「Wayne Shorter - Adam's Apple (Blue Note) 1966」マイルスの影響化で覚醒するショーター

1965年12月末にはシカゴの「プラグド・ニッケル（Plugged Nickel）」にて、不調気味のマイルスを煽るように、メンバーがフリージャズ寄りの壮絶な演奏を繰り広げたライブ「At Plugged Nickel (Columbia C2-38266)」が録音されます。

マイルス・デイヴィス（Miles Davis）の影響化で、よりダークで幻想的な曲と演奏スタイルに移行しはじめたウェイン・ショーター（Wayne Shorter）が、1966年02月03日と24日の二日間に渡り録音したアルバムが、今回紹介する「Adam's Apple (Blue Note BST-84232)」です。

カッコよい表現をすると「マイルスの影響化で覚醒するショーター」が残した１枚、という感じですか。

このアルバムにはジャズ・ロックの快演「Adam's Apple」と、マイルス・デイヴィスのクインテットによる名演もある「Footprints」が収録されております。

バックを支えるには、ピアノがハービー・ハンコック（Herbie Hancock）、ベースがレジー・ワークマン（Reginald Workman）、ドラムスがジョー・チェンバース（Joe Chambers）という、新主流派と呼ばれる代表的なメンバーを揃えたピアノ・トリオです。

１曲目の「Adam's Apple」は、ハービー・ハンコック（Herbie Hancock）のテンション高めのバッキングとレジー・ワークマン（Reginald Workman）のベースパターンが耳に残る、重厚なるジャズ・ロック。

ハービー・ハンコック（Herbie Hancock）の歯切れ良いバッキングにのり、ダークな音色のウェイン・ショーター（Wayne Shorter）が、なんというかデクスター・ゴードン（Dexter Gordon）に通じる大らかというか、おとぼけ気味のブローを展開してます。

続くハービー・ハンコック（Herbie Hancock）の豪快なソロは、「プラグド・ニッケル（Plugged Nickel）」のライブと通底する緊張感が溢れてますね。

２曲目、しっとりとした３拍子の「502 Blues (Drinkin' And Drivin')」はピアニスト、ジミー・ロウルズ(Jimmy Rowles)の作品。

ほんわかムードの中、ウェイン・ショーターは、幻想的なソロフレーズを綴っていきます。しかし、ファンタジー映画のＢＧＭみたいな曲ですね。

３曲目の「El Gaucho」は、歯切良いボサノ・ヴァ風リズムの１曲。

ジョー・チェンバース（Joe Chambers）の叩き出す「カッ！カッ！」と聴こえるリム・ショットが心地良いです。

４曲目の「Footprints」は、６／８拍子のゆったりとしたテンポの曲。

茫漠としたウェイン・ショーターのソロ、続くハービー・ハンコックは対照的に前のめり気味でテンション高めのソロを聴かせてくれます。

ちなみにマイルス・デイヴィス・クインテットによる演奏は、1966年10月録音の「Miles Siles (Columbia CS-9401)」に収録されてます。

５曲目の「Teru」は、美しくも幻想的なスロー・バラッド。

こういう耽美的な演奏は、ウェイン・ショーターとハービー・ハンコックのコンビ
にしか生み出せないでしょうね。

ここにマイルス・デイヴィス（Miles Davis）が加わると、もっとシニカルな演奏になるでしょうし。

６曲目、アルバムの最後を飾る「Chief Crazy Horse」はオリジナル・ライナーによると、ややジョン・コルトレーン（John Coltrane）風味漂う曲なんだそうです。

そういう視点で聴くと、ジョー・チェンバース（Joe Chambers）のドラムが、エルヴィン・ジョーンズ（Elvin Jones）風に聴こえて来るという不思議（笑）。

そうするとソロで、ハービー・ハンコックがマッコイ・タイナー（McCoy Tyner）風のフレーズを弾いてたりします（苦笑）。

ＣＤによっては、ボーナス・トラックとして「The Collector」を追加収録。この曲は、もろ「マイルス・デイヴィス・クインテット」風味な演奏ですね。

もちろん、マイルスは参加してませんが、「マイルスの影」が演奏の端々に感じる事が出来ます。特に、ドラム（笑）。