1956年は、ソニー・ロリンズ(Sonny Rollins)、ジョン・コルトレーン(John Coltrane)いずれにとっても重要な年であり、また、数多くの「歴史的名盤」に参加している年でもあります。
ソニー・ロリンズはクリフォード・ブラウン(Clifford Brown)とマックス・ローチ(Max Roach)の双頭バンドに在籍し、豪快な演奏に更なる磨きがかかっていた時期にあたります。
また、ジョン・コルトレーンはマイルス・デイヴィス(Miles Davis)率いるクインテットに在籍し、先輩格のソニー・ロリンズを追い越すべく、めきめきと頭角を現し始めた時期に相当します。
そんな充実した演奏活動を行う中、1956年05月24日に録音された「Tenor Madness (Prestige PRLP-7047)」は、ソニー・ロリンズ(Sonny Rollins)をリーダーとし、マイルス・デイヴィス(Miles Davis)の有名な50年代クインテットのリズム隊をバックに録音されたアルバムであり、表題曲となった「Tenor Madness」のみ、ジョン・コルトレーン(John Coltrane)が参加。
リズム隊はピアノのレッド・ガーランド(Red Garland)、ベースのポール・チェンバース(Paul Chambers)、ドラムスのフィリー・ジョー・ジョーンズ(Philly Joe Jones)という、マイルス・デイヴィス・クインテットのメンバーをそのまんま起用しております。
この録音の約2週間前、50年代マイルス・デイヴィス・クインテットの名声を強固にした「マラソン・セッション」の第1回目の録音が行われている事からも、ソニー・ロリンズ以外のメンバーに関して、充実した演奏ぶりを推測される方が多いのではないかと思われます。
そうすると表題曲「Tenor Madness」以外は、1957年01月19日に録音された超名盤「Art Pepper Meets the Rhythm Section (Contemporary S7532)」に先駆け、「Sonny Rollins Meets the Rhythm Section」という形式で録音されている事になりますね。
この点を言及される方も見かけない様なので、あえてここに書き記しておきます。
「Tenor Madness (Prestige PRLP-7047)」に収録された曲について、少しだけ。
ブルースのコード進行で作られた1曲目「Tenor Madness」では、ソニー・ロリンズ(Sonny Rollins)とジョン・コルトレーン(John Coltrane)による12分にも及ぶテナー・バトルが展開されます。
ちなみにソニー・ロリンズ作曲の「Tenor Madness」は、モダン・ジャズ・ドラムの開祖、ケニー・クラーク(Kenny Clarke)が作曲したとされる「Rue Chaptal」とタイトルが違うだけで、同じ曲ですね。
単純な構成のテーマを演奏した後、やや気負った感じでソロを吹いているのは、ジョン・コルトレーン(John Coltrane)。続くソニー・ロリンズ(Sonny Rollins)は、気負いない大らかなソロで迎え撃ちます。
続いてレッド・ガーランド(Red Garland)と、ポール・チェンバース(Paul Chambers)のソロを挟み、ドラムスのフィリー・ジョー・ジョーンズ(Philly Joe Jones)とフロント二人のソロ交換に突入。
予定調和的な小競り合い(笑)の後、僅差でソニー・ロリンズが王者の風格を見せつけてテナー・バトルの勝利を掴み、テーマに戻っていきます・・・。
前述の通り、ここからは「Sonny Rollins Meets the Rhythm Section」による演奏。
2曲目「When Your Lover Has Gone」は、ミディアム・テンポの曲。ソニー・ロリンズのソロの途中で、フィリー・ジョー・ジョーンズが倍テンを仕掛け、ロリンズを煽ってたりします(笑)。
ちなみにこのドラムスの煽り方は、1957年09月に録音された「John Coltrane – Blue Train (Blue Note BLP-1577)」の表題曲で、効果的に使われておりますね。
3曲目「Paul's Pal」はタイトルからも推測される通り、ソニー・ロリンズ(Sonny Rollins)が、ベースのポール・チェンバース(Paul Chambers)に捧げた曲の様です。
ソニー・ロリンズの次に登場する、ポール・チェンバースの風格あるゆったりとしたソロが素晴らしいです。
バラッドで演奏される4曲目「My Reverie」は、ソニー・ロリンズの優しい性格がテナーの音から滲み出てくる様に感じられます。
アルバムの最後を飾る5曲目「The Most Beautiful Girl In The World」は、豪快さと繊細さを両方持ち合わせたソニー・ロリンズ(Sonny Rollins)の稀有な演奏スタイルが、ソロの端々に垣間見える演奏のように思えます。
Sonny Rollins - Tenor Madness (1956)
Prestige PRLP-7047 / OJCCD-124-2 / Victor Entertainment VICJ-41502 [2006.06.21]
side 1 (A)
01. Tenor Madness (Sonny Rollins) 12:11
02. When Your Lover Has Gone (E.A. Swan) 6:09
side 2 (B)
03. Paul's Pal (Sonny Rollins) 5:10
04. My Reverie (Larry Clinton) 6:05
05. The Most Beautiful Girl In The World (Rodgers-Hart) 5:32
Sonny Rollins (ts) John Coltrane (ts #1) Red Garland (p) Paul Chambers (b)
Philly Joe Jones (ds)
May 24, 1956 at Rudy Van Gelder Studio, Hackensack, NJ.
