加持顕のジャズに願いをのせて

新潟在住の加持顕(かじあきら)が、ジャズの名盤について個人的感想を気まぐれに投稿。

「Andrew Hill - Black Fire (Blue Note) 1964」シカゴの奇才ピアニストが残した最高作

ブルーノート(Blue Note Records)が売り出した新主流派ピアニストの一人が、アンドリュー・ヒル(Andrew Hill)です。

 

アンドリュー・ヒルは、私が一番好きなジャズミュージシャンでありまして、2007年に逝去した際は、別のブログではありますが「追悼特集」を10回位連続でやった位好きです。

 

さて、キューバのお隣、カリブ海に浮かぶ島国・ハイチで生まれ、シカゴに移住した彼のシカゴ時代の音楽仲間であったのが、テナーサックスのジョー・ヘンダーソンJoe Henderson)。

 

そんな繋がりで、ジョー・ヘンダーソンブルーノート(Blue Note Records)にアンドリュー・ヒルを紹介したんだそうです。

 

「Andrew Hill - Black Fire (Blue Note) 1964」シカゴの奇才ピアニストが残した最高作

さて、1964年に録音されたブルーノート初リーダーアルバム「Black Fire (Blue Note BST-84151)」は、再発CDの帯に書かれている通り、「ブルーノートが見出した独特な才能=アンドリュー・ヒルの最高作」です。


で、何が最高なのか・・・これは「一番聴きやすい」と置き換えた方が理解し易いかな、と。


この「Black Fire (Blue Note)」は、アンドリュー・ヒルが持つ「二面性」が程好くミックスされたアルバムだと思われます。

 


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一つの面が、屈折したテーマを持つ1曲目「Pumpkin」で聴ける、フリーギリギリの「過激」さ。

 

 


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もう一つの面が、トリオでの5曲目「Tired Trade」で聴ける、ハービー・ハンコックHerbie Hancock)にも通じる「耽美」な部分です。

 

 

どちらの要素も素晴らしいと思うのですが、アンドリュー・ヒル(あるいはオーナーのアルフレッド・ライオン)が選択した方向は前者の「過激さ」でした。

 

その結果、ミュージシャン達から圧倒的な「名声」は得られましたが、「富(売り上げ)」からは見放されっぱなしだったように思われます。


アルバム「Black Fire (Blue Note)」であと注目すべき点は、シカゴ時代の音楽仲間であるテナーサックスのジョー・ヘンダーソンを筆頭に、アンドリュー・ヒルと「同じコンセプトで演奏出来る」ミュージシャンが揃っている事。

 

アンドリュー・ヒルの演奏の特徴の一つは、リズムを「繋げる」のではなく意図的に「ザクザク刻む(繋げない)」事なのですが・・・。

 

このアルバムではドラムのロイ・へインズ(Roy Haynes)と、テナーのジョー・ヘンダーソンJoe Henderson)が彼のコンセプトを十分に理解し、ビートをサデスティクに切り刻んでいます。


また全員がソロをやっているかのような「主従なき」演奏スタイルは、ビル・エバンスBill Evans)とスコット・ラファロScott LaFaro)が試みた「インタープレイ」に通じるのでは、と思われます。

 

 

ロイ・へインズが曲中ずっと「まともな4ビートを刻まない」理由は、ビル・エバンス・トリオの「インタープレイ」を、「ピアノとベース」ではなく「ピアノとドラム」で試みているからだと思ったりします。

 


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なおこの「インタープレイ」を「ピアノとテナー」でやっているのが、6曲目「McNeil Island」ですね。

 

ブルーノートにおける初リーダーアルバムが全曲自作というアンドリュー・ヒル(Andrew Hill)ですが、以降のアルバムも短期間に連続して録音しても、(確か)全曲自作という物凄い想像力であったようです。

 

Point of Departure

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ブルーノートのオーナー、アルフレッド・ライオン(Alfred Lion)は新主流派のもう一方の雄、ハービー・ハンコックと同じ大きさの広告を出すほど入れ込んでいたようですが。

その情熱に反比例するかのようにアルバムは思ったほど売れず、最初期に入れ込んだ個性の塊、セロニアス・モンクThelonious Monk)同様に、大量の未発表録音が積み重なっていくだけだった模様。

 

ただ売れない時期にアンドリュー・ヒルは教育者として後進の指導にあたり、ミュージシャン達からは絶大なる信頼を勝ち得ていたみたいです。

 

Andrew Hill - Black Fire +2 (RVG)
Blue Note BST-84151 / 東芝EMI TOCJ-9585 [2004.02.25]

 

side 1 (A)
01. Pumpkin (Andrew Hill)  5:24
02. Subterfuge (Andrew Hill)  8:04
03. Black Fire (Andrew Hill)  6:56

side 2 (B)
04. Cantardos (Andrew Hill)  5:42
05. Tired Trade (Andrew Hill)  5:51
06. McNeil Island (Andrew Hill)  2:58
07. Land Of Nod (Andrew Hill)  5:48

Bonus Tracks
08. Pumpkin (alternate take) (Andrew Hill)  5:17
09. Black Fire (alternate take) (Andrew Hill)  5:45


Joe Henderson (ts #1,3,4,6-9) Andrew Hill (p) Richard Davis (b) Roy Haynes (ds #1-5,7-9)

November 8, 1963 at Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ.

 

 

Black Fire

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ブラック・ファイア

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ジョー・ヘンダーソンの話だと、アンドリュー・ヒルは、「カクテル・ピアノからフリー・ジャズまで、何でもこなせるピアニスト」なんだとか。

 


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ちなみにカクテル・ピアノ・スタイルでの演奏が聴けるのが、1955年にシカゴで録音された「Andrew Hill - So In Love (Warwick W-2002)」です。

 

 

新潟にライブの来た時から意気投合した、アメリカ在住の米澤めぐみさんは、アンドリュー・ヒルを代表とするシカゴ派のスタイルで演奏する日本では珍しいタイプのジャズピアニストです。

 


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新譜も精力的に発売されておりますので、興味のある方はどうぞ。