アート・ブレイキー(Art Blakey)がジャズ・メッセンジャーズ(The Jazz Messengers)を率いて世界中にファンキー・ブームを巻き起こすきっかけになったのが、このアルバム「Moanin' (Blue Note BST-84003)」。
オリジナルタイトルはバンド名だけですが、他のアルバムとの混乱を避けるためか、「Moanin'」と表記される事が多いです。
マイルス・デイヴィスが契約上の関係もあり脇役として参加していたキャノンボール・アダレイのセッション「Somethin' Else (Blue Note BST-81595)」で、マイルスが「音楽監督」としてバンドのとりまとめをやってきた事を覚えていた、ブルーノート(Blue Note Records)のオーナー、アルフレッド・ライオン(Alfred Lion)。
リーダー自身も気が緩みかけているブレイキー率いるバンド「Jazz Messengers」に、「音楽監督」を迎えれば、立て直しが出来るのではないだろうか?
ライオンからの発案により、ベニー・ゴルソン(Benny Golson)を音楽監督に迎え、ホレス・シルヴァー(Horace Silver)脱退後、精細を欠いていた「Jazz Messengers」を一新。
新たにトランペットの俊英・リー・モーガン(Lee Morgan)と、ピアノのボビー・ティモンズ(Bobby Timmons)を迎える事により、バンドは従来のハード・バップ路線からファンキー路線へ舵を切る事となります。
蛇足ですが、一新する前のバンドに在籍していたビル・ハードマン(Bill Hardman)がトランペットの席を快く受け渡してくれたお礼なのか?
後年、トランペットの欠員が出るとビル・ハードマンが呼ばれていたようです。
さて特にボビー・ティモンズ(Bobby Timmons)が作曲し、バンドの定番曲となったのが「モーニン(Moanin')」。
ティモンズがリハーサルに持ってきたこの曲を聴き、ゴスペルでよく用いられる「コール&レスポンス」を思いついたゴルソン・・・。
ティモンズに指示して、ピアノのメロディの後にホーンが奏でる「レスポンス」の部分をパパッと付け加え誕生したのが、今聴くことが出来る「Moanin'」です。
この曲は、世界的に熱狂的なファンキーブームを巻き起こす事となります。
確か、ジョン・ヘンドリックス(Jon Hendricks)が「Moanin'」つけた歌詞だと、その部分は「イエッサー!」だった記憶があります。
「ジャズの伝道師(The Jazz Messengers)」と名乗っていたブレイキーのバンドですが、このアルバムを録音する事で「テーマ曲」を手に入れた訳ですね(笑)。
1961年の来日公演を経て、日本で大ヒットした時、油井正一先生の話では「そば屋の出前が口笛でモーニン吹いてた」という真偽不明な伝説が生まれるほど、ノリが良く親しみ易い曲でもあります。
このアルバムにはもう1曲、バンドの定番曲となる「Blues March」も収録されております。
Art Blakey and The Jazz Messengers – Moanin' +1 (RVG)
Blue Note BST-84003 / 7243 4 95324 2 7 [1999]
01. Warm-Up And Dialogue Between Lee And Rudy 0:35
side 1
02. Moanin' (Bobby Timmons) 9:30
03. Are You Real? (Benny Golson) 4:47
04. Along Came Betty (Benny Golson) 6:08
side 2
05. The Drum Thunder Suite (Benny Golson) 7:30
First Theme: Drum Thunder
Second Theme: Cry A Blue Tear
Third Theme: Harlem's Disciplines
06. Blues March (Benny Golson) 6:13
07. Come Rain Or Come Shine (H. Arlen-J. Mercer) 5:45
Bonus Track
08. Moanin' (alternate take) (Bobby Timmons) 9:19
Art Blakey and The Jazz Messengers
Lee Morgan (tp) Benny Golson (ts) Bobby Timmons (p)
Jymie Merritt (b) Art Blakey (ds)
October 30, 1958 at Van Gelder Studio, Hackensack, NJ.
このアルバムは数多のバージョンが発売されてますが、私のお勧めは「米RVG盤」。
冒頭につけ加えられた「Warm-Up And Dialogue Between Lee And Rudy」という、35秒ほどの録音風景がアルバムを聴く前の心を引き締めてくれる、「刺激的な香辛料」的な役目を果たしてくれます。
このアルバムがヒットしたお陰で、ヨーロッパ各地にツアー旅行した際の記録(ライブ録音と映像)が沢山残される事となったのは、後追いでこのバンドを体験する我々にとってもメリットでしたね。
他のバンドと掛け持ち状態だった音楽監督のベニー・ゴルソンが抜けた後釜として、ウェイン・ショーター(Wayne Shorter)が参加。
新音楽監督・ショーターの意向で、ファンキー路線からモード路線へとバンド・サウンドが変化していきます。
日本に来日し、ミュージシャン達にモード奏法を伝授する話なんかは、別の機会に・・・。