「Jutta Hipp - At the Hickory House Vol. 1 (Blue Note) 1956」ユタ・ヒップの貴重なライブ録音(1)
ユタ・ヒップ(Jutta Hipp)というドイツ出身の女性ピアニストは、ジャズ評論家レナード・フェザー(Leonard Feather)に見いだされアメリカに移住したものの、短期間の音楽活動の後、演奏の場から遠ざかり、以降は画家として活動していたそうです。
ネットを調べると「極度のあがり症」であったとの記載もありますので、人前で演奏するのが苦手だっとと推測されます。
また、晩年のインタビュー記事で「有能なミュージシャンが多すぎて、自分の才能の無さに絶望した(意訳)」という話を読んだ記憶があるので、様々なプレッシャーに圧し潰された結果、音楽で生計を立てる道を断念した、という事ではないかと思われます。
ミュージシャンのイラストなども書いていた様で、確かスイング・ジャーナルの過去記事をまとめたムック本で、ユタ・ヒップが描いた確かソニー・ロリンズのイラストを見た記憶があります。
そんなユタ・ヒップ(Jutta Hipp)の1956年04月05日、ニューヨークのヒッコリー・ハウスでのライブを記録した貴重な録音が「At the Hickory House Vol. 1 (Blue Note BLP-1515)」です。
ユタ・ヒップ(Jutta Hipp)の演奏を聴く限り、ヨーロッパ出身らしい洗練されたクールさが感じされますが、そこにホレス・シルヴァー(Horace Silver)から強く影響されたらしいファンキーな風味などが加わり、ユタ・ヒップの演奏スタイルが変遷したもののと思われます。
12インチレコード2枚に分散収録された演奏を聴くと、曲目によってガラッと演奏スタイルが変わる点も、かなり興味深いというか、渡米してから他のミュージシャンに刺激を受け、演奏スタイルを模索していた事が伺えます。
今回のライブ録音でユタ・ヒップ(Jutta Hipp)を堅実にサポートしているのは、英国生まれの白人系ベーシスト、ピーター・インド(Peter Ind)と、ドラムスのエド・シグペン(Ed Thigpen)。
ネットを調べるとピーター・インドは、1950年初頭に渡米し、盲目のピアニストであったレニー・トリスターノ(Lennie Tristano)に師事、また自主レーベル「Wave」では録音技師としても活躍していたそうです。
またエド・シグペンは、1956年からピアニストのビリー・テイラー(Billy Taylor)トリオ、1959年から同じくピアニストのオスカー・ピーターソン(Oscar Peterson)トリオの一員として活動していたみたいですね。
1曲目にカウントされてますが、レナード・フェザー(Leonard Feather)によるユタ・ヒップ(Jutta Hipp)の紹介のみで曲ではありません。
演奏は初々しいユタ・ヒップ自身の曲紹介から軽快なテンポで演奏される2曲目「Take Me In Your Arms」からが始まります。
確かにソロフレーズやハーモニーの端々からホレス・シルヴァーの影響が伺えますね。
再びユタ・ヒップ自身の曲紹介から始まる3曲目「Dear Old Stockholm」は、マイルス・デイヴィス(Miles Davis)がブルーノートに残した演奏とはキー設定が異なる明るい雰囲気の中に若干の哀愁漂う素敵な演奏になっております。
4曲目はチャーリー・パーカー(Charlie Parker)が書いた有名なブルース「Billie's Bounce」。ユタ・ヒップのソロの後続く、ピーター・インド(Peter Ind)のソロが力強いですね。
5曲目「I'll Remember April」は、軽快なるアップテンポで演奏されており、エド・シグペン(Ed Thigpen)が、ブラシとハイハット中心で軽快にスイングしております。
6曲目はユタ・ヒップ自身の曲紹介から始まるタッド・ダメロン(Tadd Dameron)の「Lady Bird」で、派手さはないものの、堅実にゴリゴリ(笑)とスイングするユタ・ヒップの演奏を聴く事が出来ます。
7曲目「Mad About The Boy」は、エド・シグペンとピーター・インドの強力なスイングにのり、ユタ・ヒップが軽快かつ華麗にスイングしております。
ユタ・ヒップの「ワン、ツー、スリー、フォー」というカウントから始まる8曲目「Ain't Misbehavin'」では、ユタ・ヒップはリラックスしつつも軽快にスイングしております。
9曲目「These Foolish Things」は、バラッド風味の演奏で、ユタ・ヒップのホレス・シルヴァー調の演奏スタイルを見せつつ、穏やかな演奏が繰り広げられます。
10曲目「Jeepers Creepers」は、エド・シグペンのブラシによるスイング感がたまらないですね。ユタ・ヒップの軽快にスイングしております。
11曲目「The Moon Was Yellow」は、ホレス・シルヴァー調の演奏。哀愁漂うムードの中、ユタ・ヒップはホレスっぽいソロ・フレーズを連発します。
なお、可能であればこのアルバムに関しては、録音エンジニアのルディ・ヴァン・ゲルダー(Rudy Van Gelder)自らリマスターしたCDでお聴きいただく事を推奨致します。
Jutta Hipp - At the Hickory House Vol. 1 (RVG)
Blue Note BLP-1515 / EMI Music Japan TOCJ-7041 [2007.10.24]
side 1 (A)
01. Introduction By Leonard Feather 0:36
02. Take Me In Your Arms (Markush) 4:03
03. Dear Old Stockholm (Traditional) 4:54
04. Billie's Bounce (Charlie Parker) 4:05
05. I'll Remember April (DePaul-Raye) 3:48
06. Lady Bird (Tadd Dameron) 3:49
side 2 (B)
07. Mad About The Boy (Noel Coward) 3:40
08. Ain't Misbehavin' (Waller-Razaf-Brooks) 5:05
09. These Foolish Things (Strachey-Marvell) 3:58
10. Jeepers Creepers (Warren-Mercer) 3:51
11. The Moon Was Yellow (Ahlert-Leslie) 4:52
Jutta Hipp (p) Peter Ind (b) Ed Thigpen (ds)
April 5, 1956 at Hickory House, NYC.
ユタ・ヒップ(Jutta Hipp)ブルーノート1500番台に残したもう1枚のアルバムに関しては、下記リンクからご覧下さい。