加持顕のジャズに願いをのせて

新潟在住の加持顕(かじあきら)が、ジャズの名盤について個人的感想を気まぐれに投稿。

「Miles Davis - Kind Of Blue (Columbia) 1959」ジャズ屈指の大名盤の光と影

ジャズ界の巨人マイルス・デイビスMiles Davis)が1959年に発売し、現在までロングセラーを更新するアルバムが「Kind Of Blue (Columbia)」。

 

「踊るための伴奏音楽」から出発し発展してきたジャズ(JAZZ)が、クラッシック音楽を吸収し、「モード」という理論武装を得て独自のスタイルを完成させた最初の成果が、この「Kind Of Blue」である、という識者も居るようです。

 

また、このアルバムが発売される事により、ジャズ(JAZZ)という音楽は、アメリカ在住の少数民族が奏でる「大衆芸能的」音楽という位置付けから、「芸術的な音楽」の一つのジャンルとして一般大衆にまで認知されたのではないか、とも思われます。

 

Miles Davis - Kind Of Blue (Columbia) 1959

音楽データベースサイト「Discogs」で確認するに、2022年01月現在で「455種類」
もアイテムが登録されている事でも、未だ全世界で売れ続けている事がわかります。

 

マイルスのアルバムを1枚だけ紹介しろ!と言われたら私は「Kind Of Blue」を推薦します。

元教会の建物を転用した録音スタジオ(Columbia 30th Street Studios)で、自然なエコーがかかる独特の空間にて各楽器の音がくっきり録音されており、各メンバーのソロも抜群。

何より、音数を抑えたバッキング「間」を埋めるかのように聴こえてくる、マイルスのミュート・トランペットが素晴らしい。

 


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さて「Kind Of Blue」は、「モード奏法」を用いた代表的なアルバムとしても知られております。

 

それまでもジャズは小節数を設定し、そこに「コード」を割り振った楽譜を元に演奏しておりました。

ところが「モード奏法」では、小節数を設定した各パート毎に、Dドリアンなどの「スケール」を割り当てるだけにとどめ、結果、ソロ演奏の自由度を高めた・・・というのが、大雑把な説明になるかな?と(しどろもどろ)。


また「Kind Of Blue」は、ジョージ・ラッセル(George Russell)の推薦で参加した白人ピアニスト、ビル・エヴァンスBill Evans)がもたらした影響を色濃く反映するアルバムでもあります。

なお、ジョージ・ラッセル(George Russell)は、和声の音楽理論「リディアン・クロマティック・コンセプト(Lydian Chromatic Concept)」を提唱した人物として知られておりますね。

 

また「マイルス・デイビス自叙伝(中山康樹訳)」を読むと、「Kind Of Blue」録音時のマイルスは、ラベル(Ravel)の「左手のためのピアノ協奏曲 ニ長調」と、ラフマニノフRachmaninov)の「ピアノ協奏曲第4番 ト短調 作品40」を熱心に研究していたらしく、「その要素が(アルバムに)含まれているはずだ」と言及してます。

 

またエヴァンスからは、完璧主義者として知られるイタリアのピアニスト、「アルトゥーロ・ミケランジェリ(Arturo Benedetti Michelangeli)」を聴いてみたら?、と紹介されたそうです。

 

 

てな訳で「左手のためのピアノ協奏曲 ニ長調」を聴いてみると、冒頭部分の雰囲気は、
「Kind Of Blue」っぽいかも・・・と思ったりします。

 


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「ピアノ協奏曲第4番 ト短調 作品40」に関しては、何処が影響されているのかすぐにはわかりませんでした。

 


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マイルスが「このアルバムは当初意図したものとは違った(意訳)」と語っているのは、このように我々でも分かるような「参考音源との明確な乖離」部分がある事を指しているのかなあ・・・と。

 

マイルス・デイビス自叙伝」によると、他のメンバーにはどんな内容の録音するのかも知らせず、当日に「曲のスケッチ」だけ持って行って録音したそうで。

 

何も分からず行った録音スタジオで、ただ「演奏しろ」と命令されれば、他のメンバーは手持ちのアイデア(モチーフ)なり自作曲を流用するしかない訳で。

そうなると、時にはマイルスの意図とか違った演奏をしても仕方ないよなあ・・・と。

 

