加持顕のジャズに願いをのせて

新潟在住の加持顕(かじあきら)がジャズ名盤の個人的感想など綴ってます。

「Chet Baker - She Was Too Good To Me (CTI) 1974」ストリングス入り、後期を代表する1枚

今回は人気トランペッター、チェット・ベイカーChet Baker)のアルバム「She Was Too Good To Me (CTI CTI-6050-S1)」、邦題「枯葉」を取り上げたいと思います。

 

このアルバムは、新発田高校という新潟県内の城下町にあった(一応)進学校に入り、成り行きでジャズを聴き始めた私が、最初に買ったトランペット奏者のアルバムであります。

 

チェット・ベイカーChet Baker)であれば、若かりしパシフィック・ジャズ時代のアルバムを先に聴くべきだろうという識者もおられるかと思いますが、私がこのアルバムを買った当時、東芝EMIさんはブルーノート(Blue Note Records)の再発に入れ込んでいた時期でありまして。

 

パシフィック・ジャズ時代のチェット・ベイカー関連のアルバムなんて、「Cht Baker Sings」とか「Gerry Mulligun Quartet」とかの超有名盤しか出てなかった記憶があります。

 

丁度、麻薬常習の問題もあり、中々許可が下りなかったであろうチェット・ベイカーChet Baker)が初来日を果たし、日本でのライブアルバムを残していた時期でもあるので、おのずと後期から最晩年のアルバムからチェット・ベイカーの演奏を聴き始める感じになってしまいました。

 

「Chet Baker - She Was Too Good To Me (CTI) 1974」ストリングス入り、後期を代表する1枚

 

さて、1950年代ウエスト・コースト・ジャズの人気を支えたバリトン・サックス奏者、ジェリー・マリガンGerry Mulligan)率いるカルテットでの演奏から始まり、独立した後にアンニュイなボーカルをメインに据えたアルバム「Chet Baker Sings (Pacific Jazz)」を発売した事で、世界的な人気者となったチェット・ベイカーChet Baker)。

 

 

1950年代当時は、ジャズ誌の人気投票であのマイルス・デイヴィスMiles Davis)を凌ぐ得票数を得ていたらしいチェット・ベイカーChet Baker)ではありますが。

 

当時の人気ジャズ・ミュージシャンが陥る「麻薬癖」に見事にハマり、麻薬にどっぷり浸かったまま、1988年の演奏旅行先のホテルで謎の事故死を遂げるまで、「麻薬」を入手するために演奏活動を続けたという話もあったりします。

 

今回のアルバム「Chet Baker - She Was Too Good To Me (CTI CTI-6050-S1)」が録音された1974年というのは、1970年06月以降、一時途絶えていた公式録音が徐々に再開されはじめた時期にあたります。

 

噂によると演奏が途絶えた時期に麻薬組織と麻薬代金未払いとかのトラブルが発生し、その制裁措置として、トランぺッターの生命線である「歯を全部折られた」という話のようです。

 

このアルバムのボーカルが、何かお爺ちゃんが喋る時のようなフガフガした感じだなあ・・・と思った方は、チェット・ベイカーChet Baker)が「総入れ歯」で演奏している事を想像してみて下さい。

 

「総入れ歯」で演奏を再開した1974年から謎の死を遂げる1988年は、私的にはチェット・ベイカーChet Baker)の「後期」という位置付け。

若さと勢いだけで突き進んでいた「前期」よりは、「後期」の演奏により愛着を感じます。

 

アルバム「Chet Baker - She Was Too Good To Me (CTI CTI-6050-S1)」は、ドン・セベスキー(Don Sebesky)が指揮・編曲を担当した激甘ストリングスと、ボブ・ジェームスBob James)のロマンテックなエレキ・ピアノ、そしてフルートによるさりげないバッキングオが印象的な一枚。

 

ポール・デスモンドPaul Desmond)の華麗なアルト・サックス・ソロ、ヒューバード・ローズ(Hubert Laws)と思われるフルート・ソロも、演奏に彩を添えております。

 

ベースが、ロン・カーターRon Carter)というのも驚き。

 

長年、ドラムスはスティーブ・ガット(Steve Gadd)だけかと思いこんでいたのですが、ジャック・ディジョネットJack DeJohnette)も後半3曲叩いていたんですね。

 

あと、ブルーノート(Blue Note Records)のメインエンジニアであった、ルディ・ヴァン・ゲルダー(Rudy Van Gelder)のスタジオで録音していたという事実も、驚きですね。

