激動の1972年。
日本では2月には「札幌オリンピック」が開催、連合赤軍「あさま山荘事件」がテレビで生中継され、山本リンダ「どうにもとまらない」がヒットするなど、過激で刺激的な日常が、テレビという媒体からお茶の間に注ぎ込まれる時期だったようです。
そんな1972年に録音・発売されたのがチック・コリア(Chick Corea)の「Return To Forever (ECM)」。直訳だと「永遠(とわ)への回帰」という風ですが、日本盤の宣伝では「自然への回帰」としてますね。
刺激ありすぎる日常から抜け出し、(心の中の)「楽園」で戯れるといった風情の、エレクトリック・ピアノが醸し出す浮遊感いっぱいのサウンドが展開されます。
表題曲「Return To Forever」の他、「Crystal Silence」、「La Fiesta」など、ライブでしばし演奏されるお馴染みの曲が多いですね。
「Return To Forever (ECM)」は、日本が誇る文化の一つ「ジャズ喫茶」でも連日リクエストがあったようで、レコードも大ヒットを記録した模様。
このサウンドの方向性を発展したものが、パット・メセニー・グループの「Still Life (Talking)」あたりに繋がってるだよなあ・・・とか思ったり。
チック・コリア(Chick Corea)は、最も過激な演奏を繰り広げた時期のマイルス・デイヴィス(Miles Davis)バンドでキーボードを担当し、マイルスバンド退団の後、前衛的な「Circle」というバンドでしばし活動していたそうです。
現在、「幻のバンド」と形容される「Circle」は、欧米、日本で熱狂的支持を得たものの、本国アメリカではさっぱりという状況だったそうで。
刺激的ではあるものの、フリーフォームによる過激な演奏は、芸術的な側面を尊ぶ欧米・日本と、いつの時代も「ノレて踊れる音楽」を求めるアメリカ大衆では、求めるモノが違ったんでしょうね。
その状況を冷静に分析した結果、もう少し大衆が理解出来て「売れるバンド」を作ろう・・・という事で集めたのが「Return To Forever (ECM)」に参加するメンバーだったとの事。
まず「意思疎通が容易に可能なグループ」を作ろうという事で、核となる人物として、ベースのスタンリー・クラーク(Stan Clarke)をまず誘い・・・「アコーステックでもエレクトリックでもないバンド」を作る事を目指して幾度もオーディションを行ったようです。
最終的にフロントにはジョー・ファレル(Joe Farrell)を配し、エスニック風味を取り入れたいという事で、アイアート(Airto Moreira)とフルーラ・プリム(Flora Purim)の夫妻を加えたとの事。
詳細は「ジャズマンが愛する不朽のJAZZ名盤100(小川隆夫著)」を参考にしました。
オリジナルアルバムの音源は見当たらないようなので、ライブ音源をどうぞ。
Chick Corea - Return To Forever (1972)
ECM Records ECM 1022 ST (Germany) / UCCE-9121 [2008.09.30]
side 1 (A)
01. Return To Forever (Chick Corea) 12:06
02. Crystal Silence (Chick Corea) 6:59
03. What Game Shall We Play Today (Chick Corea) 4:30
side 2 (B)
04. Sometime Ago - La Fiesta (Chick Corea) 23:14
Return To Forever
Joe Farrell (fl,ss) Chick Corea (el-p) Stan Clarke (el-b,b)
Airto Moreira (ds,per) Flora Purim (vo,per)
February 2 & 3, 1972 at A&R Studios, NYC.
スタン・ゲッツ(Stan Getz)カルテットでの録音がある「Captain Marvel」も、このバンドで演奏してたんですね。
こういうライブが公開されているというのは、素直に嬉しいですね。
Chick Corea and Return to Forever - Live in Germany, 1972 (Audio) featuring Joe Farrell
ついでに。
1970年代初頭、マイルス・デイヴィス(Miles Davis)のバンドには若干、時期ずれますが、その後のジャズの歴史に重要な役割を果たす4人のキーボード奏者が在籍しておりました。
「Miles Davis - In A Silent Way (Columbia)」
「Miles Davis At Fillmore (Columbia)」
ハービー・ハンコック(Herbie Hancock)、チック・コリア(Chick Corea)、前に紹介したウエザー・リポートを結成したジョー・ザビヌル(Joe Zawinul)、そしてキース・ジャレット(Keith Jarrett)です。
「Herbie Hancock - Head Hunters (Columbia) 1973」
「Keith Jarrett - The Koln Concert (ECM) 1975」
一番過激なキースが、ソロやアコーステック・トリオに向かい、ハービーとチック、そしてジョー・ザビヌルがエレクトリック・サウンドを追及していくというのも、何だか面白い展開だなあ・・・と思ったりします。