晩年のバド・パウエル(Bud Powell)は、パリでバドの生演奏を聴いた大江健三郎氏が「老いたセイウチ」と表現するような、初期の狂気をはらんだ輝きある演奏とは真逆の、穏やかで滋味あふれる演奏を聴かせる様になっております。
そんな初期の「眩いばかりの輝き」からは遠ざかりつつも、バド・パウエル(Bud Powell)でしか表現出来ない、「旨味ある演奏」を聴かせている時期の演奏をまとめたアルバムが「Bud Powell's Moods (Verve MGN-1064)」です。
私は聴いていて落ち着かない初期の演奏より、滋味あふれる後期の演奏の方が好きです(笑)。
さて、1~4曲目は1954年06月02日の録音でベースがジョージ・デュヴィヴィエ(George Duvivier)、ドラムスがアート・テイラー(Art Taylor)というメンバーで演奏されております。
穏やかな1曲目「Moonlight In Vermont」、落ち着いた感じではあるものの力強いピアノ・タッチが印象的な2曲目「Spring Is Here」。
残り2曲はいずれもバド・パウエル(Bud Powell)の自作曲です。唸り声上げつつ疾走する3曲目「Buttercup」、急速調で緊張感漂う4曲目「Fantasy In Blue」は、若干「Cherokee」っぽいコード進行が混ざっている気がしますが、そのまんまではなさそうです。
5~8曲目は、最初のセッションの2日後である1954年06月04日の録音で、ベースがパーシー・ヒース(Percy Heath)に代わり、ドラムスはアート・テイラー(Art Taylor)のまま。
超スローテンポの5曲目「It Never Entered My Mind」、装飾音符を多用しミデァム・テンポで演奏される6曲目「A Foggy Day」、ややクラシカルな雰囲気で始まるバラッド風の7曲目「Time Was」、曲についてる歌詞に合わせたのか、やや沈痛気味な8曲目「My Funny Valentine」と続きます。
9~11曲目は前のセッションから約半年後、1955年01月12日の録音で、ベースがロイド・トロットマン(Lloyd Trotman)、ドラムスがアート・ブレイキー(Art Blakey)に代わっております。
ミディアム・テンポで力強く演奏される9曲目「I Get A Kick Out Of You」、ややバラッド風の落ち着いた演奏となる10曲目「You Go To My Head」と続き、軽快に少し躁状態な雰囲気で演奏される11曲目「The Best」は、バド・パウエル(Bud Powell)の自作曲であり、多少のゆらぎはあるものの天才ピアニストの断片を垣間見る事が出来ます。
以前、CD再発の時、こちらのジャケットで再発された事があった記憶があるので、念のため掲載しておきます。
Bud Powell – Bud Powell's Moods
Verve MGN-1064 / POCJ-2740 [1999.06.23]
side 1 (A)
01. Moonlight In Vermont (Blackburn, Suessdorf) 3:38
02. Spring Is Here (Rodgers-Hart) 3:31
03. Buttercup (Bud Powell) 3:02
04. Fantasy In Blue (Bud Powell) 3:08
05. It Never Entered My Mind (Rodgers-Hart) 3:00
06. A Foggy Day (George & Ira Gershwin) 3:48
side 2 (B)
07. Time Was (Luna, Prado) 4:21
08. My Funny Valentine (Rodgers-Hart) 2:57
09. I Get A Kick Out Of You (Porter) 4:25
10. You Go To My Head (Gillespie, Coots) 4:09
11. The Best (Bud Powell) 2:36
#01-04 June 2, 1954, Fine Sound Studios, NYC.
Bud Powell (p) George Duvivier (b) Art Taylor (ds)
#05-08 June 4, 1954, Fine Sound Studios, NYC.
Bud Powell (p) Percy Heath (b) Art Taylor (ds)
#09-11 January 12, 1955, Fine Sound Studios, NYC.
Bud Powell (p) Lloyd Trotman (b) Art Blakey (ds)