「Miles Davis - Seven Steps To Heaven (Columbia)」若手3人「The Trio」との初共演
マイルス・デイヴィス(Miles Davis)のアルバム「Seven Steps To Heaven (Columbia CS-8851/CL-2051)」は、トニー・ウィリアムス(Tony Williams)、ロン・カーター(Ron Carter)、そしてハービー・ハンコック(Herbie Hancock)という若手3人が、マイルスと初めて公式に共演したアルバムであります。
テナーサックスはジョン・コルトレーン(John Coltrane)からの推薦により、ジョ-ジ・コールマン(George Coleman)が、このアルバムから参加しております。
以下、お馴染みマイルスの自叙伝からの情報です。
ジャッキー・マクリーン(Jackie McLean)のバンドに居たボストンの神童、ドラムスのトニー・ウィリアムス(Tony Williams)は、ジャッキーとの仕事が終わり次第、バンドに加入する約束を取り付け、ロサンゼルスのセッションでは、中継ぎとしてフランク・バトラー(Frank Butler)を起用したとの事。
ポール・チェンバース(Paul Chembers)から紹介されたベースのロン・カーター(Ron Carter)は、アート・ファーマー(Art Farmer)とジム・ホール(Jim Hall)のバンドで演奏していたのを(半ば強引に)引き抜き(笑)、ロサンゼルスのセッションからバンドに参加。
ドナルド・バード(Doland Byrd)がマイルスの家に連れて来た、ピアノのハービー・ハンコック(Herbie Hancock)は、その時弾かせたピアノの印象が良かったのを思い出したマイルスが電話で呼び出し、自宅で(オーディションを兼ねた)リハーサルを経て、ニューヨークでの録音から参加しております。
さて、1963年04月16日にロサンゼルスのスタジオで録音したセッションには、メンバーを選考する過渡期的な感じでヴィクター・フェルドマン(Victor Feldman)と中継ぎのフランク・バトラー(Frank Butler)が参加しておりますが、ヴィクター・フェルドマンは、ギャラ等の諸事情で新バンドへの参加を見送った模様。
「Basin Street Blues」、「I Fall In Love To Easily」、「Baby Won't You Please Come Home」がその時録音された演奏であり、マイルスが珍しくワンホーンで演奏しております。
1曲目「Basin Street Blues」は、ヴィクター・フェルドマンの端正なピアノが光る1曲。マイルスのミュート・トランペットが、何時になく格調高く聴こえます。
3曲目「I Fall In Love To Easily」も、ヴィクター・フェルドマンの端正で格調高いピアノが良い雰囲気を作り出してますね。マイルスのミュート・トランペットも快調にメロディを紡ぎ出しております。
5曲目「Baby Won't You Please Come Home」も、イントロからヴィクター・フェルドマンの演奏が光っております。ベースがロン・カーターなんで、ハービーの代わりにバンドに加入しても違和感無かったんだろうと思われますね。
そして、ロサンゼルスのセッションから約1ヶ月後の1963年06月14日。
若手3人にテナーサックスのジョ-ジ・コールマン(George Coleman)を加えたクインテット編成で「Seven Steps To Heaven」、「So Near, So Far」、「Joshua」がニューヨークで録音されました。
なお「So Near, So Far」と「Joshua」は、ロサンゼルスでの録音を没にし、再録音されたみたいです。
録音に入る前、マイルスはリズム隊の三人を自宅に呼び寄せ、数日間演奏させたらしいですが、その時、三人と演奏する事でバンドがとてつもないものになると予感したとの事。
2曲目「Seven Steps To Heaven」は、トニー・ウィリアムス(Tony Williams)、ロン・カーター(Ron Carter)、ハービー・ハンコック(Herbie Hancock)という若手3人、後に「The Trio」と称賛されるメンバーが初めて揃った演奏です。
トニー・ウィリアムスのドラムスに煽られ、マイルスが何時になく新しいフレーズを繰り出している事から、三人の演奏がマイルスの想像力を十二分に刺激している事が伺えます。
ドラムスが引き立つ曲で、マイルスのソロの次にトニー・ウィリアムスのドラムスを入れるあたり、トニーの演奏を十分に認め、この演奏を聴いてる皆に、凄さを知らしめそうとしてる事が判りますし、ジョ-ジ・コールマンの後に続くハービー・ハンコックも、フレッシュなソロを聴かせてくれます。
4曲目「So Near, So Far」は、これまた喜びに満ち溢れたフレッシュな演奏ですね。
トニー・ウィリアムスの煽り気味なドラムスに刺激され、気持ちよくフレッシュなソロを吹くマイルスが素晴らしく、ハービー・ハンコックも、ブロック・コードを交えつつ、ハービー独特と言えるソロを展開しております。
6曲目「Joshua」は、アップテンポで演奏される、後のライブで定番となる曲です。
全員のソロも流石ですが、全編で独特のリズムを叩き出すトニー・ウィリアムスがやはり最大の聴きもので、タムをボコボコ叩いた後のシンバルの一撃は、演奏を一層ドラマテックに盛り上げております。
Miles Davis - Seven Steps To Heaven
Columbia CS-8851/CL-2051 / Sony Records SRCS-9109 [1996.09.21] Master Sound
side 1 (A)
01. Basin Street Blues (Williams) 10:34
02. Seven Steps To Heaven (Davis, Feldman) 6:28
03. I Fall In Love To Easily (Styne, Cahn) 6:52
side 2 (B)
04. So Near, So Far (Green, Crombie) 7:04
05. Baby Won't You Please Come Home (Warfield, Williams) 8:31
06. Joshua (Miles Davis, Feldman) 7:02
#01,03,05 April 16, 1963 at Columbia Studios, Los Angeles, CA.
Miles Davis (tp) Victor Feldman (p) Ron Carter (b) Frank Butler (ds)
#02,04,06 May 14, 1963 at Columbia 30th Street Studios, NYC.
Miles Davis (tp) George Coleman (ts) Herbie Hancock (p) Ron Carter (b)
Anthony Williams (ds)
テナーサックスのジョ-ジ・コールマン(George Coleman)入りマイルス・バンドの
スタジオ録音は、(確か)これ1枚だけ。
日本のジャズ誌では「フリー・ブローイング時代」と呼ばれていたこの時期、以降、ウェイン・ショーター(Wayne Shorter)が加入するまで、ライブ・アルバムのみが発売される事となります。
ただ、1963年の「Miles Davis In Europe (CS-8983)」、1964年の「Miles Davis - My Funny Valentine (CS-9106)」と、「Miles Davis - Four & More (CS-9253)」という感じで、今では名盤と言われるライブ・アルバムが次々と発表される事となります。
マイルスがスタジオ入りしなかった理由は、プロデューサーのテオ・マセロ(Teo Macero)が1962年に録音してた未完成の「Miles Davis - Quiet Nights (Columbia CL-2106)」を、マイルスに無断で発売した事への抗議の意味もあったようです。
このアルバム、一度、図書館から借りてきた事があるんですが、CDが音飛びして、まだきちんと聴いてないので、アルバム紹介は後日・・・(予定)。
まあ、マイルス自身のプライドと、商業的な成功を勝ち取るための配慮とのバランスが、マイルスの肥大しだした自尊心を満足させる方向に傾き始めた時期でもあった訳ですね。
なお、マイルスとテオ・マセロの喧嘩(意見のぶつかり合い)は、マイルスが一時引退する1970年代まで断続的に続いたみたいです・・・。