 

ヴァン・ゲルダーのスタジオで録音したとなると、参加ミュージシャン全員を一度にスタジオ入りさせる事は不可能のように思えますので、ストリングスのみ、別の日に録音したものだと思われます。

 

アルバム1曲目は、シャンソンの名曲をジャズ化した人気曲「枯葉(Autumn Leaves)」。

 

日本盤のタイトルは、原題「She Was Too Good To Me」ではなく「枯葉」となっておりますが、「枯葉」をタイトルにした方が、セールス的に良かったんでしょうね。

 


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マイルス・デイヴス(Mlies Davis)、ビル・エヴァンス(Eill Evans)など超有名ジャズミュージシャンが演奏する「枯葉(Autumn Leaves)」とは、ちょっと毛色の違う「軽快な枯葉」です。

 

蛇足ですが、このアルバムに収録された「枯葉」、マイルス・デイヴスなどの演奏で耳にタコが出来る位お馴染みのバージョンとは、「キー設定」が異なります。

 

3曲目、ハンク・モブレーHank Mobley)の佳曲「Funk In Deep Freeze」は、1988年に亡くなる直前まで演奏していた曲。

 


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元々1957年に録音された「Hank Mobley Quintet (Blue Note BLP-1550)」に収録された曲ではありますが、何故ハードバップの典型的な1曲に過ぎないと思われる「Funk In Deep Freeze」をあえて演奏し、最晩年まで演奏し続けたのか、ご本人に理由を聞いてみたかったですね。

 

 

ハンク・モブレー・クインテット+2

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まあ「Funk In Deep Freeze」は、私も大好きで、何度か自分のバンドで(無理やり)演奏してましたけど。

 

4曲目「Tangarine」は、ロン・カーターRon Carter)の軽快なウォーキング・ベースが心地よい1曲。

 

オリジナル・アルバム最後の7曲目「It's You Or No One」は、アップテンポの勢いある演奏で、トランペットの音色を変えつつ軽快に演奏するチェット・ベイカーが素晴らしいです。

 

ちなみに「Tangarine」と「It's You Or No One」のソロ部分は、「アドリブ・コピー譜」の一部として市販されていたりしますので、お探し下さい。

 

ヴォーカル入りの3曲は、ストリングス入り激甘アレンジのバラッドという印象があります。

 

リチャード・ロジャーズとローレンツ・ハート(Rodgers & Hart)の名コンビによる2曲目の激甘なエレピとストリングスにのったバラッドで表題曲でもある「She Was Too Good To Me」、5曲目のフルートの軽快な響きが印象的な「With A Song In My Heart」の2曲がヴォーカル入りの演奏。

 

もう1曲、アービングバーリン(Irving Berlin)の手による6曲目、チェット・ベイカーの語りかけるようなトランペットとロマンテックなヴォーカルが心に染み入る「What'll I Do」も、ヴォーカル入りの演奏ですね。

 


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Chet Baker - She Was Too Good To Me
CTI CTI-6050-S1 / King Records K25Y-9510 [1988.12.21]

side 1 (A)
01. Autumn Leaves (Johnny Mercer, Joseph Kosma)  7:05
02. She Was Too Good To Me (Rodgers & Hart)  4:39
03. Funk In Deep Freeze (Hank Mobley)  6:06

side 2 (B)
04. Tangarine (Johnny Mercer, Victor Schertzinger)  5:29
05. With A Song In My Heart (Rodgers & Hart)  4:03
06. What'll I Do (Irving Berlin)  4:00
07. It's You Or No One (Jule Styne, Sammy Cahn)  4:28


Chet Baker (tp,vo) Hubert Laws (fl,alto-fl) Romeo Penque (fl,cl) 
George Marge (alto-fl,oboe d'amore) Paul Desmond (as) 
Dave Friedman (vib) Bob James (el-p) Ron Carter (b) Steve Gadd (ds #1-4) 
Jack DeJohnette (ds #5-7) Don Sebesky (arr,conductor)

Lewis Eley, Max Ellen, Barry Finclair, Paul Gershman, Harry Glickman, 
Emanuel Green, Harold Kohon, David Nadien, Herbert Sorkin (violin) 
Warren Lash, Jesse Levy, George Ricci (cello) 

July, October & November, 1974 at Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ.

 

枯葉

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チェット・ベイカー自身のドキュメンタリー映画で使用された「サウンド・トラック」であり、最後のスタジオアルバムとなったのが「Let's Get Lost」ですね。