そんなマイルスの一見不条理な要求に対する一番の被害者は、ビル・エヴァンスのようで。

例えばマイルス作と記載される「Flamenco Sketches」などは、ビルが過去に録音した「Peace Piece」とそっくりであるようです。

 

またマイルスが、アルバムに収録された曲について「ビル・エヴァンスが共同作曲者だ」と主張する人がいる事に反論し、「このアルバムは、コンセプトも何もかも俺のアイデアだ」と主張している事を、読み解いてみましょう。

 

マイルスの考えは、今でいうところの「ビジネスモデル特許」的な観点から権利を主張しているものと思われますが、如何なものでしょう。

 

まあ、御託はこれくらいにして、私にとって永遠に聴き飽きないであろう名盤であり、ジャズ初心者に最初に聴いて欲しいアルバムが、この「Kind Of Blue」です。


Miles Davis - Kind Of Blue (1959)
Columbia CS-8163 / Columbia Legacy CK-64935 [1997]


side 1 (A)
01. So What (Miles Davis)  9:22
02. Freddie Freeloader (Miles Davis)  9:46
03. Blue In Green (Miles Davis - Bill Evans)  5:37

side 2 (B)
04. All Blues (Miles Davis)  11:33
05. Flamenco Sketches (Miles Davis)  9:26

CD Bonus Track
06. Flamenco Sketches (alternate take) (Miles Davis)  9:32


Miles Davis (tp) Cannonball Adderley (as except #3) John Coltrane (ts) 
Wynton Kelly (p #2) Bill Evans (p except #2) Paul Chambers (b) Jimmy Cobb (ds) 

March 2, 1959(#1-3) & April 22, 1959(#4-6) at Columbia 30th Street Studios, NYC.

 

 

モード奏法に関しては私、よくわかってません(笑)。「理論が伴わないと音楽が出来ない」という方は、ご自身で参考書等お探し下さい・・・。

 

同時期にオーネット・コールマンOrnette Coleman)が提唱する「フリージャズ」が
発生しておりますが・・・。

当時発売された楽譜を眺めるとテーマに相当する部分に楽譜が書いてあるものの、ソロパートの部分には、音符やコード、そして長さの指定すら記載されておりません(笑)。


蛇足ついでに。

 

「Kind Of Blue」は、ジャズ界「最大のヒットアルバム」であると同時に、録音及び製造時のミスを抱えた「最大の不具合アルバム」という側面を持ちます。

 

まず、第1(A)面に収録された3曲は、マスター音源を記録すべく用意されたテープデッキが不調であったらしく・・・録音時、規定速度より遅めに回ってたそうで。

 

テープ速度遅めに記録されたマスターを使い、録音スタジオにあるテープデッキとは別のデッキで再生され、製造されたスタンパーでプレスされたレコードは、必然的に音程(ピッチ)が上ずってしまいますよね・・・。

 

それが是正される事になったのは1992年。

録音当時の「オリジナルマスター」と「サブマスター」が同時に発見された事により、「音程ズレの噂が事実」であった事を、2種類のマスターを再生比較することで確定した様です。

 

という事で、1993年に日米両国で発売された2種類の下記CD以前のものは、音程がズレてます・・・ご注意を。

 

Sony SRCS-6681 (The Collectors Item Series) [1993.04.21]
●Columbia/Legacy CK-52861 (MasterSound) [1993]

 


次に第2(B)面2曲に関しては、速度は正しいものの、ジャケットとレーベル面での曲名記載が逆になっていたそうです。校正ミスですかね。

Miles Davis - Kind Of Blue (Columbia) 1959

つまり、コロンビアというアメリカのメジャーレーベルから発売された大ヒットアルバムが30年以上にわたり、壮大な不具合を抱えたまま発売され続けた事になります。

 

「Kind Of Blue」のオリジナル盤は10万円程の価格で取引されているらしいですが、壮大なる不具合品が、かくも高額で取引されるとは、何だか不思議な感じです。

 

KIND OF BLUE

KIND OF BLUE

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