「Louis Smith - Here Comes Louis Smith (Blue Note) 1958」端正で知性溢れるトランペット奏者
米テネシー州出身のトランペット奏者で教育者でもあるルイ・スミス(Louis Smith)。
早逝したクリフォード・ブラウン(Clifford Brown)直系の、端正で知性溢れるトランペット奏者であります。
ルイ・スミスは、1952年までテネシー州立大学で音楽を学び、修士号を取得。1954年から1955年にかけ兵役のため軍楽隊でトランペットを演奏していたとか。
クリフォード・ブラウン同様に早逝した、トランペットのブッカー・リトル(Booker Little)は、いとこなんだそうです。
時々、ブッカー・リトルと似たようなソロフレーズが飛び出すので、あれ?と思ったら、いとこだったのか・・・。
さて、「Louis Smith - Here Comes Louis Smith (Blue Note BLP-1584)」は、1958年の録音なので、アトランタのハイスクールで音楽教師を務めていた時期(1955年から1960年まで)の演奏ですね。
ニューヨークの「Audio Sonic Sound」での録音なので、ルディ・ヴァン・ゲルダーが録音エンジニアではないようです。
この音源は元々、黒人プロデューサーであるトム・ウィルソン(Tom Wilson)が興したトランジション(Transition Records)で録音された未発表音源なんだそうで、トランジションが短期間の活動の後に倒産した際、ブルーノート(Blue Note Records)が原盤を買い取り、1500番台の1枚として発売されたものです。
ライナーノートの最後に、スーパーバイザーとしてトム・ウィルソンの名前が記載されているのは、そんな裏事情があるからだそうです。
原盤買取作品であるため、この時期のブルーノートとしては珍しいメンバーが参加しております。
アルトサックスのキャノンボール・アダレイ(Cannonball Adderley)は契約の関係上、
バックショット・ラ・ファンク(Buckshot La Funke)という変名で参加。
ピアノには、私が最も敬愛するデューク・ジョーダン(Duke Jordan)と、しばしば名盤請負人と賞賛されるトミー・フラナガン(Tommy Flanagan)が参加しております。
ドラムスのアート・テイラー(Art Taylor)とベースのダグ・ワトキンス(Doug Watkins)は、ハードバップ系のアルバムではお馴染みのメンバーですね。
さてオープニングの1曲目「Tribute to Brownie」はクリフォード・ブラウン(Clifford Brown)に捧げられたナンバー。
クリフォード・ブラウンはこの録音の約7ヶ月前の1956年06月、交通事故で亡くなっております。
作曲者のデューク・ピアソン(Duke Pearson)は、4000番台で同じブラウニー派と言われるドナルド・バード(Donald Byrd)のバンドに参加、作編曲能力を開花した人であります。
軽快なドラムに導かれ始まるテーマ前のイントロから、ルイ・スミスの熱いソロが始まり、初期のブラウニーを彷彿とさせるフレーズを混ぜながらそのままテーマに突入。
バックショット・ラ・ファンク(キャノンボール・アダレイの変名)の饒舌なソロに受け渡します。
その後、印象的なブリッジを経てルイ・スミスのソロに入りますが、バックショット・ラ・ファンクに影響されたのか、こちらも饒舌なソロ。
続くデューク・ジョーダンの清涼感溢れるソロがこれまたいい。シングルトーンを中心に親しみ易いフレーズを、ころころと弾き倒します。
2曲目のルイ・スミス自作のミディアム・ブルース「Brill's Blues」で一息付きます。
「Indiana」のコード進行を元に、奥さんの名前をつけたアップテンポの3曲目「Ande」では、熱いブローイング・セッションが展開されます。
いやしかしルイ・スミス、饒舌なバックショット・ラ・ファンクと結構似たようなソロ・フレーズ吹いてるんですね。凄いなあ。
4曲目の超有名スタンダードの「Stardust」は、最後のカデンツァまで一気に聴ける素晴らしいバラッドで、トランペット好きには特にお勧めしときます。
名盤請負人と称されるトミー・フラナガン(Tommy Flanagan)のトリオをバックに、優しさ溢れるソロを聴かせてくれます。
ミディアム・テンポのユーモア溢れる5曲目「South Side」は、ちょっとタッド・ダメロン(Tadd Dameron)の作風を連想させる作品ですね。
