天才少年リー・モーガン(Lee Morgan)がブルーノート(Blue Note Records)における第5弾アルバムが、今回の「The Cooker (Blue Note BLP-1578)」です。
参加メンバーは、フロントにバリトン・サックスのペッパー・アダムス(Pepper Adams)、ピアノがボビー・ティモンズ(Bobby Timmons)、ベースにポール・チェンバース(Paul Chambers)、ドラムスにフィリー・ジョー・ジョーンズ("Philly" Joe Jones)という、鉄壁の布陣。
この時期のリー・モーガン(Lee Morgan)が好調期にあった事は、ディジー・ガレスピー(Dizzy Gillespie)楽団で研鑽を積みつつも、サイドメンとして参加したアルバムが、いずれも名盤として今も聴き継がれている事からも、お分かりいただけるかと・・・。
「The Cooker (Blue Note BLP-1578)」が録音された時期のディスコグラフィーを眺めると、2週間前の09月15日に大名盤「John Coltrane - Blue Train (Blue Note BLP-1577)」を録音しているのですね。
1ヶ月前の08月25日にはオルガン・ジャズの開祖、ジミー・スミス(Jimmy Smith)をリーダーとするブルーノート・オールスターズによるジャム・セッション盤「Jimmy Smith - House Party (Blue Note BLP-4002)」、「Jimmy Smith - The Sermon (Blue Note BLP-4011)」にも参加しております。
「Indeed (Blue Note BLP-1538)」、「Lee Morgan (Vol. 2) (Blue Note BLP-1541)」、「Lee Morgan Vol. 3 (Blue Note BLP-1557)」、「City Lights (Blue Note BLP-1575)」と続くこれまでの4作は、ブルーノート(Blue Note Records)が録音したマイルス・デイビス、クリフォード・ブラウンらのアルバム同様、リー・モーガン(Lee Morgan)が吹きすぎてアルバム全体のバランスが崩れる事を抑制するため、全て「編曲者付き」のスモール・アンサンブルを採用しておりました。
さて今回、通算5枚目となる「The Cooker (Blue Note BLP-1578)」では、初めて編曲者という制約というか「縁の下の力持ち」を取り除き、「曲」という素材だけを生かした各人のソロに重点を絞る形になっております。
なお、私個人のお楽しみとしては、ブルー・ノート初登場であるペッパー・アダムス(Pepper Adams)の、ドスの効いたバリトン・サックス・ソロが楽しめる事だったりします・・・。
アルバムは1曲目、いきなりクライマックスを迎えたかのような「チュニジアの夜(A Night In Tunisia)」で幕が上がります。
ソロ冒頭からリー・モーガンの派手なブローをお楽しみいただけますが、ディジー・ガレスピー(Dizzy Gillespie)楽団在席時、リー・モーガン自身のフューチャー曲として演奏していた曲でもありますから、お手のものでしょう。
ちなみに約3年後の1960年08月には、アート・ブレイキー(Art Blakey)率いる新生ジャズ・メッセンジャーズにて、同曲を録音する事となります。
音楽監督を務めるウェイン・ショーター(Wayne Shorter)の編曲による決定的かつド派手なバージョンの「チュニジアの夜(A Night In Tunisia)」ですが、アート・ブレイキー率いるジャズ・メッセンジャーズだけでも、数多のバージョンがありますので、それぞれ聴き比べてみるのも面白いかと思います。
続く2曲目、リー・モーガン自らの手による「Heavy Dipper」は、私の好きな「Beauteous (Paul Chambers)」に雰囲気が良く似た曲調の、如何にもハードバップ然とした曲です。
余裕のリー・モーガン、ドスの効いた音色でザクザクと切り裂くようなペッパー・アダムス、ハードバップに若干のファンキー風味をまぶしたボビー・ティモンズ、ゆったりとしたポール・チェンバースとソロリレーが続き、テーマに戻る前にフロント2名とフィリー・ジョー・ジョーンズによる、刺激的な4小節交換ソロが繰り広げられます。
3曲目からは12インチ・レコードではB面に相当します。12インチ・レコードでこのアルバム「The Cooker (Blue Note BLP-1578)」を聴かれる方は、3曲目から聴いてみても面白いかもしれません。
さて3曲目は、コール・ポーター(Cole Porter)が作曲した「Just One Of Those Things 」で、私がこのアルバムを聴いた時は、一番の出来だと思ってました。
アップテンポにリズムに乗って機関銃のようにフレーズをぶちまけるペッパー・アダムス、続くリー・モーガンは大名盤「John Coltrane - Blue Train (Blue Note BLP-1577)」でも聴くことが出来る、小粋なフレーズを繰り出して応酬、最後にバド・パウエル(Bud Powell)風のフレーズをさらっと繰り出すボビー・ティモンズが登場。
ソロ・リレーの後登場する、ドラムとのスリリングなソロ交換も素敵です。
バラッドで演奏される4曲目の「Lover Man」では、リー・モーガンが「ファッツ・ナバロ(Fats Navarro)」や「クリフォード・ブラウン(Clifford Brown)」から継承したふくよかな音色をお楽しみいただけます。
続くファンキー風味でありながら抒情的なソロを聴かせるボビー・ティモンズ、ドスを効かせつつ劇的なソロを繰り広げるペッパー・アダムスは、それぞれ趣がありますね。
サイドメン2名のソロを挟んで再び登場するリー・モーガンが、バラッドなのに(笑)演奏を大いに盛り上げております。
ラスト5曲目、リー・モーガンが作曲したラフなブルース「New-Ma」は、やけにタメを効かせた(ねちっこい)演奏です。
この「New-Ma」が、ボビー・テイモンズ(Bobby Timmons)作曲の超有名曲「Moanin'」の雛形だという評論家もいらっしゃるようですね。
落ち着いたボビー・ティモンズ、ゆったりとスイングするポール・チェンバース、饒舌なペッパー・アダムスとソロ・リレーが続いた後に登場するリー・モーガンは、後に演奏する「Dat Dere」でも聴く事が出来る、印象的な「ツクツク」と擬音表現出来る、やや前のめり気味なフレーズを駆使して演奏を盛り上げます。
「The Cooker (Blue Note BLP-1578)」の録音当時、20歳になったばかりのリー・モーガン。
このアルバムの2ヶ月後には、ブルーノート(Blue Note Records)のオーナー、アルフレッド・ライオン(Alfred Lion)が仕掛けた「リー・モーガン育成プログラム」の仕上げとして、ワン・ホーンによる決定的名盤「Candy (Blue Note BLP-1590)」が生み出される事となります。
Lee Morgan - The Cooker (RVG)
Blue Note BLP-1578 / 東芝EMI TOCJ-9084 [1999.03.25] 24 Bit By RVG
side 1 (A)
01. A Night In Tunisia (D. Gillespie, F. Paparelli) 9:26
02. Heavy Dipper (Lee Morgan) 7:08
side 2 (B)
03. Just One Of Those Things (Cole Porter) 7:19
04. Lover Man (Davis, Sherman, Ramirez) 6:53
05. New-Ma (Lee Morgan) 8:15
Lee Morgan (tp) Pepper Adams (bs) Bobby Timmons (p)
Paul Chambers (b) "Philly" Joe Jones (ds)
September 29, 1957 at Van Gelder Studio, Hackensack, NJ.