「Hank Mobley With Donald Byrd And Lee Morgan (Blue Note BLP-1540)」は、ジャズ評論家レナード・フェザー(Leonard Feather)が「テナー・サックスのミドル級チャンピオン」と評したハンク・モブレー(Hank Mobley)をリーダーとして、1956年11月25日に録音されたアルバムです。
長ったらしいタイトルなので、「Hank Mobley Sextet (Blue Note BLP-1540)」と記載される事が多いですね。
収録された4曲全てが、当時26歳のハンク・モブレー(Hank Mobley)の手による作品であり、ジャケット写真に写る通り、注目の若手トランペッター2名が華を添える形になっております。
このアルバムが企画された背景として、この録音(1956年11月25日)の5ヶ月前である1956年06月26日、天才トランぺッター・クリフォード・ブラウン(Clifford Brown)が交通事故により、25歳の若さで急死した事が大いに影響しているものと推測されます。
ブラウニー(クリフォード・ブラウンの愛称)亡き後のジャズ・シーンにおいて、「ブラウニーの再来」と注目されていたであろう2人のトランぺッター、当時18歳の神童、リー・モーガン(Lee Morgan)と、当時23歳でホレス・シルヴァーやアート・ブレイキーとの共演で注目を集めていたであろう、ドナルド・バード(Donald Byrd)。
彼ら2人を参加させ、ハンク・モブレーの自作曲を演奏する事で、統制がとれたトランペット・バトル主体の「ブローイング・セッション」を繰り広げるアルバムというのが、「Hank Mobley With Donald Byrd And Lee Morgan (Blue Note BLP-1540)」の概要です。
演奏を底支えするピアノ・トリオのメンバーはと言うと、まずブルーノート(Blue Note Records)のハウス・ピアニストであった当時28歳のホレス・シルヴァー(Horace Silver)、ベーシストには当時21歳のポール・チェンバース(Paul Chambers)、ドラムスには当時27歳のチャーリー・パーシップ(Charlie Persip)を起用。
トランペット・バトル主体の「ブローイング・セッション」であるものの、バック・アンサンブルに工夫を施すなど、単に吹きっぱなしで盛り上がるだけの録音にならない様、ブルーノート(Blue Note Records)らしい、細心の注意が払われている事が伺えます。
26歳のハンク・モブレー(Hank Mobley)と18歳のリー・モーガン(Lee Morgan)は誕生日も近く、相性が良かったのか、後に「M&M(Mobley & Morgan)」コンビと呼ばれていた様です。
そこに23歳のドナルド・バード(Donald Byrd)が加わったアルバム、という見方も出来ますね。
ついでなんで、2人の若手トランぺッターを聴き分ける為のポイント(例)を挙げておきます。
艶やかな音色で延ばし気味のフレーズが多いのが、ドナルド・バード(Donald Byrd)です。
ディジー・ガレスピー寄りの、やや饒舌なフレーズを多用するのが、まだ10代で元気いっぱいのリー・モーガン(Lee Morgan)だと思って間違いないです。
まあ、ぼーっと聴いてると、時々訳が分からなくなりますけど(笑)。
さて前述の通り、「Hank Mobley With Donald Byrd And Lee Morgan (Hank Mobley Sextet) (Blue Note BLP-1540)」では、ハンク・モブレーがすべて手掛けた4曲の演奏というか、期待の若手トランペッター2名による、軽快なトランペット・バトルをお楽しみいただけます。
1曲目「Touch And Go」は、テーマ部のドラムスの煽りがビックバンドっぽい感じで、アップテンポ気味に演奏されるテーマ・アンサンブルが何とも勇ましいですね。
ホレス・シルヴァーのピアノ・ソロの後登場するのは、リー・モーガン。
彼のやんちゃなブラウニー(クリフォード・ブラウン)風のソロの次は、リーダーというかまとめ役のハンク・モブレーのマイルドなソロが登場。
4番手に登場するドナルド・バードは、ソロ・フレーズは勿論、音色までブラウニーに
似せてきてますね。
ポール・チェンバースの弓弾きソロ、チャーリー・パーシップのドラムソロに続き、激しいトランペット・バトルが展開された後、テーマ部に戻ります。
ぼーっと聴いていると、判別出来なくなるのですが、バトル最初に出て来るのがドナルド・バードで、お次がリー・モーガンです。
この曲でブラウニー譲りの艶やかな音色でフレーズを延ばし気味なのがドナルド・バードで、ディジー・ガレスピー(Dizzy Gillespie)っぽい細かいフレーズを猛烈にスイングさせているのがリー・モーガンといった感じですかね。
