「Miles Davis Vol. 1 (Blue Note BLP-1501)」ブルーノートのマイルス(1)
マイルス・デイヴィス(Miles Davis)は「麻薬の虜」になっていた1952年から1954年にかけ、毎年1回の割合で、良き理解者として付き合っていたアルフレッド・ライオン(Alfred Lion)が経営するブルーノート(Blue Note Records)で録音を行っております。
「自身の実力」と「世間の評価」とのギャップに悩み、麻薬に逃避してはいたものの、音楽家としてのプライドは保ち続けたマイルスが1954年、ついに麻薬癖から脱するまでのドキュメンタリーとしての側面も、ブルーノートのセッションは持ち合わせているような気がします。
3回に渡るセッションは、CD化されてから様々なフォーマット(曲順)で発売されておりますが、オリジナル12インチレコードのフォーマットが聴いていて一番しっくりくるので、それに準拠した内容で書き記していきたいと思います。
このアルバム「Miles Davis Vol. 1 (Blue Note BLP-1501)」は、曲順からして1953年、2回目のセッションを中心に編纂されていると思われます。
さて、最初「Miles Davis Vol. 2 (Blue Note BLP-5022)」として発売された1953年04月20日のセッションにはマイルスの他、トロンボーンのJ. J. ジョンソン(J.J. Johnson)、テナー・サックスのジミー・ヒース(Jimmy Heath)、ピアノのギル・コキンズ(Gil Coggins)、ベースのパーシー・ヒース(Percy Heath)、ドラムスのアート・ブレイキー(Art Blakey)が参加しております。
1曲目「Tempus Fugit」は、バド・パウエル (Bud Powell) の作品。
アート・ブレイキーの焚きつけるようならドラムに導かれ、壮絶なブローを展開するマイルス。
ジミー・ヒース、J. J. ジョンソン、アート・ブレイキーと華麗なるソロ・リレーの後、
タバコの煙漂うが如き雰囲気の後テーマの3管アンサンブルが登場する、この「Tempus Fugit」1曲だけで、「Miles Davis Vol. 1 (Blue Note BLP-1501)」に収録された曲の素晴らしさが実感出来る気がします。
要するに、1曲目の「Tempus Fugit」だけ聴けば他のトラック聴かなくても、アルバムの感想が書けるレベルの出来でございます。
2曲目「Kelo」は、J. J. ジョンソン(J.J. Johnson) の作品。
この曲でもアート・ブレイキーの理知的なドラムスが、マイルスの演奏を過不足なく的確に盛り上げる要素となっており、ジミー・ヒース、J. J. ジョンソン、ギル・コキンズ共、短いながらも印象深いソロを聴かせてくれます。
3曲目「Enigma」は、J. J. ジョンソン(J.J. Johnson) の書いた優雅な雰囲気漂うバラッド。
マイルスが吹くリード・テーマにアンサンブルがからむテーマ部が終わった後、ギル・コキンズのみソロをとり、再びアンサンブルに戻ります。
4曲目「Ray's Idea」は、ギル・フラー(Gil Fuller)とレイ・ブラウン(Ray Brown)の共作。
アート・ブレイキーの理知的なドラムスに導かれ、重厚な3管アンサンブルが出て来ますが、マイルスがソロを吹くバックでも、アンサンブルが登場します。
しかし、マイルスとアート・ブレイキーのコンビネーションは、何時聞いても興奮しますね。
6曲目「C.T.A. [alternate master]」と11曲目「C.T.A.」は、アップテンポで演奏されるジミー・ヒース(Jimmy Heath)の作品で別テイクの方が若干、短いです。
あと、本テイクの方が、各メンバーの演奏に戸惑いがない感じがします(笑)。
残る最初「Young Man With A Horn (Blue Note BLP-5013)」として発売された1952年05月09日のセッションにはマイルスの他、トロンボーンのJ. J. ジョンソン(J.J. Johnson)、アルトサックスのジャッキー・マクリーン(Jackie McLean)、ピアノのギル・コキンズ(Gil Coggins)、ベースのオスカー・ペティフォード(Oscar Pettiford)、ドラムスのケニー・クラーク(Kenny Clarke)が参加しております。
5曲目「How Deep Is The Ocean」とは、マイルスのワンホーンによる演奏で、リズム隊が控えめであるため、マイルスのリリカルなトランペットの音色が引き立った演奏です。
7曲目「Dear Old Stockholm」は、霧深いというか凍てついた夜中のストックホルムといった風情の演奏で、コロンビア・レコードでの再演の様なド派手さはないものの、味わい深い演奏となっております。
8曲目「Chance It」は、オスカー・ペティフォード(Oscar Pettiford)が書いたアップテンポの曲であり、ビバップ時代の曲にありがちなテーマながら、アンサンブルにバッキングにと、かなり手の込んだ編曲が施されております。
9曲目「Yesterdays」は再び、マイルスのワンホーンによる演奏。