最後に1956年05月24日に録音された「Tenor Madness (Prestige PRLP-7047)」前後におけるソニー・ロリンズ(Sonny Rollins)とマイルス・デイヴィス・クインテットの録音について、少しだけ記載しておきます。
●January 4, 1956 in NYC.
Clifford Brown And Max Roach At Basin Street (EmArcy MG-36070)
●March 22, 1956 in NYC.
Sonny Rollins Plus 4 (Prestige PRLP-7038)
トランぺッター、クリフォード・ブラウン(Clifford Brown)と共演する事により、ソニー・ロリンズが元々持っていた豪快な演奏に、更なる磨きがかかっていた時期の録音としても重要であり、私所有の「The Complete EmArcy Recordings Of Clifford Brown」を聴いていると、共演を重ねるにつれ、フロント二人の演奏が一体化していく過程を垣間見れます。
◆May 11, 1956 at Rudy Van Gelder Studio, Hackensack, NJ.
Relaxin' With The Miles Davis Quintet (Prestige PRLP-7129)
Workin' With The Miles Davis Quintet (Prestige PRLP-7166)
Steamin' With The Miles Davis Quintet (Prestige PRLP-7200)
「Tenor Madness (Prestige PRLP-7047)」が録音された約2週間前には、マイルス・デイヴィス(Miles Davis)の有名な50年代クインテットの名声を強固にした所謂「マラソン・セッション」の第1回目の録音が行われました。
●May 24, 1956 at Rudy Van Gelder Studio, Hackensack, NJ.
Sonny Rollins Quartet - Tenor Madness (Prestige PRLP-7047)
●June 22, 1956 at Van Gelder Studio, Hackensack, NJ.
Sonny Rollins - Saxophone Colossus (Prestige PRLP-7079)
ソニー・ロリンズ(Sonny Rollins)最大のヒットアルバム「Saxophone Colossus」録音から4日後の1956年06月26日、クリフォード・ブラウンとピアニストのリッチー・パウエル(Richie Powell)が、交通事故で亡くなるというアクシデントに見舞われ、ソニー達に悲劇が訪れます。
バンドの柱を失ったマックス・ローチのバンドは、ブッカー・リトル(Booker Little)という天才トランぺッターを獲得するまでの間、しばし停滞期間に突入する事となります。
◆October 26, 1956 at Rudy Van Gelder Studio, Hackensack, NJ.
Miles Davis And The Modern Jazz Giants (Prestige PRLP-7150)
Cookin' With The Miles Davis Quintet (Prestige PRLP-7094)
Relaxin' With The Miles Davis Quintet (Prestige PRLP-7129)
Workin' With The Miles Davis Quintet (Prestige PRLP-7166)
Steamin' With The Miles Davis Quintet (Prestige PRLP-7200)
マイルス・デイヴィス(Miles Davis)の有名な50年代クインテットの名声を強固にした所謂「マラソン・セッション」の第2回目の録音は、年も押し詰まる1957年12月26日に行われました。