2曲目「Double Whammy」は、ゆったりとした感じで演奏されますが、ややハッタリ気味のフレーズを挿入する事で、曲を引き締めてる感じがします。
ソロの最初はハンク・モブレーですが、途中にトランペット2人が奏でるバックアンサンブルが登場します。
ソロ2番手のリー・モーガン、ここではハーフバルブ駆使しつつ手堅くまとめてます。
3番目に登場するドナルド・バードは、バード自身のお得意のフレーズを使いつつ、やんちゃ気味にソロを展開し、ホレス・シルヴァーの短めのピアノ・ソロに引き継ぎます。
テーマ・アンサンブルとドラムの掛け合いを経て、トランペット・バトルが始まりますが、この曲ではドナルド・バード、リー・モーガンの順で交互にソロバトルを展開しております。
3曲目「Barrel Of Funk」は、深めにスイングするややソウルフルな曲ですね。
ソロ1番目はドナルド・バード、2番手はハンク・モブレーですが、この部分の雰囲気は、ホレス・シルヴァー・クインテットにも、こんな感じの曲あったよなあ・・・と思わせる演奏です(笑)。
ソロ3番手のリー・モーガンは、18歳という若さがそうさせるのか、渋く決める事無く、音数多めにやんちゃなソロを展開します。
4番手のホレス・シルヴァーは、この手の曲調はお手のものといった感じで、如何にもホレスらしいソロを聴かせてくれますが、他のリズム隊もいきなりホレス・シルヴァー・クインテット風の演奏に似せてくる辺りが、芸が細かいというか・・・。
ソロ最後に登場するポール・チェンバースのベース・ソロを経て、テーマ・アンサンブルに戻ります。
4曲目「Mobleymania」は、軽快にテーマを奏でた後、1番目にリー・モーガンが登場。お得意の「ツクツク」フレーズで演奏を盛り上げます。
ソロ2番手のドナルド・バードは、延ばし気味のフレーズで手堅くまとめている感じ。
3番手のハンク・モブレーは自身の作品なので、構造をきっちりと把握した堅実なソロ
を聴かせてくれます。
ホレス・シルヴァーのピアノ・ソロ、ポール・チェンバースの弓弾きソロを経て、力強いテーマ・アンサンブルが再び登場します。
ハンク・モブレー(Hank Mobley)がリーダーなのに、実質的には若手2人が繰り広げるトランペット・バトルが主体の「ブローイング・セッション」。
様々な面に配慮しつつ出来上がったのが、このアルバム「Hank Mobley With Donald Byrd And Lee Morgan (Blue Note BLP-1540)」、通称「Hank Mobley Sextet (Blue Note BLP-1540)」なんですね。
今回、聴き直し、手持ちの資料漁った結果として、「背景」含め思い当たる事が色々と見えてきたのは、収穫でした。
Hank Mobley With Donald Byrd And Lee Morgan (RVG)
※通称「Hank Mobley Sextet (Blue Note BLP-1540)」
Blue Note BLP-1540 / TOCJ-9154 [1999.11.26] 24 Bit By RVG
side 1 (A)
01. Touch And Go (Hank Mobley) 9:17
02. Double Whammy (Hank Mobley) 8:11
side 2 (B)
03. Barrel Of Funk (Hank Mobley) 11:20
04. Mobleymania (Hank Mobley) 8:28
Donald Byrd (tp) Lee Morgan (tp) Hank Mobley (ts) Horace Silver (p)
Paul Chambers (b) Charlie Persip (ds)
November 25, 1956 at Van Gelder Studio, Hackensack, NJ.
<1956年11月25日録音時点の参加メンバー年齢等>
●ハンク・モブレー(Hank Mobley)26歳(1930年07月07日ジョージア州生まれ)
●リー・モーガン(Lee Morgan)18歳(1938年07月10日ペンシルベニア州フィラデルフィア生まれ)
●ドナルド・バード(Donald Byrd)23歳(1932年12月09日ミシガン州デトロイト生まれ)
●ホレス・シルヴァー(Horace Silver)28歳(1928年09月02日コネチカット州ノーウォーク生まれ)
●ポール・チェンバース(Paul Chambers)21歳(1935年04月22日ペンシルベニア州ピッツバーグ生まれ)
●チャーリー・パーシップ(Charlie Persip)27歳(1929年07月26日ニュー・ジャージー州 モリスタウン生まれ)