「Chet Baker – Live In Rosenheim (Timeless SJP-233)」は、西ドイツ・ローゼンハイムで1988年04月17日に行われた「Rosenheim Jazz Festival」におけるチェット・ベイカー(Chet Baker)カルテットのライブ録音を収録したもの。
副題に「Chet Baker's Last Recording As Quartet」とある通り、今後、発掘盤が現れない限りはコンボ(カルテット)形式での最後の公式録音である様です。
チェット・ベイカー(Chet Baker)以外の演奏メンバーは、1979年からチェットと共演していたイタリア出身、フルートとギターを演奏するニコラ・スティロ(Nicola Stilo)、同じくイタリア出身で寡作ながら日本の玄人好みなピアニスト、ルカ・フローレス(Luca Flores)、ニューヨーク生まれでイタリアに移住したベーシストのマーク・エイブラムス(Marc Abrams)という、馴染みのないミュージシャンでありますが、実力派揃いです。
ちなみにこのライブ、日本では1989年、曲順を大幅に変えた「Chet Baker – Farewell (Alfa Jazz 29R2-42)」として発売され、私は長年、そちらのバージョンを聴いておりまして・・・。
今回、追加曲「Arborway」を聴きたくて「Live In Rosenheim (Timeless SJP-233)」を
入手したのですが。
こちらはサウンドチェックからライブで演奏された順番で収録されている様で、音が良くなっている上に、アルファ・ジャズ盤と曲順が違う為か、印象が全く異なりまして・・・何か別のアルバムを聴いている気分になります(笑)。
ライブ当日のチェット・ベイカー(Chet Baker)は、かなりご機嫌だったらしく、制作中だった映画「Let's Get Lost」の宣伝をするなどライブMCも長め、おまけにピアノ・ソロまで弾いてしまうという徹底したファン・サービスぶりを見せてくれます。
何と言っても、愛すべきテナー奏者ハンク・モブレー(Hank Mobley)が書いた、「Funk In Deep Freeze」を耽美な雰囲気で演奏しているのがポイント高いですね。
1957年03月、ブルーノート(Blue Note Records)に録音した「Hank Mobley - Quintet (Blue Note BLP-1550)」の1曲目に収録されるハード・バップの快演でありますが。
チェット・ベイカー(Chet Baker)は1974年末、「She Was Too Good To Me (CTI Records CTI 6050 S1)」で録音した以降、お気に入りの1曲として最晩年のライブでも演奏していた事が、もうかがえます。
この「Live In Rosenheim (Timeless SJP-233)」収録のバージョンが私も大好きで、時々、自分がリーダーでやらせてもらうライブでは、もちろん通称「黒本」には載ってない曲なので、楽譜を見つけ出して演奏してましたね。
「She Was Too Good To Me (CTI Records CTI 6050 S1)」での演奏に近い感じで、ニコラ・スティロ(Nicola Stilo)のフルートと共に軽やかな演奏を聴かせてくれます。
2曲目「I'm A Fool To Want You」は、フランク・シナトラ(Frank Sinatra)の名バラッド。
12分にも及ぶ演奏は、エコー(リヴァーブ)深めにかけたヴォーカルで、噛みしめる様に言葉を紡ぎ出すチェット・ベイカー(Chet Baker)独特のヴォーカルスタイルをお楽しみいただけます。
3曲目「Portrait In Black And White」は、別名「Zingaro」として知られるアントニオ・カルロス・ジョビン(Antonio Carlos Jobim)の曲。
この曲を演奏したくて楽譜集(マイナス・ワン)を探しても見つけられず、ようやく「ジプシー(Gypsy)」を意味するらしい別名「Zingaro」で掲載されている事を見つけて入手出来たなんて個人的な思い出もあったりします。
この曲でチェット・ベイカー(Chet Baker)のトランペットがオフ・マイク気味に聴こえますが、その理由はソロでピアノを弾くため、ピアノの席に座っているからですね。
4曲目はデューク・エリントン(Duke Ellington)の名曲「In A Sentimental Mood」。
ギターに持ち換えたニコラ・スティロ(Nicola Stilo)との渋めのデュエットが、何とも味わい深いです。
アップテンポの5曲目「If I Should Lose You」は、このライブ中、一番高揚した演奏であり、別編集の「Farewell (Alfa Jazz 29R2-42)」では1曲目に配置されておりました。
6曲目は、追加曲であり15分にも及ぶ「Arborway」。
あれ?チェット・ベイカー(Chet Baker)のソロ、もう終わり(笑)?と風に演奏途中に唐突なテープ編集箇所があるので、その辺が追加曲扱いされた理由だと思われます。
冒頭、アップテンポで軽快に演奏するチェット・ベイカー(Chet Baker)のトランペットが聴こえますが、突然録音テープが切り貼りされた様にミドル・テンポで演奏するニコラ・スティロ(Nicola Stilo)のややファンキーなフルート・ソロに移行します。
続いて観衆の盛大な拍手と口笛鳴り響く中、ルカ・フローレス(Luca Flores)の耽美な
ピアノ・ソロが始まりますが、明るめでありながら若干、哀愁感漂う感じが中々良いですね。ここではマーク・エイブラムス(Marc Abrams)も長めのベース・ソロを聴かせてくれます。
15分もあるのにチェット・ベイカー(Chet Baker)のソロは冒頭の断片だけという、
珍しいトラックであります。
Chet Baker – Live In Rosenheim (Chet Baker's Last Recording As Quartet)
Timeless SJP-233 / Ultra-Vybe/Solid Records CDSOL-6344
side 1 (A)
01. Funk In Deep Freeze (Hank Mobley) 17:05
02. I'm A Fool To Want You (Joel Herron / Frank Sinatra / Jack Wolf) 12:06
side 2 (B)
03. Portrait In Black And White (Antonio Carlos Jobim) 7:12
04. In A Sentimental Mood (Duke Ellington / Manny Kurtz / Irving Mills) 6:07
05. If I Should Lose You (Ralph Rainger / Leo Robin) 15:54
CD Bonus Track
06. Arborway (Rique Pantoja) 15:06
Chet Baker (tp,vo,p) Nicola Stilo (g,fl) Luca Flores (p) Marc Abrams (b)
April 17, 1988 at Rosenheim Jazz Festival in Rosenheim, West Germany.
ついでに私が最初に買った「Chet Baker – Farewell」の曲順も記載しておきます。
個人的な意見としては、こちらの曲順の方が、ライブの雰囲気も伝えつつ、かなり聴き易いかな、と思います。
Chet Baker – Farewell
Timeless SJP-233 / Alfa Jazz 29R2-42 [1989.08.25]
01. If I Should Lose You (R. Rainger / L. Robin)
02. Portrait In Black And White (Antonio Carlos Jobim)
03. I'm A Fool To Want You (J. Herron / F. Sinatra / J. Wolf)
04. Funk In Deep Freeze (Hank Mobley)
05. In A Sentimental Mood (D. Ellington / M. Kurtz / I. Mills)
1988年04月17日、西ドイツの「Rosenheim Jazz Festival」で演奏した約1ヶ月後の1988年05月13日、トランペットを抱えたままオランダ・アムステルダムのホテルの窓から謎の転落死を遂げるという、なんともやるせない最後ではありましたが。
その死の直後に映画「Let's Get Lost」が公開されて、私は今や絶滅したレーザーディスクを入手したものですが、最晩年まで美女に囲まれクスリに耽溺した、破滅型の人生の一端が垣間見える切ない内容が描かれております。