quintet - Jazz At Massey Hall (Debut) 1953」ビバップ時代の消化試合

トランペットはディジー・ガレスピーDizzy Gillespie)、アルトサックスはチャーリー・パーカーCharlie Parker)というフロント陣に、ピアノのバド・パウエルBud Powell)という、ビバップ(Be-Bop)ジャズの師範格と目される面子が勢ぞろい。

 

ベースのチャールス・ミンガス(Charles Mingus)、ドラムスのマックス・ローチMax Roach)は演奏だけでなく、この音源の発売にも関わっております。

 

ビバップ(Be-Bop)」というスタイルは、ダンスの伴奏が主な目的であり大衆音楽的要素が強い、「スイングジャズ(Swing Jazz)」から派生したものだと捉える事が出来ます。

「スイングジャズ」との差別化を図るためか、演奏する曲のコード進行を複雑にし、アップテンポで曲芸的な奏法をあえて行うという、日本的な例えで表現すると「歌舞(かぶ)く」事を「粋」と考えるミュージシャン達が造り上げた演奏スタイルが「ビバップ」なんだと言えるのでは。

 

「Jazz At Massey Hall (Debut)」というアルバムは、ジャズの師範格が勢ぞろいするコンサートの記録ではあるものの、1953年頃はすでにビバップ全盛期を過ぎた時期にあたります。

まあ、日本の野球に例えると、優勝が決まった後の「消化試合」的な雰囲気漂うライブであったりもします。


カナダ・トロントの「Massey Hall」で開催されたコンサートですが、主催は「トロント・ニュージャズ・ソサエティ(The Toronto New Jazz Society)」とのこと。

 

また、ディジー・ガレスピーチャーリー・パーカーが共演した最後の記録なんだそうです。

 

1曲目の「Perdido」を聴いてもらえば分かりますが、CD化に伴うデジタルリマスターにより、クリアな音で演奏を楽しむ事が出来ます。

 


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6曲目「A Night In Tunesia」のアルトサックスによるソロ・ブレイクは、とっても安定しているものの、チャーリー・パーカーが軽く吹き流してる感ありありですね。代わりにソロに入ると、随所に高速フレーズが飛び出しますが。

 


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舞台裏的な話も少し。

 

まず不幸な事に、この日は同じ時間帯にロッキー・マルシアノ(Rocky Marciano)と、ジャーシー・ジョー・ウォルコット(Jersey Joe Walcott)によるボクシングの試合がありまして。

 

コンサートを見に来る観客層が被ったためか、大ホールを押さえたコンサートだったにも関わらず、ミュージシャンへのギャラが捻出出来ないほどの散々な集客状況だったとか・・・結局、チャーリー・パーカー以外のメンバーは、ギャラを受け取れなかったそうです。

 

チャーリー・パーカーが質屋に入れた自分の楽器の代わりに、借りてきた白いプラステック製のアルトサックス(Grafton Saxophone)で演奏したとか。

ディジー・ガレスピーがボクシングの試合が気になって、自分のソロが終わると楽屋に引っ込んではテレビを見てたとか・・・。

ボクシングの試合を気にして演奏に集中しないディジーに、真面目なチャールス・ミンガスが切れかかってたとか・・・・・。

 

まあ、要するに「我が強く個性的すぎるメンバーが集まった時あるある」的な、あまり芳しくない逸話には事欠かないコンサートでもあります。

 

この最強師範格メンバーで演奏された唯一の公式音源らしいので、ジャズ初心者が「ビバップ(Be-Bop)」時代の巨人達の演奏を、まとめて手っ取り早く聴く分には、お勧め出来る1枚です。

 

The Complete Savoy Masters

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ビバップ(Be-Bop)」時代に残された素晴らしい演奏の数々は、チャーリー・パーカーCharlie Parker)名義のダイヤルレコード(Dial Records)盤とか、サヴォイレコード(Savoy Records)盤などを聴いてみて下さい。

 

The Quintet - Jazz At Massey Hall 
Debut DEB-124 / VICJ-41561 [2006.01.21]

side 1 (A)
01. Perdido (Drake, Lengsfelder, Tizol)  7:59
02. Salt Peanuts (Gillespie, Clarke)  7:33
03. All The Things You Are (Kern, Hammerstein)  7:54

side 2 (B)
04. Wee (Dizzy Gillespie)  6:50
05. Hot House (Tadd Dameron)  9:21
06. A Night In Tunesia (Gillespie, Paparelli)  7:31


The Quintet
Dizzy Gillespie (tp,vo) Charlie Parker as Charlie Chan (as) 
Bud Powell (p) Charles Mingus (b) Max Roach (ds) 

May 15, 1953 at Massey Hall, Toronto, Canada.

 

ギャラ代わりにコンサートの「録音テープ」を受け取ったチャールス・ミンガスとマックス・ローチは、自身のレコード会社「Debut」から、このコンサートを収録したアルバム「Jazz At Massey Hall (Debut)」を発売したという経緯のようです。

 

Jazz at Massey Hall -Ltd-

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また、当初発売した際は、チャールス・ミンガスが録音レベルが低かったベースをオーバーダビングし、「All The Things You Are」に関しては、ベース・ソロを差し替えて発売してたそうです。

 

COMPLETE JAZZ AT MASSEY HALL

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昨今のCDでは、リマスターされた「オリジナル音源」に差し替えて発売しているみたいですね。

 

このコンサートにはもう1枚、同日録音の「Jazz At Massey Hall Vol. 2 (Debut DLP-3)」が発売されているので次回、ご紹介します。