1957年12月の04日と05日、マイルス・デイヴィス(Miles Davis)は、当時恋仲であったジュリエット・グレコ(Juliette Gréco)を通じ、ルイ・マル(Louis Malle)監督のフランス映画「Ascenseur Pour L'echafaud(死刑台のエレベーター)」のサウンドトラック
制作に関わる事となります。
そして、「死刑台のエレベーター」のサウンドトラック制作が終わった3日後の1957年12月08日、サウンドトラックに駆り出された米仏混成メンバーを引き連れ、オランダのアムステルダムでコンサートを行った模様を記録したのが「Miles Davis – Amsterdam Concert」です。
マイルス・デイヴィス(Miles Davis)の他、「死刑台のエレベーター」のサウンドトラックと同じく、テナーサックスのバルネ・ウィラン(Barney Wilen)、ピアノのルネ・ユルトルジュ(Rene Urtreger)、ベースのピエール・ミッシェロ(Pierre Michelot)、そしてヨーロッパ移住組の一人、ドラムスのケニー・クラーク(Kenny Clarke)が演奏に参加しております。
ちなみに、この録音は「歴史的な価値」を優先すべき、いわゆるブート(Bootleg)音源ですので、音質面を気になさる方は聴かない方が無難かと思われます。
オランダのアムステルダムでのコンサートの模様は当初、1984年頃に「The Complete Amsterdam Concert (Celluloid CEL 6745/46)」や、「Miles In Amsterdam (Jazz O.P. OMS-7003)」として発売されていたみたいです。
「The Complete Amsterdam Concert (Celluloid CEL 6745/46)」
「Miles In Amsterdam (Jazz O.P. OMS-7003)」
さて、「Miles Davis – Amsterdam Concert」でマイルスが使うフレーズや演奏のニュアンスは、3日前に録音を終えた「死刑台のエレベーター」のサウンドトラックで聴ける演奏の雰囲気そのままというか、濃厚なんですよね。
このライブ録音(ブートだけど)でマイルスが演奏するジャズ・スタンダード全てに「死刑台のエレベーター風」と付ける事が出来る訳で。
マイルスがトランペットを吹き出すと、聴きなれたジャズ・スタンダードですら「死刑台のエレベーター」の、クールでハードボイルドな雰囲気が漂って来るのがポイントですね。
アップテンポの1曲目の「Woody 'n' You」から、マイルスは気合十分の演奏を聴かせてくれます。
2曲目のブルース「Bags' Groove」におけるマイルスのソロでは、テーマに戻る直前にちょっとした仕掛けを施しております。
ブルースのコード進行で作られた曲のためか、マイルスのフレーズには濃厚なる「死刑台のエレベーター」の残滓というか名残りを聴きとる事が出来たりします。
テナーサックスのバルネ・ウィラン(Barney Wilen)、ピアノのルネ・ユルトルジュ(Rene Urtreger)は、マイペースな演奏に終始しておりますね。
ハードな3曲目「What's New ?」は、曲名を見るまで「死刑台のエレベーター」サウンドトラック収録の曲かと間違えてしまう程の出来。
4曲目「But Not For Me」では、マイルスはテーマをちょっと替えて吹いたりしていますが、それだけで、よりクールに聴こえるんだから凄いですね。
5曲目「A Night In Tunisia」では、マイルスのソロに入ると、リズム隊が2倍のテンポでリズムを刻み始めます(倍テンとも、言いますね)。カッコいいなー。
このCDは、ケニー・クラークのドラムがややオフ気味に録音されているんですが、そんな音でもケニーの気迫がビシビシ伝わって来ます。そして最後、マイルスによるカデンツァも聴きもの。
そして6曲目「Four」、7曲目「Walkin'」、8曲目「Well You Needn't」と、マイルスは快調に飛ばて行きます。
9曲目「'Round About Midnight」では、テーマからあの有名なソロブレイクまでマイルス一人で片つけてしまいます。
それがまた、ハードボイルドな感じと心地よい緊張感を出していいんだ、これが。
そんなマイルスに圧倒されたのか、続く、申し訳なさそうにソロに入るバルネの演奏は惜しい感じですが、ソロ後半になると、なんとか立て直してますね。
10曲目、タッド・ダメロン(Tadd Dameron)作曲のハッピーな「Lady Bird」で、このライブアルバムは終了。
最後の曲だけあってバルネ・ウィラン以下、他のメンバーも快演を聴かせてくれます。
ピアノのソロで、タッド・ダメロンの演奏を真似たフレーズが聴こえるのは嬉しい所です。
Miles Davis Quintet Featuring Barney Wilen – Amsterdam Concert
Lone Hill Jazz LHJ10141 [2005.01]
01. Woody 'n' You (Dizzy Gillespie) 5:03
02. Bag's Groove (Milt Jackson) 7:00
03. What's New (Haggart, Burke) 3:36
04. But Not For Me (G. Gershwin, I. Gershwin) 6:49
05. A Night In Tunisia (Dizzy Gillespie, Paparelli) 7:15
06. Four (Miles Davis) 4:26
07. Walkin' (R. Carpenter) 6:34
08. Well You Needn't (Thelonious Monk) 5:26
09. 'Round About Midnight (Thelonious Monk) 6:49
10. Lady Bird (Tadd Dameron) 5:30
Miles Davis (tp) Barney Wilen (ts) Rene Urtreger (p) Pierre Michelot (b) Kenny Clarke (ds)
December 8, 1957 at Concertgebouw, Amsterdam, Netherlands.
マイルスの自叙伝を読むとフランスの「クラブ・サンジェルマン(Club Saint Germain)」で演奏した時のエピソードが登場しますが、この時の音源はまだ発掘されていないのかな。
何時になくクールでハードボイルドな演奏するマイルスですが、これ、日本で例えると「任侠(ヤクザ)映画」を見た後の、肩で風切るお客さんの雰囲気に似ているのかもしれません(笑)。