6曲目でラストのアップテンポ・ブルース「Val's Blues」は、勢いにのった各メンバーが、饒舌なソロを繰り広げます。
クリフォード・ブラウン(Clifford Brown)直系のルイ・スミス(Louis Smith)と、チャーリー・パーカーの再来とも言われたバックショット・ラ・ファンク(キャノンボール・アダレイの変名)のコンビによる演奏を聴いたブルーノート(Blue Note Records)のオーナー、アルフレッド・ライオン(Alfred Lion)の脳裏には、もしかするとクリフォード・ブラウンとルー・ドナルドソンのコンビで録音された「バードランドの夜(A Night At Birdland)」が浮かんでいたのかもしれません。
買い取り音源を、名盤ひしめく1500番台後半の1枚 (Blue Note BLP-1584)として発売した理由は、そのあたりのような気がしてきました。
Louis Smith - Here Comes Louis Smith (RVG)
Blue Note BLP-1584 / 東芝EMI TOCJ-9137 [1999.09.22] 24 Bit By RVG
side 1 (A)
01. Tribute To Brownie (Duke Pearson) 6:38
02. Brill's Blues (Louis Smith) 8:22
03. Ande (Louis Smith) 6:42
side 2 (B)
04. Star Dust (H. Carmichael) 5:21
05. South Side (Louis Smith) 8:39
06. Val's Blues (Louis Smith) 6:37
#01,02,05 February 4, 1958 at Audio Sonic Sound, NYC.
Louis Smith (tp) Cannonball Adderley as "Buckshot La Funke" (as)
Duke Jordan (p) Doug Watkins (b) Art Taylor (ds)
#03,04,06 February 9, 1958 at Audio Sonic Sound, NYC.
Louis Smith (tp) Cannonball Adderley as "Buckshot La Funke" (as #3,6)
Tommy Flanagan (p) Doug Watkins (b) Art Taylor (ds)
ルイ・スミスはこの録音の約1年後の1958年、ブルーノートで「Smithville (Blue Note BLP-1594)」を録音します。
同じく1958年年07月、ホレス・シルヴァー・クインテットの一員してニューポート・ジャズ・フェスティバルに出演。その時の発掘音源が、最近ブルーノートより発売されました。
98070-2 Horace Silver - Live at Newport '58 (2008.02.05)
01. Introduction By Willis Connover 00:44
02. Tippin' 13:10
03. The Outlaw 11:47
04. Senor Blues 08:42
05. Cool Eyes 10:21
Louis Smith (tp) Junior Cook (ts) Horace Silver (p) Gene Taylor (b) Louis Hayes (ds)
Recorded on July 6, 1958 at Newport Jazz Festival, Newport, Rhode Island.
その他、ケニー・バレル(Kenny Burrell)を主役としたジャム・セッションにも参加してますね。
Kenny Burrell - Blue-Lights Vol.1 & 2 [BN1596/BN1597]
クリフォード・ブラウン(Clifford Brown)直系のトランペット奏者、ドナルド・バード(Donald Byrd)とルイ・スミス(Louis Smith)の2名は、時期は異なりますがホレス・シルヴァー(Horace Silver)のバンドで演奏しておりました。
ブッカー・リトル(Booker Little)は、ケニー・ドーハム(Kenny Dorham)の後任としてマックス・ローチ(Max Roach)のバンドに参加しております。
単独での発売が最近されないのが残念ですが、ニューポートでのライブにおける、ブッカー・リトルの「鬼神の如き」と形容される演奏がお勧め。