「Horace Silver Trio And Art Blakey-Sabu (Blue Note) 1952,1953」初期ホレス・シルヴァーの作品集
ブルーノート(Blue Note Records)が1950年代、後にモダン・ジャズと呼ばれるスタイルの録音を始めてから、レーベルが一旦、新規録音を終える1979年まで在籍していたアーティストが、オーナーであるアルフレッド・ライオン(Alfred Lion)の親友でもあったピアニストのホレス・シルヴァー(Horace Silver)です。
ラテン系の血を引くポルトガル人の父親と、聖歌隊でゴスペルを歌っていたアメリカ人の母親の間に生まれたホレス・シルヴァーは、その生まれついた背景を自身の音楽スタイルに上手く取り入れ、瞬く間に人気アーティストとなっていった訳です。
ホレス・シルヴァー絶頂期のリーダー録音はブルーノートに多く残されておりますが、最初期の録音には「Opus de Funk」など、多くの名カヴァーが残るホレス・シルヴァーの代表的な曲が幾つか収録されております。
さて、今回紹介する「Horace Silver Trio And Art Blakey-Sabu (Blue Note BLP-1520)」は、1952年に行われた初リーダー・セッションから1953年までの3回のセッションから拾遺再編纂され12インチアナログレコードとして発売されたものです。
最初は2枚の10インチアナログレコード「Horace Silver - New Faces-New Sounds - Horace Silver Trio (Blue Note BLP-5018)」と、「Horace Silver Trio Vol. 2 / Art Blakey-Sabu - Spotlight On Drums (Blue Note BLP-5034)」として発売され、12インチレコード用に拾遺再編纂された際、収録時間の都合で4曲がカットされました。
なお、現在発売されているCDでは、10インチアナログレコードの曲順で完全版として発売されているものもある様なので、アルバム紹介しようと思うと、ややこしい事この上なし(なんでクインテットの演奏を先に書いた訳で)。
なので、今回は煩雑な事は止め、12インチアナログレコードで発売された時の曲のみ、紹介する事にします。
1952年10月09日に行われた第1回目のセッションは、ピアノのホレス・シルヴァー(Horace Silver)に、ドラムスのアート・ブレイキー(Art Blakey)、ベースのジーン・ラミー(Gene Ramey)という編成。
元々はアルトサックス奏者のルー・ドナルドソン(Lou Donaldson)用に用意された録音でありましたが、直前になってルー・ドナルドソンの都合がつかなくなり、急遽トリオで録音する事になったんだとか。
この録音で完成した3曲の内、2曲がこのアルバムに収録されております。
1曲目「Safari」は、ホレス・シルヴァー(Horace Silver)の自作曲であり、1958年録音の「Horace Silver - Further Explorations (Blue Note BLP-1589)」で再演されております。
「Safari」というタイトル通り、ホレス・シルヴァーの特徴でもあるゴリゴリと弾くピアノのコンピングと、アート・ブレイキーの荒々しく野性味溢れるドラムが、雄大な荒野の中にある未舗装の道路を高速で疾走するかの如き演奏を展開しております。
5曲目「Horoscope」は、ホレス・シルヴァー(Horace Silver)の自作曲であり、1960年録音の「Horace Silver - Horace-Scope (Blue Note BLP-4042)」で再演されております。
後年のクインテット編成に比べ大人し目な演奏ではありますが、これはホレス・シルヴァーのファンキーなピアノ・スタイル以前の初々しい演奏だからなのかもしれません。
1952年10月20日に行われた第2回目のセッションは、ピアノのホレス・シルヴァー(Horace Silver)に、ドラムスのアート・ブレイキー(Art Blakey)、ベースのカーリー・ラッセル(Curly Russell)という編成。
第1回目のセッションを補完する形で5曲が録音され、その中から3曲ほど収録しております。
2曲目「Ecaroh」は、ホレス・シルヴァー(Horace Silver)の自作曲であり、一目見てお分かりになるかと思いますが、曲名は自身の名前の綴りを逆さまにしただけですね(笑)。
自身の名前をもじっているだけあって、ホレス・シルヴァー(Horace Silver)の演奏スタイルであるファンキーにゴリゴリとスイングするピアノを堪能出来る1曲であります。
3曲目「Prelude To A Kiss」は、デューク・エリントン(Duke Ellington) が書いたバラッドの名曲。
後期バド・パウエル(Bud Powell)にも通じる哀愁ある演奏で、最初にストライド風ピアノの演奏を披露した後、1音1音噛みしめるような弾くピアノ・トリオによる演奏が続きます。
6曲目「Yeah!」は、ホレス・シルヴァー(Horace Silver)の自作曲であり、1960年録音の「Horace Silver - Horace-Scope (Blue Note BLP-4042)」で再演されております。
アート・ブレイキーの野性味溢れるド派手なドラムが作り出す特異なリズム・パターンにのり、ホレスのファンキーなピアノが縦横無尽に鳴り響くといった風情の演奏です。
1953年11月23日に行われた第3回目のセッションは、ピアノのホレス・シルヴァー(Horace Silver)に、ドラムスのアート・ブレイキー(Art Blakey)、ベースのパーシー・ヒース(Percy Heath)という編成。
トリオ編成で6曲録音され、その内5曲がこのアルバムに収録されております。