ジャッキー・マクリーンがこの曲を上手く吹けないため、ワンホーンで演奏したという裏話もあったりしますが、それはさておき、マイルスのリリカルでありながら時々、アクロバテックな技法を披露するという変幻自在のトランペット・プレイが堪能出来ます。
10曲目「Donna [alternate master]」は、ジャッキー・マクリーン(Jackie McLean)の作品であり、これ、プレステッジ(Prestige Records)で録音した「Dig」と同じ曲でしたかねえ。
リラックス気味なテンポで、マイルスも比較的スムーズなソロを聴かせてくれます。
自作曲だけあって、ジャッキー・マクリーンのソロも快調ですね。
12曲目「Would'n You [alternate master]」は、ビバップ・トランペットの開祖ディジー・ガレスピー(Dizzy Gillespie)が書いた曲で、テーマの後、マイルスがソロを吹くバックでも、アンサンブルのバッキングが入るのが
心憎い演出ですね。
Miles Davis Vol. 1 (RVG)
Blue Note BLP-1501 / 東芝EMI TOCJ-9022 [1998.09.30]
side 1 (A)
01. Tempus Fugit (Bud Powell) 3:53
02. Kelo (Jay Jay Johnson) 3:20
03. Enigma (Jay Jay Johnson) 3:25
04. Ray's Idea (Gil Fuller, Ray Brown) 3:46
05. How Deep Is The Ocean (Irving Berlin) 4:40
06. C.T.A. [alternate master] (Jimmy Heath) 3:18
side 2 (B)
07. Dear Old Stockholm (Traditional) 4:13
08. Chance It (Oscar Pettiford) 3:04
09. Yesterdays (Jerome Kern, Otto Harbach) 3:46
10. Donna [alternate master] (Jackie McLean) 3:12
11. C.T.A. (Jimmy Heath) 3:36
12. Would'n You [alternate master] (Dizzy Gillespie) 3:23
#05,07-10,12 [BLP-5013] May 9,1952 at WOR Studios, NYC.
Miles Davis (tp) J.J. Johnson (tb #7,8,10,12) Jackie McLean (as #7,8,10,12)
Gil Coggins (p) Oscar Pettiford (b) Kenny Clarke (ds)
#01-04,06,11 [BLP-5022] April 20,1953 at WOR Studios, NYC.
Miles Davis (tp) J.J. Johnson (tb) Jimmy Heath (ts) Gil Coggins (p) Percy Heath (b)
Art Blakey (ds)
Miles Davis - Young Man With A Horn [Blue Note BLP-5013]
side 1 (A)
01. Dear Old Stockholm (trad) 4:10
02. Woody'n You (Gillespie) 3:22
03. Yesterdays (Kern-Harbach) 3:42
side 2 (B)
04. Chance It (O. Pettiford) 3:00
05. Donna (Jackie McLean) 3:10
06. How Deep Is The Ocean (Berlin) 4:36
Miles Davis (tp) J.J. Johnson (tb #1,2,4,5) Jackie McLean (as #1,2,4,5) Gil Coggins (p)
Oscar Pettiford (b) Kenny Clarke (ds)
May 9,1952 at WOR Studios, NYC.
Miles Davis Vol. 2 [Blue Note BLP-5022]
side 1 (A)
01. Tempus Fugit (Bud Powell) 3:47
02. Enigma (J.J. Johnson) 3:20
03. Ray's Idea (Fuller-Brown) 3:41
side 2 (B)
04. Kelo (J.J.Johnson) 3:15
05. I Waited For You (W. Fuller) 3:28
06. C.T.A. (Jimmy Heath) 3:30
Miles Davis (tp) J.J. Johnson (tb #1-4,6) Jimmy Heath (ts #1-4,6) Gil Coggins (p)
Percy Heath (b) Art Blakey (ds)
April 20,1953 at WOR Studios, NYC.