7曲目「How About You」は、後述する「ハード・バップ(Hard Bop)」スタイルが確立した頃の演奏であり、特徴的なリズム・パターンが頻出するのが興味深い処だなあと思います。
8曲目「I Remember You」は、バラッド風の演奏。
クインテット編成で恒久的な演奏を続ける時期にあえてピアノ・トリオでの演奏を残しているホレスですが、その際の演奏スタイルの原型の様なものが感じられる1曲となっております。
9曲目「Opus de Funk」は、ホレス・シルヴァー(Horace Silver)の自作曲であり、ディジー・ガレスピー(Dizzy Gillespie)率いるビックバンドでも演奏されてましたね。
ホレスの弾くテーマ部は、後のホレス・シルヴァー・クインテットで演奏される数々の名曲を彷彿とされるもので、ホレスの書く曲が、クインテット編成での演奏を想定している事を暗示している様にも思えます。
11曲目「Silverware」は、これまたファンキーに演奏されるホレス・シルヴァー(Horace Silver)の自作曲。
しかし、ホレス自身の名前をもじった曲は、ファンキー・タイプのものが多いんですね(笑)。
12曲目「Day In, Day Out」は、ファンキーかつ軽快に演奏される曲。
ホレス自身の作曲ではないのですが、ホレス色に染まりきった演奏が展開されます。
アート・ブレイキー(Art Blakey)とサブー・マルティネス("Sabu" Martinez)によるパーカッションのみでの演奏が、第3回目のセッションと同日に録音されております。
これらの録音はシングル盤「Art Blakey, Sabu - Message From Kenya / Art Blakey - Nothing But The Soul (Blue Note 1626)」としても発売された模様。
4曲目「Message from Kenya」は、アート・ブレイキー(Art Blakey)名義の作品。
(多分)サブー・マルティネス("Sabu" Martinez)の陽気な掛け声と共に演奏が始まり、アート・ブレイキー(Art Blakey)の特徴的なドラム・ソロが延々、繰り広げられます。
10曲目「Nothing But The Soul」も、アート・ブレイキー(Art Blakey)名義の作品。
これも、アート・ブレイキー(Art Blakey)のドラム・ソロが延々、繰り広げられておりますが、このドラム・ソロのパターンは大名盤「Art Blakey And The Jazz Messengers - Moanin' (Blue Note BLP 4003)」に収録される「The Drum Thunder Suite」などでもお楽しみいただけます。
ブルーノート(Blue Note Records)のアルフレッド・ライオン(Alfred Lion)の趣味嗜好が炸裂(笑)し、「ライオンの狂気」と揶揄されたらしい1957年のパーカッション中心の演奏が、「Art Blakey - Orgy In Rhythm Vol. 1 (Blue Note BLP-1554)」、「Art Blakey - Orgy In Rhythm Vol. 2 (Blue Note BLP-1555)」です。
清々しいまでに売れる事を放棄したかに思われる、アフリカン・アメリカン達のルーツ音楽を追求した、パーカッション中心の演奏が混ざる事で若干の違和感を感じたりしますが「Horace Silver Trio And Art Blakey-Sabu (Blue Note BLP-1520)」は、ピアノのホレス・シルヴァー(Horace Silver)とドラムスのアート・ブレイキー(Art Blakey)の共演で形作られていった「ハード・バップ(Hard Bop)」スタイル確立までの過程をお楽しみいただける1枚でもあります。
Horace Silver Trio And Art Blakey-Sabu (RVG)
Blue Note BLP-1520 / 東芝EMI TOCJ-7022 [2007.08.22] ※+4 ヴァージョン
side 1 (A)
01. Safari (Horace Silver) 2:50
02. Ecaroh (Horace Silver) 3:12
03. Prelude To A Kiss (Duke Ellington) 2:50
04. Message from Kenya (Art Blakey) 4:34
05. Horoscope (Horace Silver) 3:50
06. Yeah! (Horace Silver) 2:50
side 2 (B)
07. How About You (B.Lane-R.Freed) 3:43
08. I Remember You (J.Mercer-V.Schertzinger) 3:54
09. Opus de Funk (Horace Silver) 3:27
10. Nothing But The Soul (Art Blakey) 4:09
11. Silverware (Horace Silver) 2:37
12. Day In, Day Out (J.Mercer-R.Bloom) 3:00
#01,05 October 9, 1952 at WOR Studios, NYC. [1st Session]
Horace Silver (p) Gene Ramey (b) Art Blakey (ds)
#02,03,06 October 20, 1952 at WOR Studios, NYC. [2nd Session]
Horace Silver (p) Curly Russell (b) Art Blakey (ds)
#07-09,11,12 November 23, 1953 at WOR Studios, NYC. [3rd Session]
Horace Silver (p) Percy Heath (b) Art Blakey (ds)
#04,10 November 23, 1953 at WOR Studios, NYC. [3rd Session]
Art Blakey (ds) "Sabu" Martinez (bongo, conga #4)
※参考までに、CD に収録されなかった4曲の詳細も付記しておきます。
13. Thou Swell (R.Rodgers-L.Hart) 2:54
14. Quicksilver (Horace Silver) 3:02
15. Knowledge Box (Horace Silver) 2:49
16. Buhaina (Horace Silver) 3:06
1950年10月10日に録音された「Stan Getz - The Sound (Roost RLP 2207)」から公式録音
がスタートするホレス・シルヴァー(Horace Silver)ですが、今回のトリオによる録音を経て1954年02月21日に「Birdland」で行われた「Blue Note All Stars」名義で開催されたライブを記録した大名盤「Art Blakey - A Night At Birdland Vol. 1 (Blue Note BLP-1521)」、「Art Blakey - A Night At Birdland Vol. 2 (Blue Note BLP-1522)」で、後に「ハード・バップ(Hard Bop)」と呼ばれるスタイルを確立した様です。
モダン・ジャズ最初期の演奏スタイル「ビ・バップ(Be Bop)」に続く「ハード・バップ(Hard Bop)」は、マイルス・デイヴィス(Miles Davis)が理想とする演奏スタイル(リズム・パターン)を、ホレス・シルヴァー(Horace Silver)とアート・ブレイキー(Art Blakey)に伝えた後、試行錯誤を経て確立されたものだと記憶しております。
なので、1952年10月と1953年11月に行われた今回の録音には、「ハード・バップ(Hard Bop)」スタイル確立に至る変遷というか試行錯誤の過程も記録されているという訳です。
ブルーノート(Blue Note Records)5000番台の詳細も参考までに掲載しておきます。
Horace Silver - New Faces-New Sounds - Horace Silver Trio (1952)
Blue Note BLP-5018
side 1 (A)
01. Safari (Horace Silver) 2:50
02. Ecaroh (Horace Silver) 3:12
03. Prelude To A Kiss (Duke Ellington) 2:50
04. Thou Swell (R.Rodgers-L.Hart) 2:54
side 2 (B)
05. Quicksilver (Horace Silver) 3:02
06. Horoscope (Horace Silver) 3:50
07. Yeah! (Horace Silver) 2:50
08. Knowledge Box (Horace Silver) 2:49
#01,04,06 October 9, 1952 at WOR Studios, NYC. [1st Session]
Horace Silver (p) Gene Ramey (b) Art Blakey (ds)
#02,03,05,07,08 October 20, 1952 at WOR Studios, NYC. [2nd Session]
Horace Silver (p) Curly Russell (b) Art Blakey (ds)
Horace Silver Trio Vol. 2 / Art Blakey-Sabu - Spotlight On Drums (1954)
Blue Note BLP-5034
side 1 (A)
01. How About You (B.Lane-R.Freed) 3:43
02. I Remember You (J.Mercer-V.Schertzinger) 3:54
03. Silverware (Horace Silver) 2:37
04. Message from Kenya (Art Blakey) 4:34
side 2 (B)
05. Opus de Funk (Horace Silver) 3:27
06. Nothing But The Soul (Art Blakey) 4:09
07. Buhaina (Horace Silver) 3:06
08. Day In, Day Out (J.Mercer-R.Bloom) 3:00
#01-03,05,07,08 November 23, 1953 at WOR Studios, NYC. [3rd Session]
Horace Silver (p) Percy Heath (b) Art Blakey (ds)
#04,06 November 23, 1953 at WOR Studios, NYC. [3rd Session]
Art Blakey (ds) "Sabu" Martinez (bongo, conga #4)
◆Singles◆
Blue Note 1608 Horace Silver - Safari / Thou Swell
Blue Note 1625 Horace Silver - Opus De Funk / Day In, Day Out
Blue Note 1626 Art Blakey, Sabu - Message From Kenya / Art Blakey - Nothing But The Soul
Blue Note NP-2017 (1968 Japan Only) Horace Silver - Opus De Funk / Ecaroh